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コラム

今、日本の空が騒がしい

2017.10.03

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

人類初の人工衛星は、1957年にソビエト連邦が打ち上げたスプートニク1号。この年から60年後の現在までに数千の人工衛星が打ち上げられているという。今では、機能と用途は多岐にわたり衛星技術にも格段の進歩がみられ、通信衛星、放送衛星、地球観測衛星、航行支援衛星、気象衛星、科学衛星、軍事衛星、偵察衛星、国際宇宙ステーションなど枚挙に暇がない。日本では、国際宇宙ステーションへの参加をはじめ、ハレー彗星探査機“彗星”、火星探査機“のぞみ”、小惑星探査機“はやぶさ”、金星探査機“あかつき”、欧州と共同での彗星探査機計画“ベピコロンボ”、小惑星探査機第2弾の“はやぶさ2”、X線天文衛星“ひとみ”など、日本ならではの各種衛星が活躍中や計画中。現在、自前の打ち上げ技術を持つ国は、ロシア、アメリカ、日本、中国、インド、イスラエル、ウクライナ、イランの8ヶ国と、フランスとイギリスの技術を移転した欧州宇宙機関(ESA)の1機関のみである。尚、韓国は2018年に自前の衛星打ち上げを目指しているという。
ウィキペディア(抜粋)によれば、日本の宇宙開発は、1950年代に糸川英夫氏が大学の研究として、30cmほどの小さなペンシルロケットと呼ばれた小型ロケットの開発から始まったという。その後、徐々に大型化。衛星が打ち上げられるレベルに技術が到達したころに国も宇宙開発専門の機関を設置し、二つの宇宙開発機関が独自にロケットの開発を担ってきた。1990年代末から2000年代の初めに幾つかの失敗を経験した後、調整を経て、初めて統一された宇宙航空研究開発機構=JAXAが設置された。他国の軍事優先の発展方法と異なり、戦時中の研究を除き、民間の大学が国より早く開発を始めた経緯が特徴的であるという。

現在、日本の主力ロケットは、H-2A。次世代のH-3も鋭意開発中。気象観測衛星“ひまわり”は、初期を除き今では、このH-2Aで打ち上げられている。得られた気象情報を最新コンピュータ技術で分析。その結果を気象予報とし、東アジア・太平洋地域にも提供している。今後、さらなる“ひまわり”の充足が計画されているという。
準天頂衛星システム“みちびき”は、主に日本地域向けの地域航法衛星システム。JAXAが中心となり、システム構築を目指している。2010年9月11日に技術実証のための1号機が打ち上げられ、3号機が今年の8月、4号機が10月に打ち上げられる。2018年に日本独自の4機体制での運用開始を計画。最終的には7機体制を目指し、今のGPSの誤差のおよそ10mを最小6㎝とする計画。建築、車のAI自動運転、地震予知、土木、農業など多用途への応用利用が期待され、東南アジアやオーストリアでの利用も可能。最近は、ロケットと衛星の『モバイル管制』が可能となっている。新たに開発された搭載点検系の機器と簡素な地上設備をネットワークで結んで自律点検機能を持たせ、これにより、数人とパソコン数台でロケットの打ち上げ前点検や管制を行うことが可能になった。セキュリティ上の問題があるが、原理的にはインターネットを通じて世界中のどこでもPC1台で全ての管制が可能だという。併せ、従来のPCに比べ何千兆倍もの計算能力があるとされる量子コンピュータの登場が間もない。もし、実現すると宇宙開発のスピードが増すものと考えられる。これらの宇宙開発の発展と展開を支えているのが、コンピュータの最新技術だ。この進歩とともに衛星と打ち上げ技術が、格段に進化しているといっても過言ではない。

あの世界の「キヤノン」が、ミニロケットの打ち上げに今年1月に挑戦、失敗に終わったが、近々中に再挑戦するという。7月には、この「キヤノン」と「IHI」と「清水建設」とで宇宙関連開発の会社を設立し本格的に参入した。「エイチ・アイ・エス」と「ANAホールディングス」は、宇宙関連開発ベンチャー企業「PDエアロスペース」に出資。9月の14日に単一のエンジンでジェットからロケット燃焼モード切替の技術実証に成功した。北海道のロケット開発ベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」は、小型ロケットの打ち上げを民間単独で計画し、キヤノンと同じく民用品でコストを削減。世界一安いロケットを目指し、2020年ごろには超小型衛星の打ち上げを予定している。「アクセルスペース」は、超小型人工衛星の開発製造及びソリューションの提案を手がける企業。超小型衛星の開発目的で2008年に設立されている。既に複数の衛星を開発、軌道に投入した実績を持つ。「カーティベーター」は、空飛ぶ車の開発。「アストロスケール」は、宇宙ゴミの除却を目指す。加え、「JAXA」は、ドイツと共同開発の深宇宙探査機“DESTINY+”を打ち上げる予定の小型ロケット“イプシロン”の開発や月面の資源を「アイスペーク」とで共同開発するなど、遅れていた日本の空と宇宙産業が活性化している。今の日本上空は、上記の宇宙開発に加え、世界で好評の“HondaJetビジネス機”、“三菱MRJ旅客機”、これに歓迎出来ない“北朝鮮のミサイル”や昨年の過去最高のスクランブル発進件数1,168回などが目白押しで騒がしい。米国で先行する民間ベースの“スペースX計画”は、宇宙服の試作品を8月に発表した。加え、ドイツの「リリアム」が、世界初の“電動垂直離着陸ジェット”のテスト飛行に成功したという。日本は、ライト兄弟の世界初飛行から僅か7年後の1910年12月19日に日本初の飛行に成功している。この歴史や外国に比して劣らない日本の独自性とパイオニア的で冒険的な開発を期待している。

建築分野では、大林組、清水建設など大手ゼネコンが宇宙の将来を見据え始めた。“国際宇宙ステーション”も建築ともいえるが、コンピュテーション技術の発展とともに、宇宙エレベータ、月面基地、太陽光宇宙発電などの構想、そして、建築家が提案する大気圏に達する超超高層建築など、多くのアイデアと創造性で建築関係者が参加し身近な領域に宇宙も転化しつつある。宇宙を目指すことは、夢というよりも我々人類にとって切実な課題なのかもしれない。「車椅子の物理学者」の「スティーヴン・ホーキング博士」は、これから100年後くらいに人類は宇宙にコロニーを持たざるを得ず、地球外でも暮らすようになっていると予想している。しかしながら科学が人類に甚大な被害をもたらす可能性がある時代なのだ。地球滅亡の前までに、人類はその技術を獲得できるのだろうか。



松家 克 氏

ARX建築研究所 代表