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コラム

IoB(Internet of Buildings)

2016.09.21

ArchiFuture's Eye                 日建設計 山梨知彦

■IoB
今回は、IoB、つまりInternet of Buildingsの話だ。
「IoBって何だ? 初耳だぞ」と、思われた方。貴方の記憶力は優れていますよ。なぜならIoB
は、Internet of Thingsを捩ってつい先ほど僕が捏造した造語なのだから。(笑)
ドイツを中心に、蒸気機関による自動化、その電気化、そしてコンピューター化に続く第4の
工業化の波の到来が「インダストリー4.0」として掲げられ、その目指すところがものづくり
の大量生産=マスプロダクションから「マスカスタマイゼーション」であり、その手段の一つ
がIoT=Internet of Thingsつまり全ての工業生産物をインターネットで相互に接続し情報
を交換し、相互相乗りで操作をしようと試みられているあたりの事情は、このArchiFuture
Webの読者の皆さんなら、すでにご存じのはずだ。
建築は、今でも固有の敷地に個別に生産される側面が強いため、完全には工業生産物とは言え
ないが、大半が工業生産物でもあるため、今後確実にIoTの影響を受けていくはずだ。いや、
IoTの活動の場の大半は建築の内部であろうから、建築はその内部で発生する人間のアクティ
ビティをデジタル情報化するためや、内部にうごめくIoT化された工業生産物とのデジタル情
報の交換のために、多くのセンシングディバイスを装備してインターネットに接続された状態
に成らざるを得ないだろう。このインターネットに接続され、ディバイス化された状態の建築
を、「Internet of Buildings」と勝手に名付けてみた。
 
■IoBは夢物語か?
IoTすら満足に実現されていないのに「IoBなんて夢のまた夢。当分実現するわけがない」と
いう声も聞こえてきそうだが、僕はそうは思わない。
なぜなら、多くの現代建築では、内部の機械設備の相互連動がメーカーの壁を越えてすでに実
現されているし、天井を見上げれば、セキュリティのためのデジタルディバイスは既に建築に
満載されており、それらが遠隔地にネットワークを介して送られ、監理されている状況は、な
にも珍しいことではない。これらが適切に解放され、インターネットを介して情報のやり取り
ができるための距離はわずかにしか過ぎない。IoTに先んじてIoBが進み今までものつくりビ
ジネスとしては後塵を拝してきた建築ビジネスが、ものつくりの中心に躍り出ることが出来る
かもしれない。
 
■ICTがもたらす建築デザインの6つの変化
このように僕自身はIoBをICTが建築デザインや建築ビジネスにもたらす大きな変化の一つだ
と考えているが、IoBのほかにも5つ、合計6つの変化がICTによって同時にもたらされている
と考えている。どれ一つが欠けてもうまくなく、これらが同時一体的に成長をすることで、
ICTは建築に大変革をもたらす可能性がある。
1つ目は、コンピューターシミュレーションで、一品生産物である建築物を、生産する以前に
コンピューターの中で試行錯誤してみることが出来る技術であり、これにより建築の質は大き
く向上していくことが期待できる(図1)。
2つ目は、コンピュテーショナルデザインでデザインに際して建築家に人間の能力を超えた
沢山のパラメーターを同時に、かつ合理的に扱える力を与えてくれる可能性を拡大してくれた
(図2)。
3つ目は、デジタル・ファブリケーションで、モノづくりを大量生産からマスカスタマイゼー
ションへと転換するための具体的な方法を指示している(図3)。
4つ目が、IoBで、建築自体をデジタルディバイス化することで、建築をIoTの流れに乗せると
ともに、ICTがもたらす恩恵を、建物のクライアントやユーザーへと直接還元するためのカギ
となる技術。同時に、建物の完成で完了していた建築の建築家の関わりを、建物のライフサイ
クル全般へと拡張する可能性をはらむ(図4)。
5つ目は、A.I.すなわち人工知能で、1から4までの変革に必要となる知的労働の増大を担い、
実現していくための大きな後ろ盾となることが期待されている。
そして、6つ目は、BIMである。1から5までの変革がいずれもICTとデジタル情報によりもた
らされていることから、紙に描かれた二次元の図面ではなく、時代にふさわしい建築の設計と、
生産と、運用のための各種建築情報交換のためのプラットホームとしてBIMはその地位を高め
ている(図5)。
 
ICTが建築界にもたらすこれら6つの変革の全てが、既に建築の実務の中で使われ始めている
ことを考えてみると、IoBがIoTの先駆けになる可能性は思いのほか高いのではなかろうか?

 図1:On the waterでの、設計時のシミュレーション

 図1:On the waterでの、設計時のシミュレーション


 図2:ラゾーナ川崎東芝ビルのファサードを生成したプログラム

 図2:ラゾーナ川崎東芝ビルのファサードを生成したプログラム


   図3:初期のデジタル・ファブリケーションを実践した木材会館のファサード

   図3:初期のデジタル・ファブリケーションを実践した木材会館のファサード


        図4:初期のIoBの事例。旧ソニーシティ大崎のバイオスキンの制御

        図4:初期のIoBの事例。旧ソニーシティ大崎のバイオスキンの制御


 図5:ホキ美術館のBIM

 図5:ホキ美術館のBIM

山梨 知彦 氏

日建設計 チーフデザインオフィサー 常務執行役員