Magazine(マガジン)

コラム

BIMに酔う

2016.07.14

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

最初にご報告です。前回のコラムに関して、いくつか大変貴重なアドバイスをいただきました。
結論としては、「どうやらFreeでダウンロードできる精度良い建物モデルは現状日本にはない」
が答えのようです。しかしながら、国土地理院の「地理院地図3D」*1では、標高データがstl
形式でダウンロードできることがわかりました。これとCAD mapper・Google Earthを組み合
わせれば(CAD mapperにも標高データは含まれていますが精度は地理院地図のほうが高い模
様)、多少時間はかかりますが無料でもある程度のレベルまで行けそうだ、というところが結
論です。ここに御礼申し上げます。ありがとうございました。またこれを機会に、それ以外の
皆様もお読みいただいてありがとうございます。引き続き、何かありましたら是非ご指導ご鞭
撻をよろしくお願い申し上げます。
 
さて、つい先日同僚から「BIMモデルをチェックしていたら3D酔いした」というメールが来て、
対応について話し合ったことがあります。
 
私は乗り物酔いにはめっぽう強く、船の中で文庫本を読んでいたりしても平気なのですが、ど
ういうわけか車の中で長時間iPhoneを操作している時だけは気分が悪くなります。試行錯誤の
結果、下を向かずに前を向いて操作すれば改善することがわかりましたが、「そういうことは
しない」というのが本来出るべき結論であることには薄々勘づいています。
 
そんなわけで、私は画面でモデルを長時間操作していても特段なんともありませんが、BIM関
係で酔ったことがあるとすれば、初代Oculus Riftを付けてモデルの中を長時間動きまわった時
です。これはOculusが云々というより、私が感覚的に慣れていなかったことが主要因かもしれ
ません。また、新しいOculusは解像度等グレードアップしているのでより「酔いにくい」だろ
う、という感じはします。Microsoft Hololensはどうなのか、早く試してみたいものです。ニ
コニコ超会議のJALブースに行けばよかった。誰か持ってる方いませんか。
 
マインクラフター(ゲーム マインクラフトのプレーヤー)はじめ、ゲーム内での3D酔いは有
名です*2。3Dならずとも、手ブレの多い動画を長時間見続けて酔った経験のある方も多いと
思います。対策の1番手は「画面から1m以上離れる」ということなのですが、残念ながら
BIM実務者にはちょっと達成できそうにありません。動きまくるモデルと細かいフォントの双
方を見つめなければならない我々は、実は脳と眼をかなり厳しい環境に晒しています。
 
ちなみに私が冒頭の問いに回答したポイントは、
・ディスプレイをできるだけ暗くして、周囲とのコントラスト差を下げる
・必要なければ全画面表示にしない、画面のリフレッシュをスムーズにしてチラツキを減らす
・Orbitの操作に慣れる、回転中央を指定する癖を付けてカメラをぶん回さない
・カメラ位置をこまめに保存して、モデル内でウロウロする時間を減らす
などです。私も酔いにくいとはいえ、思い起こすといろいろと対策をとっていたことが改めて
わかりました。ひょっとするとただ「酔い」に対する感度が鈍いだけだったのかもしれません。
 
3D酔いの原因の一つは、モニタ内での画面と実体験との感覚のズレにあると言われています。
自分の体の動き(によって得られるであろう視野の動き)に反して画面が動いた時などがそれ
です。以前、「左右反転メガネ」という、その名前の通りの機能のメガネを試したことがあり
ますが*3、グループのうち何人かはすぐに酔ってしまっていました(私は酔いませんでしたが
転びました)。こうした平衡感覚の乱れは如何ともしがたく、3D技術ではともするとリアルに
近づけば近づくほどかえって酔う「不気味の谷」もあるかもしれません。
 
根本的に、BIMをはじめとする3D設計には「現状使える入出力デバイスのほとんどが2次元拘
束である」という根本的な制約があります。標準的なセッティングでは、平面上のモニタに、
机上のマウスその他を使ってモデルを入力していくわけで、3次元を3次元のまま扱うには、入
力にも出力にも隔たりがあります。図面やスケッチといったところに多く依拠することもあり、
モデリング作業の大半は2D画面で行うほうが操作性がよい、ということになります。
 
3Dマウスも試したことはあり、ナビゲーション的には慣れるとかなり快適なのですが、ソフト
ウエアによっては2D拘束があるので3D空間で直接モデリング、というわけにはまだなかなかい
きません。VR/AR技術は年々進化しており、これがプレゼンテーションだけでなく普段の画面
のように使えれば色々と変わるだろうと想像しています。しかし一方で、WordやExcelが3D化
しても特に嬉しいことはなく(Excelのグラフはちょっと見え方が変わるかもしれませんが)、
モデリングのためだけだとすると一般への普及はまだ先かもしれません。
 
本当は、BIMでズバズバと仕事を片付けるその効果の方に酔いしれる……というオチを最初に
考えて書き始めたのですが、そこまで綺麗にまとめられるほど何事もスムーズには行かないの
が現実です。代わりと言ってはなんですが、3D酔いに効く「内関」という手首のツボは、二日
酔いにもよく効くようです*4。押え方は下の画像をご参照ください。
 
*1 国土地理院 地理院地図
*2 3D酔いが辛いときの対策・対処法
*3 日本スリービー・サイエンティフィック株式会社 逆さメガネ
*4 二日酔いは本当にツボで治せるのか?

 内関の押え方
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のママズアップへリンクします。

 内関の押え方
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のママズアップへリンクします。

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ長 / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授