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コラム

大きなBIMと小さなBIM

2017.07.11

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

この3・4年で、ゼネコンを中心としたBIMモデルの活用が急速に広まった感がある。建築生
産段階でBIMモデル活用の効用を得る必勝パターンは、日本建設業連合会(日建連)建築生産
委員会IT推進部会BIM専門部会が言うところの「モデル合意」であろう。BIMモデルで納まり
の調整・確認を終えてから各種の図面を作成する手続きを踏めば、施工図・製作図にかかる工
数や施工段階における修正・手戻りを大幅に削減できることは、先述のBIM専門部会が公開す
る「施工BIMのスタイル」の事例を見ればわかる。もはや、BIMモデルを用いた、構造体や二
次部材と設備配管、あるいは設備機器や外装材の支持部材との、自動/目視による干渉チェッ
クは、現代の建設プロセスに欠かせない手続きである。こうした取り組みを先導してきたゼネ
コンは、事前調整を済ませたBIMモデルを扱うBIMソフトウエアで実施設計図/施工図/製作図
を作図して、それらの作図・修正にかかる工数をBIMの導入以前よりも削減したり、BIMモデ
ルを積算に活かそうとしたりする取り組みに移っている。おそらく、今年あたりを転機とし
て、実施設計/生産設計/施工計画の段階でBIMモデルを活用しようとする機運が、ゼネコンの
現業部門でますます広がりを見せていくであろうことは想像に難くない。

しかし、これらの多くの事例が、大きなプロジェクトであるからBIMの効用を得られやすいと
いう意見にも一理ある。例えば、中小規模の集合住宅や事務所建築は、設備配管や外装の支持
部材がさほど多くない。そのため、それらと構造体の干渉は、BIMモデルを用いずとも頭の中
や2次元図面で容易に回避できる。このようなケースにBIMモデルを用いて作図前の調整の意
義を見出すことは難しい。では、こうしたプロジェクトへのBIMの導入は無駄な投資だろう
か。否、そうでない。筆者が以前に、当コラムの「下町BIM」に書いたように、複雑でない建
物で、1人で何でもこなさなくてはならない小規模なプロジェクトほど、BIMモデルから、平
面図・立面図・断面図、実施設計図・施工図、積算のための情報などを得ることの効用を最大
限に享受できるはずである。こうした効用は、BIMソフトウエアを素のまま利用しても得難
い。図面表記や積算書式などBIMソフトウエアのテンプレートやオブジェクトの準備が肝要で
ある。そうしたデータを共有するオープン・ライブラリが、小さなプロジェクトにBIMを導入
するための社会的基盤になると思う。

以上のことを整理すれば、大きなプロジェクトは、BIMモデルを用いたモデル合意で不要な支
出を抑制する効用を得やすいが、プロジェクトが大きく複雑であるが故に図面化や積算情報の
活用に手間が掛かりそうである。一方、小さなプロジェクトは、図面化や積算情報の活用で業
務効率化の効用を得やすいが、設備配管や外装の納まりがあまり複雑でない故にBIMモデルを
用いた事前調整の効用をあまり期待できそうにない。このように、建築生産領域におけるBIM
の効用と課題は、プロジェクトの規模によって反転する。つまり、プロジェクトにBIMを展開
する際に、建物の特性に合わせたBIMのスコープ設定が重要である。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授