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コラム

レゴのような入力デバイスが欲しい

2017.02.23

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

実際に触たことがあるかどうかはともかくレゴ (LEGO) をご存じないという方はほとんど
いないのではないだろうか。デンマークで生まれたプラスチックのブロック玩具である。正確
にはレゴ (LEGO) は社名とブランドであり玩具そのものはレゴブロックと呼ぶらしい。日本
では1962年から輸入販売されている。
現在でこそ様々なキャラクターを模した人形や、多くの色と形状のパーツが揃っているが、昔
はプリミティブな直方体のブロックが中心で、色も数種類の原色と白黒くらいだった。車輪や
ドアといったパーツもあったが、それほど多種類でなかったと記憶している。

レゴに夢中になる子どもは少なくないと思う。筆者も物心がつく頃に小さな住宅のセットを買
い与えられたことがきっかけとなり、レゴが大好きになった。それ以来どんどんパーツが増え、
いつの間にか大きな引き出しがいっぱいになってしまった。残念ながら小学校の高学年になる
頃には感心が薄れてしまったが、ひところは他の玩具には見向きもしないほど熱中していたの
である。
当時何を作っていたかはよく覚えていないのだが、少なくとも建築を作っていたという記憶は
ない(笑)。ただ、プリミティブな形状を組み合わせて3次元の立体を作るという遊びが、後
に建築に興味を持つ一因になったのではないかと思っている。

時は流れて建築の勉強をすることとなり、設計課題や先輩の手伝い、設計事務所でのアルバイ
トで模型作りをするたびに、レゴのことを思い出した。単純な形状ではあるものの、スタディ
ならレゴを使えば模型よりも手軽に試行錯誤ができるのに……、と考えたのである。しかし、
かつてあれほど熱中したレゴは中学生になる前に年下の従兄弟に貰われていき、試してみる機
会には恵まれなかった。
それから少し経ち、PCで3次元を扱えるような時代が来る。初めて触ることができたアプリ
ケーシンは今はなきダイナウアによるダイナパス (Dynapers) だた。1MBのフロッ
ピーディスク (2HD) 1枚で起動しメインメモリ640KB、解像度640 x 400ピクセルのNEC
PC-9801シリーズで3次元の建築モデルを作成し、隠面処理を施したシェーディング表示がで
きたのだから恐れ入る。現在のBIMのような複雑なモデルを扱うことはできなかったが、手軽
に形状を作成して見上げてみたり中を歩いてみたりできるだけで十分であった。

その頃から3次元のモデルを扱うインターフェイスとして、マウスよりももっと直接的で直感
的なものがあれば良いのに、という思いが募った。端的に言えば、レゴで作った形状がそのま
まコンピュータのデータになれば良いのに、ということである。
それ以来30余年、「レゴのような入力デバイスが欲しい」と思い続けている。

どうすれば実現できるのだろう、などと考えてみた時期もあったが、残念ながら電子工作方面
の知識がないため、皆目見当がつかない。ただ、ハードウェアだけで解決するのではなく、ブ
ロックの接続情報をソフトウェアで処理する、という手順が必要であろうとは漠然と考えてい
た。
1990年代の後半になって、ブロック型の入力デバイスに関する研究プロジェクトを見つけた。
ブロック同士の接続情報を回路として検知しようとしているようだったが、結局実用化には至
らなかったらしい。
最近、センシングによってブロックの位置関係を検知する研究があるらしいことを知り、久し
ぶりに期待に胸を膨らませている。これはそれぞれのブロックに光学センサを持たせ、隣接し
た周囲のブロックを検知するものらしい。それぞれのブロックが自分と周囲の状況を把握する
ことができれば、全体がどのような姿をしているかがわかるようになるだろう。
勿論、実用化されるまでには多くの課題を克服する必要があると思われる。それでも最近のセ
ンシングやIoTの進化を見る限り、「レゴのような入力デバイス」は思いの外早く登場するか
もしれない。

デバイスの実現については専門家に任せるとして、近い将来レゴのようなデバイスが実現した
ら、どのような使い方ができるかを考えてみよう。
BIMが普及している現在では、3次元の形状データの効率的な作成とコンピュータへの入力だ
けではもったいない。機械設備や電気設備のシステム構成や、各種のシミュレータのモデル定
義などにも利用できるだろう。また、ブロックに様々なセンサを取り付けることができれば、
センシング技術を活用することでモデルをコンピュータに取り込んでシミュレーションを行う
という従来のプロセスに加え、現実のモデルが受ける物理世界の出来事をデータとしてコン
ピュータに取り込むことも可能となるかもしれない。

このところ注目されている「インダストリー4.0」というキーワードに代表される次世代のモ
ノづくりにおいて、現実世界をそのままリアルタイムにコンピュータ上に再現する、デジタル
ツインが重要な要素であると言われている。
建築生産におけるBIMがデジタルなモデルをもとに現実の建築を再現するフィジカルツインな
のであれば、竣工後の施設運営・維持管理は現実の建築における出来事をモデルデータにして
いくデジタルツインである。勿論、建設プロセスにおいてもデジタルツインは必要である。こ
のように建築領域でのインダストリー4.0では、デジタルからフィジカル、フィジカルからデ
ジタルの双方向の連携が鍵となっていくのだろう。レゴのような入力デバイスは、建築生産の
ためのBIMモデルをデジタルツインとするためのフィジカルモデルと位置づけられるかもしれ
ない。

建築とレゴの両方が好きという人は多いと思う。今世紀に入ってLEGO Architectureというシ
リーズがリリースされるようになり、多くの有名建築がカタログに追加されている。また、特
定の建築ではなく、自由に自分の建築を作るというコンセプトのLEGO Architecture Studio
に至っては、これがそのまま入力デバイスであればいいのに、と思わせるに十分なものである。
まだまだ玩具の領域を出ていない、という意見もあるだろうが、それでも「レゴのような入力
デバイスが欲しい」という思いは強くなっている。

 LEGO Architectureシリーズの外箱(筆者所有のものを撮影)

 LEGO Architectureシリーズの外箱(筆者所有のものを撮影)

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部サービス推進部エンジニアリング部門設計情報管理センター 担当部長