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コラム

BIMと桜

2016.04.14

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

今年も桜を楽しむことができた。名所に出かけたり、花見をしたというわけではないが、日々
目にしている景色の中に美しい彩が加わったことで、晴れやかな気持ちになった。
桜が私たちを楽しませてくれるのは、一年のうちせいぜい10日から2週間程度だろう。それ以
外の期間は、花、花柄や落ち葉の清掃、毛虫や樹液への対応などかなり手間がかかるはずであ
る。桜が美しいと能天気に喜んでいられるのも、手間をかけて桜を育てている人たちのおかげ
だと思う。公園や河川沿いなど公共の場もさることながら、マンションや個人住宅など私有地
で桜を育てている方々に感謝したい。写真は自宅近くの桜である。マンションのシンボルツ
リーのようでもあり、このように立派な桜とともに暮らすのは誇らしいことであろうが、維持
するのは大変だと思う。そのおかげで通りすがりの私が桜を愛でることができるわけだ。有難
いことである。

話は変わるが、先日私が勤める会社の設計部OBが集まる会があった。久方ぶりに、かつての
上司や先輩にお目にかかりとても楽しいひと時を過ごした。私が入社した1986年当時コン
ピュータといえば大変高価で使いにくいものと考えられていた。一部の業務では威力を発揮す
るが、コンピュータを使って設計しようという人は皆無であった。パソコンは何台か導入さて
いたが、CAD用ではなかった。そんな中、コンピュータという「新しい」道具に可能性を見い
だし、設計業務の中でコンピュータを使ってみようという人が少なからずいた。そのうちの
一人のOBから「なにがBIMの利用を阻害しているのか」と問われた。「操作が難しい」「お金
がかかる」「面倒だ」「時間がない」などいろいろな理由を挙げたがかつてCADやコンピュー
タを使わない利用として挙げられたものと同じことを答えていた。ひと言でいうと「BIMを使
わなくても設計できている」ということだろう。今ではCADを使わない設計者はいない。10年
後にはBIMを使わない設計者はいなくなっていると予想する。問題は活用のレベルだ。コン
ピュータ利用は個人の能力の格差を縮小する方向に作用する部分と拡大する方向に作用する部
分がある。BIMは、能力の格差を拡大する方向に作用させる部分を多く持っていると思う。能
動的にBIMを使いこなすことでより多くの成果を得ることができる。早く気付いて欲しい。

桜を育てている人は自分が楽しむために、手間をかけ桜を維持しているのだと思う。私たちは
そのおこぼれを頂戴しているに過ぎない。BIMで成果を上げている人たちも自分のためにBIM
を活用し、その成果を公表してくれている。そのおこぼれにあずかるように、一人でも多くの
設計者がBIMに興味を持ち、BIMを使い始めるようになって欲しいと切に願っている。

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長