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コラム

BIM的な発想

2018.01.05

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

毎年恒例になるのだが、私の研究室では3年生後期のゼミとして「有名建築はいくらで建てる
ことができるのか」という課題に取り組んでいる。このゼミは、BIMソフトウエアを用いて学
生が選んだ有名建築のBIMモデルを作成し、それから得られる様々な数値を用いて積算をし、
設備を除く建設費を見積もろうというものである。このゼミで外部足場の見積り方法を説明し
ていた時のこと、学生はBIMモデルの平面図と立面図で寸法を計測し、枠組み足場の寸法と照
らし合わせて足場の架け面積を計算し始めた。学生「工事現場を想像しながら足場の架け面積
を計算するのも中々大変ですね」 ⇒ 私「枠組み足場1ユニットのサイズで作ったBOXを並べ
て個数をカウントすれば架け面積が出るのでは?」 ⇒ 学生「確かにそれがBIM的ですね
積算という作業に没頭すると、BIMソフトウエアというツールの特性を忘れてとにかく計算し
ようとする。それはそれで積算の学習として悪くないのだが、少ない時間で成果物を出すため
に発想を豊かにしてほしいと願う。

20年ほど前になるが、私自身が2次元CADでマンション新築工事の躯体図を描いていた時に、
外壁タイルのブロック図形を配置して、それに合わせて窓の位置や躯体欠き込みの形状を調整
していたことを思い出す。タイル割りを計算しながら図面を描くことと比較してはるかに効率
が良いと感じていたし、必要があれば外部参照を切り替えて寸法を入れ、同じデータからタイ
ル割り図を出力もした。こうした作図方法は図面のデジタル化だからこそ為せる技だと思って
いた。建物をその形態のままデジタル化できるBIMソフトウエアでは、もっといろいろな技を
繰り出すことができる。

現在、CLT構法の集合住宅の工数調査をさせていただいており、調査を担当してくれている学
生がパネルの取り付けにかかった時間で色分けをした「その日に取り付けたCLTパネル」の
BIMモデルを毎日更新して共有してくれている。それを見ると現地にいなくても、作業順序や
前段取りなどに対する改善的なアイデアが次々と脳裏に浮かぶ。こうしたひらめきは、Webカ
メラの画像や数値データのグラフ化では得られない。それらの情報を組み合わせて可視化でき
るBIMモデルならではの効用である。
大上段に構えなくとも、BIM的な発想は様々な業務を改善できる。しかし、BIM的な発想力は、
BIMの知識やBIMソフトウエアの操作を知らねば身に付かない。そうした教育プログラムが業
界団体から提供されると将来の建築業界に明るい日差しが差し込むと思う。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授