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コラム

立体ネットワークの中の自由人

2017.10.12

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

施工の段階でBIMを導入する際にはいくつかの大きなハードルがありますが、その一つに“常
に工事が進んでいる”状況があります。
工事が進んでいる状況では、日々現場では数多くの変更がおきておりBIMを変更する作業がそ
の変更に追いつけなかったりします。一度デジタルの世界と現実が切り離されるとそれらを再
びつなぎ合わせる事は非常に困難で、出来たとしても既に竣工した後になってしまうのではな
いでしょうか。
単純な理由として、現場では多くの作業員が複数の工種の作業を同時に行なっていますが、
BIMのモデリングにはそれほど多くの人数をかけられない事があります。
これは、BIMのコラボレーション機能等を使って出来るだけ多くの人で分担する事や、パラメ
トリックなモデリングをする事で変更への対応を簡単にする事が有効です。
 
私の場合、特にエンジニアリングや製作・施工検討への対応をするときには、基本的に最終案
が決まるまでは出来るだけ全部を完成させません。まずは部分的に検討内容に合わせてパラメ
トリックにモデリングを始め、その後それらをアッセンブルしておおよその形を作りながら、
部分と他への影響を同時に検討していきます。
施工の検討というと何となく原寸スケールの情報が必要なイメージがありますが、何らかの検
討をする場合、それに必要な情報というのは限られており、単純にベースとなる基本ジオメト
リだけでよい場合や、ある限られた部分の詳細だけでよい場合がほとんどです。
例えば、鉄骨では溶接組み立ての検討でなければ開先が正確に入力されている必要はないです
し、計測計画でも部材の芯と計測点の部材だけがあれば良かったりします。必要な全てを完成
させる手間を省く事で対応スピードを上げられ、かつ検討のポイントがコロコロ変わる状況に
対応しやすいというメリットがあります。
検討のポイント(パラメーター)が変わると言うことはデジタルコンストラクションを考えるう
えでは大きな要素で、極端に言えば、デザインではある程度デザイナーの思想をもってパラ
メーターを決め込む事ができ、ファブリケーションでは作る対象だけを検討すれば良い上に工
場と言う“恵まれた”場所なので事前のパラメーター決定や変更が可能ですが、コンストラク
ションでは異なる立場の人が入れ替わり立ち代わり関わる中で、多くの不測の事態がパラメー
ターになっていきます。
そのため、重要なのは目的を理解して必要な情報が何かをおさえる事と不測のパラメーターを
設定できる様にしておく事です。検討の過程では多くのプロから得た知識や情報を整理してデ
ジタルに変換していく必要があり、これは経験を積み重ねることで対応できる事が増えていく
のではないかと思います。
 
既存の施工技術であれば経験の蓄積があり、経験豊富な上職者に聞くことで解決できることが
多いのですが、BIMのようなデジタル技術は導入されてから日が浅いこともあり、そのように
聞いて解決できる人がそばにいることは少ないのではないでしょうか。
そのような状況もあり、私自身は情報ネットワークの重要性を感じております。ネットや
Archi Futureのようなイベントで情報を収集することも多いですが、やはり人のつながりで得
られる情報は最も深く知ることができます。こんな事を言うと主催者に怒られそうですが、セ
ミナーやパネルディスカッションではたいてい控室での会話やその後の懇親会が一番おもしろ
かったりします。インターネットを介したネットワークによる広い情報と対面ネットワークに
よる深い情報、この立体的なネットワークの中を自由に動き回れる人が今後のリーダーとなっ
ていくのかもしれません。
 
ちなみに清水建設にはBIM作業者の為の社内SNSがあり、全国の主に施工BIMにかかわる実務
担当者が参加しています。年に1~2回は一か所に集まって顔を合わせながらの情報交換会を
行う事で、他部署他支店の人柄や技術・知識を知り、全社的に質問がしやすい環境づくりをめ
ざしています。
このSNSサーバは私が8年ほど前に余っていたPCを使って構築したものなのですが、当初そこ
まで使われるとは思っておらず、メンテナンスやバックアップシステムを作っていないまま昨
年HDDがクラシュしてしまいいまだに安定稼働に至っていません。皆さんもついうっかり
データを削除したり、保存していない状態でPCがフリーズした事があると思います。どんな
システムもトラブルは起きるものです。重要なデータは二重三重の保険をかけましょう。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長