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コラム

機械創造学

2016.07.08

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  機械創造学(Computational Creativity)という新しい分野がある。コンピュータは
    創造性(Creativity)を持ち得るか、という問いに答えるべく、人工知能学、認知心
    理学、哲学、そして芸術学の学際的な分野として注目されつつある。
 
竹中  コンピュータが創造性を持つには、創造性を数式で記述できるか否かが要になる。
    技術的においても、倫理的においても、人工知能の分野における最大の難題だと言え
    るだろう。
 
岡部  コンピュータが創り出す芸術に関する研究は、1950年代から現在に至るまで、様々
    な試みを見ることができる。例えば、コンピュータグラフィックスのパイオニア
    A. Michael Nollが発表した論文「Human or Machine」(1966年)も興味深い。
 
竹中  その後、コンピュータの計算能力の向上によって、図形配置のプログラムに留まるこ
    となく、人工知能の分野において人間の創造性を探る分野として発展を見せてきた。
 
岡部  近年では、IBMのコグニティヴ・コンピュータを用いた料理アプリ「シェフ・ワトソ
    ン」も記憶に新しい。食材や調理方法に関する膨大なデータから、コンピュータが意
    外性あるレシピを発想するのだという。

竹中  人が持ち得ることのできない情報量のクラウドから、新しい組み合わせを見つけ出す。
    ただ単にランダムな組み合わせ論に終わることなく、あくまでも「創造性の高い」レ
    シピを生み出すのだ。
 
岡部  そもそも、創造性って何だろうか。
    辞書によれば、創造性とは「新しいものを造りはじめること」とある。
 
竹中  創造性とは、単なる「ものづくり」を示すのではなく、「新しさの創発」を指してい
    るはずだ。それは、地球上の生き物たちが生み出す多様な形態のバリエーションでは
    なく、むしろ、無の世界から生き物が創り出されてきた進化の工程を彷彿とさせる行
    為といえる。そこには、圧倒的な飛躍を見ることができるのだ。
 
岡部  バリエーションとクリエーションを混同してはならない。
    真の創造性とは、バリエーションから選出されるものではなく、突然変異とも捉える
    事のできる既成概念の逸脱だと言える。
 
竹中  人の脳を目指して進化してきたコンピュータ。そのコンピュータが目指すべき創造性
    に、人類が想像のつかない進化を許容することは出来ない。コンピュータは、我々の
    豊かな創造性を増幅させるパートナーとして、あくまでも道具としての共進化を目指
    すべきなのではないだろうか。

 図版1 A. Michael Nollが描いたコンピュータ・グラフィックス

 図版1 A. Michael Nollが描いたコンピュータ・グラフィックス


 図版2 Piet Mondrianが描いた「Composition With Lines」

 図版2 Piet Mondrianが描いた「Composition With Lines」


 出典元:論文「Human or Machine」
    

竹中 司 氏/岡部 文 氏

アンズスタジオ /アットロボティクス 代表取締役 / 取締役