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コラム

BIMと人工知能

2016.06.16

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

先日、松尾豊先生の講演を聞く機会があった。豊田さんのコラムでも触れられているが、AIの
研究者として最も知られている一人である。「大人の人工知能」と「子供の人工知能」という
話が印象に残った。「大人の人工知能」とは、専門家が獲得した知識や技能をコンピュータに
教え込んで、コンピュータを人間以上に働かせようというものだ。ビッグデータの解析やSiri、
ペッパーなども「大人の人工知能」に入る。
一方「子供の人工知能」とは、コンピュータ自身が試行錯誤を繰り返しながら学習し、発達す
るもので、子供が出来ることが出来る人工知能といえる。赤ちゃんは、人の顔を見てそれを人
の「顔」と認識するようになる、ものをうまくつかめるようになる、ものには名前があること
などを成長の過程で学んでいく。人間の発達と同じように、コンピュータが自ら学んで発達す
る人工知能のことを「子供の人工知能」と呼んでいた。例として、UCバークレーで開発され
たロボットを挙げていた。片手に穴の開いた板を持ち、もう一方の手にボルトを持って穴にボ
ルトを入れるという作業をさせたところ、最初はうまく穴に入らなかったが、何度も試行錯誤
を繰り返しながら、最終的には常に間違いなく穴にボルトを入れられるようになったというも
のだ。どうすればうまく穴にボルトを入れられるかを、人間があらかじめ教えて(プログラム
化)おくのではなく、穴にボルトが入った状態だけを教え、どのようにすればその状態になる
かはロボット(人工知能)自身が学びとっていくというものだ。
これまでの人工知能の研究は「大人の人工知能」の線上で続けられてきた。一定の成果はあり
実用化されているが、社会を変革するには至っていない。一方、「子供の人工知能」は社会に
変革をもたらそうとしている。そして「子供の人工知能」の活躍が期待される分野として農業
と建設を挙げていた。どちらも市場規模が大きいにもかかわらず、自動化・ロボット化が進ん
でいないという理由からだ。
 
かつてこの欄で人工知能と建築を結ぶためには、建築をデジタル情報化する必要があり、BIM
はその中核であるというようなことを書いたが、これは「大人の人工知能」のことなのだと気
づいた。写真は先日オスロに行った時に撮ったものである。人工知能がこのような建築を設計
するようになるかどうかは分からないが、それは「大人の人工知能」の領分である。今取り組
むべきは「子供の人工知能」をどう活用するかであると、松尾先生は言っていた。建設産業で
人工知能を活かすことを考える際は、BIMのことはわきに置いておいて「子供の人工知能」と
いう観点から建設を見てみる必要がある。これまで難しいと思っていたことが「子供の人工知
能」を活用すると案外簡単かもしれない。「子供の人工知能」という観点で、建設生産を見直
してみよう。

    Statoil社オスロオフィス

    Statoil社オスロオフィス

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長