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コラム

BIMとデザインの自動化

2017.10.26

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

BIMを使うと建築業界に何が良いことが起きるでしょうか。「全プロジェクトBIM化」という
言葉をよく耳にするようになった今日、BIM化されたプロジェクトで実際にどれだけ良いこと
が起きたかという話よりもBIMが導入されたことによって起きた問題の方が個人的には相談さ
れることが多いように感じます。誤解を招かないように最初に意見を述べるとするとBIMとい
う概念を否定する内容ではありません。各社がBIM化に向けてかなりの投資をして臨んでいる
部分でもあるために、このBIM化よって生まれた新な問題についてはあまり語られにくい部分
です。BIM化でどれだけ成果をあげることができたかという記事が溢れ、問題について語られ
ないのです。もちろん3Dで建物を捉えることが一般化してきたことによて情報を共有する
方法が変わり、それによって生まれる円滑なコミュニケーションも生まれてきています。この
ように効果を出すための成功するBIMの使い方を考える上でBIMと一般3Dジオメトリモデル
との違いを理解することが大変大切になります。それでは、BIMの変革期ともいえる現在、
どのようにBIMとデザインとの両方に向き合っていくべきでしょうか。

BIM化は確実に進みます。手描きの図面からCADが導入され、今やほとんどの事務所が製図版
ではなくパソコンを使い、マウスで製図することが一般化したようにBIMを扱うことが標準に
なる時代は想像するよりも早く起きることは間違いないでしょう。製図版からパソコンへの移
行の主な理由は、製図という情報媒体を作成する上で効率化が図れ、かつ書き手による差異が
少ないという標準化が容易であったことです。CADからBIMモデルへと変換することで、図面
には現れなかった部分も共有できるため、情報としての精度が上がり読み手による捉え方の差
異が減少されることでより標準化が高度に行われるといえるでしょう。

それではなぜ多くの会社でBIMに関わる人が苦労し、活用しきれていないと感じているでしょ
うか。まず、BIM化を進める上で、必ず必要になるのが入力作業です。想像してみてください。
CADで入力していたものは図面に表記する部分で切り取られた建物のほんの一部の情報にすぎ
ません。図面に載らない部分が山ほどあります。しかし3Dで建物の情報を全部入力するとなる
と、どうでしょう。今まで製図の労力以上がかかることは容易に想像がつくと思います。それ
に加え、BIMモデルという専門的な共有情報として整えた形式上でつくる必要があります。単
に3Dモデルをパース用につくる、ムービー用につくるのは全く作業が異なるのです。結果、
BIMを採用したプロジェクトが実際のプロジェクトの速度にBIM入力が追い付かないという場
合が多くみられます。それは計画段階でも施工段階でも同様です。幾度にも重なる変更から取
り残されたBIMのモデルを必死に追いつかせるために入力をし続け、入力後にある「円滑な情
報共有」が目的のはずが入力作業だけでBIMの役割が終わってしまうケースをよく耳にします。

この問題に対する解決策は、この作業に対応できるだけの入力速度を保つためにデザインの自
動化という部分が重要になってきます。プロジェクト全体を把握した人が、どの部分を従来の
CAD製図のようにBIMの手入力で行いどの部分を自動化するかという判断が非常に必要にな
てきます。次にその自動化する部分の内容によってデザインの自動化専門の技術者が、どのソ
フトを使って自動化プログラムを書いていくかを検討します。例えば、基準階があるような従
来の設計手法もしくは各社の基準があるような平面の操作で解決できるモデル部分はBIM化が
有効でしょう。構造計算で随時部材の取り合いやサイズ変更が最後までありそうなものは芯出
しだけを他の操作の軽い3DソフトRhinoceros+Grasshopperで行い、それをRevit+Dynamo
へ繋いで部材を一度に配置、変更できるように構成します。BIM用、3D用のソフトは開発する
上でソフトウェアデザインという開発者の思考の元で作られているため、すべての項目で完璧
なソフトというのは存在していません。建築をつくるには、複合的な問題解決が求められます。
ソフトウェアも柔軟に使い分けることで素早い解決へと導きます。

BIM化を義務づけるあまりBIMソフトに縛られることを避けべきです。BIMのデータは共有用
のデータであり、検討用のデータとしては情報量が多すぎて不向きなのです。特にデザインの
検討段階では、変更が部分的ではなく、抜本的なものになることが多くBIMでは対応が追い付
きません。多くの建築のプロジェクトは想定以上に複雑で、短い時間の中で常に解決策を求め
らるものです。どこかで平行して変更や検討が起こり、その整合性をとるためにかなりの時間
を費やします。もし、これが工業製品だとBIMデータを完璧に制作したら次に同じものを作る
ときに使えるということがありますが、建築の場合はそうはいきません。BIMデータそのもの
ではなく何が次のプロジェクトにも使えるか、それはデザインの自動化の部分です。

このように、BIM化によって3Dで検討することが一般化したことでジオメトリのデザインパ
ターンを検討し、入力の自動化の方法をプログラミングでカスタマイズしていく必然性が生ま
れました。各企業のBIM化によって生まれた問題の解決策を模索し、設計をBIMモデル入力作
業から解放し、建物のデザインの自動化の手法をBIMマネージャーだけではなく、建築と生産
に携わる専門のすべての人が真剣に向き合うことで本来の役割を果たすBIMモデルというもの
が出来上がります。その各専門家の間を繋ぐ技術こそが、ジオメトリデザインエンジニアリン
グであり、問題の解決策を形状に落とし込むための技術です。設計者がBIM、形状検討、設計
をすべてを担うことはそのプロジェクトの規模が大きいほど不可能になります。BIMマネー
3Dの専門であるジオメトリデザインエンジニア設計者が一緒に共同していくことで、
新しい建築の情報共有の形が成熟していくことでしょう。


石津 優子 氏

GEL 代表取締役