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コラム

100年、スマホから金メダル

2017.01.26

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

ここ数年、社会変化の大きなうねりを実感している。情報収集と人とのコンタクトをスマホや
PCを利用することが普通の生活スタイルとなった。コンピュータ技術の展開によるICTやビッ
グデータによるIoT化が進み、目まぐるしい勢いで気づかないうちに世界中がネットワーク化
され変化している。デジタル化によるメディアやスマートフォンなどの通信映像関連技術の発
展と展開は、新しい価値観や新文化創出の可能性を示すものとも言えるが、国のリーダーの選
択にも大きな影響を及ぼし、オリンピックの誘致、ポケモンGOのゲームや娯楽、スポーツの
レベルアップトレーニング、調理、手術、遠隔作業、建築、デザイン、芸術、家庭生活などで
VR(仮想現実)AR(拡張現実)、MR(複合現実)利用技術の展開とICTやIoTなどと相まって大き
く変化を遂げつつあり、これに追いつけない側面やデジタル遺産など課題も見え始めている。
 
この変化の象徴ともいえる携帯について少し触れたい。ジャーナリストの野村進氏が執筆され
た本、「千年、働いてきました」によると、日本には、創業100年を超す企業が中小を含める
と5万社以上あり、これは世界に類がなく、国の体制の変化や国民性、戦争などと原因はさま
ざまだと考えられるが、日本に際立って集中しているという。千年を超える企業も存在し、西
暦578年の飛鳥時代に創設され1400年以上も継続している金剛組は、難波の四天王寺の建立
が仕事始めの世界最長寿企業と見られ、現在でも事業を展開している。
そして、携帯電話・スマホやタブレットには、この創業百年を超える「老舗企業」の技術と知恵
が、たくさん詰まっているという。例を挙げれば、折り曲げの部分には、京都の300年を超え
る金箔屋さんだった会社の技術が活かされ、電磁波を防ぐ銀の塗料、配線基板の小型化なども
この会社によるものだという。着信などを振動で知らせる機能は、日本橋で百数十年前開業の
両替商からスタートした会社の技術。今では、金の売買でも有名な会社。携帯の心臓部とも言
える発信器は、神奈川の老舗企業で、この技術は、世界中の携帯の重要な地位を占めている。
液晶画面関連は、明治時代にランプや鏡台を製造していた会社の技術。廃棄される携帯電話な
ど約3.5トンから1キロの金の延べ棒を生み出すノウハウは秋田県の山中にある銅山会社の技
術転用だという。全ての企業が、当然、百年以上の老舗ばかり。携帯に象徴できるデジタルと
ICTの新ツールが、これらの老舗企業に支えられているといっても過言でない。
一言で百年というが、長い時間と歴史の積み重ねといえる。今では世界に冠たるトヨタが、
試作車を世に問うたのが、1935年。ホンダは1948年に創業されている。共に、まだ80年と
70年を超えたか超えるところからも理解できる。
 
これらの100年を超す老舗企業の技術で東京オリンピックの金メダルを「都市鉱山」のPCや
スマホから造る夢の提案があった。ブラジル・リオ五輪では、金・銀・銅を合わせて、
5,130個が製造されたという。東京オリンピックでは何個を製造するのか知るところではない
が、日ごろのスマホや携帯の恩恵を考えると廃棄した機種から造られた金メダルも日本の技術
ならではの感があり、是非、実現して欲しいと思う。
 
前述の大きな社会変化は、「もの創り」に支えられている。併せ、創ることや表現の向こう側
には必ず「人」がいる。ICT化とIoT化が進めば進むほど、直接、相手と会い「顔と顔」「目
と目」「声と声」などの身体体験でのコミュニケーションが、もの創りと表現には、さらに重
要となると考えている。時は、移ろいやすく流れも速い。この時の流れの中で直接、人に会う
ことが、大切だということをスマホについて考えている中で改めて重要なことだと思い起こし、
再度、自分自身の肝に留め、今後も行動したいと考えている。限られた時間の中であと何人の
刺激的な人と出会えるのか楽しみにしている。

松家 克 氏

ARX建築研究所 代表