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コラム

BIMで見える化して見えてきたモノ

2017.04.27

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

このところBIM、IoT、AIの3つのキーワードがセットで語られる場面が増えてきた。設計か
ら運営維持管理まで、建物情報を統合管理するためにBIMのあるべき姿を議論していた人たち
からも、「BIMとIoTとAIを組み合わせてなにかやれ、と言われているんですよ(苦笑)。」
などという会話が聞こえてくるようになった。
BIMもIoTもAIもそれぞれが深遠なる領域であり、建築分野で活用するにはどれをとっても未
だ課題山積である。それをまとめてなんとかする…ということなのだから、なかなか大変な話
である。
 
まとめてなんとかするのは大変なのでIoTやAIはとりあえず横に置き、BIMの話を続けよう。
 
設計から運営維持管理まで、建物ライフサイクル全体でのBIMを活用する場合、BIMモデルを
「統合された建物データベース」と捉えるとイメージがしやすい。そのため、BIMの大きな特
徴の一つである「建物の見える化」についても、BIMモデルという建物データの記述形式の視
点から考えがちだった。
改めて「見える化」とは何かを調べてみると、プロジェクトマネジメントの分野では「 “視覚
化”は情報がただ見えているだけであるのに対して、“見える化”は見たものに対してフィード
バックができ、見た後にアクションができること」とされていることが分かった。今更このよ
うなことで感心していてはいけないのだが、評価分析をして次の改善につなげる情報の見方と
理解することにした。
 
まだ存在していない建物をBIMモデルとして見ることで、干渉をはじめとする問題点がフィー
ドバックされ、それを解決して現実の建物を適正に実現する行動につながる。なるほど、これ
だけでも建設工程においてBIMが見える化の手段として有効であることがよくわかる。
それでは竣工後はどうだろう。これまで形状データと属性データを連携させることで、「指定
した機器の種類や性能諸元がわかる」「部位や機器の数量を抽出して修繕計画が立案できる」、
といったことがファシリティマネジメント分野でのBIM活用として語られてきた。しかし、こ
れらはBIMを用いることで手順が効率化されてはいるが、必ずしもフィードバックや次のアク
ションにつながるわけではない。しかも、効率的になるのは建物の提供側であって、建物オー
ナーやユーザーに対する明確な価値提供になっていない。効率化はコスト低減につながるが、
それだけではなかなか魅力的なものには見えないだろう。
このあたりがBIM-FMがなかなかビジネスにならない理由とは考えられないだろうか。
 
そんなことを悶々と悩んでいた昨年末、それまでとは少し視点を変えた取り組みの機会に恵ま
れた。
 
2016年12月に開催された第1回スマートビルディングEXPOにおいて、筆者の勤務している
NTTファシリティーズは、様々なセンサーを用いたビル運営や維持管理の効率化と高度化に関
する展示を行うことになった。しかし、センサーで取得したデータが有益なものであっても、
展示会の来場者に短時間で有益性を実感してもらうことは容易ではない。そこで、展示ブース
のBIMモデルを作成し、センサーで取得した情報をBIMモデル上にリアルタイム表示する
ビューアを作成することとした。
闇雲に名前を付ければ良いというものでもないが、BIMにダイナミックにその場の現象を表現
させるこのツールは、開発中にいつしか関係者から”Dynamic BIM”と呼ばれるようになって
いった。
 
展示ブースには、照明人感、室温をはじめとする22種類のセンサーが設置された。これらの
センサーで得た情報をBIMモデルで表現するデモンストレーションを行った。主なものをあげ
てみよう。
・床は人感センサーの計測範囲と合わせたエリア分けをし、そのエリアにいる来場者数に合わ
 せて色を変える。
・天井の照明とファンは、画面で指定されたものの稼働状況を時系列にグラフ表示する。別の
 照明やファンが選択されれば、その稼働状況をグラフ表示する。
・温度や湿度もエリアごとのセンサーから取得したデータを基に状況をリアルタイムに表示す
 る。
・棚に置いた本やファイルをセンサーで取得し、置かれた場所に動的にBIMモデル内にも本や
 ファイルのオブジェクトを配置する。
 
センサーで取得した情報をBIMで表示しているだけ、と言ってしまえば身も蓋もないのだが、
現在の展示ブースの状態を動的(ダイナミック)にBIMモデル上に表現するだけで、温度や湿
度、照明やファンの稼働状況、来場者の動き、ものの置かれ方といった現在起きている現象が
BIMのUI(ユーザーインターフェイス)を通して見えるようになる。仮想空間をウォークス
ルーで移動しながら、現在(または過去の)現象を体験することができるわけである。
たとえば、来場者の分布をみれば、どの展示物がより多くの関心を集めているかがわかる。混
雑を緩和したり他の展示物への誘導を行いやすくしたりするには、この情報をもとにしてレイ
アウト変更を考えればよい。温度や湿度が来場者の分布と関係していることが見えれば、より
快適に展示を見てもらうための空調制御もできるだろう。なるほど、情報がフィードバックさ
れ、新たなアクションを喚起している。しかもこの仕組みは、建物を提供する側だけではなく、
建物を事業ツールとするオーナーやユーザーにもフィードバックを行い、次のアクションを喚
起できそうである。これがファシリティマネジメントにおけるBIMの見える化の一つの姿とな
るのではないだろうか。
ようやく竣工後の建物において、BIMが見える化すべきものとそこから創出される価値が見え
てきた。
 
IoTを「センサーで取得したデータを評価・分析・解釈(センシング)し、アクションを判断・
選択して実際に操作(マニピュレート)する自律した系」と捉え、人間ではなくシステムに
フィードバックしてアクションを喚起できるようにすれば、IoTは見える化を体現する仕組み
として機能する。取得したデータをより適正に解釈し、どのように対処すべきか判断させるに
はAIの手を借りることになるだろう。マニピュレートの手段を広げるには、ロボティクスの力
が不可欠となる。システムで閉じずに人間が建物で起きている現象をとらえて次に打つべき手
を考えるには、BIMのUIが有効となるだろう。BIMがモノのインターネットのモノとして当た
り前のように使われる日も近いかもしれない。
 
未だ課題山積ではあるが、それでもBIMとIoTとAIを組み合わせてやるべきこともまた、見え
てきたのではないかと思っている。

 スマートビルディングEXPOでのデモンストレーション画面

 スマートビルディングEXPOでのデモンストレーション画面

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 エンジニアリング部門  設計情報管理センター