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コラム

技術は何のためにあるのか

2018.01.11

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

前回のコラムはジャカルタに行く飛行機の中で書いたのですが、到着後自分が関わった超高
層ビルを引き渡し直前で見に行くことができました。
このプロジェクトに関する私の取り組みはこれまでもいくつかの場所で発表する機会があり
ましたが、現場でも様々な取り組みをしています。
 
ジャカルタという今まさに発展をしている場所性もあって、このプロジェクトでは様々な
チャレンジをしたのですが、結果としては初期工程から7ヶ月も短縮することができました。
建設業界では“日本の常識は世界の非常識”と言われることがあります。しかし“世界の非常
識”の中には海外だからという理由で妥協していて、実は“日本の常識”に本気で取り組めばイ
ノベーションを起こせるものも少なくありません。
 
日本では少しでも効率的に工事が進むように非常に複雑な施工計画をすることが珍しくあり
ません。建設地の条件による問題や構造の複雑さ等があっても短工期を実現させるためには、
単純に建てていくわけには行かず、BIMで施工ステップを見える化しながら、様々なエンジ
ニアの意見を取り入れて検討を重ねていくのは常識になっています。
多くの場合、海外ではそのような複雑さは現地の施工会社や作業員に理解されないため敬遠
されがちで、納まりや手順は単純であることが良しとされています。
しかし、日本同様にBIMによる見える化は理解度が高く、多少複雑であっても内容を共有す
る事ができます。
 
ただしBIMと言うのはあくまでも計画段階のもので、現場で起きるトラブルや変更に対応し
きれるものではありません。日本でも少なからずありますが、海外の場合は作業員にどの様
に伝えるかと言うことは非常に重用な課題です。母国語以外での会話によるミスコミュニ
ケーションや、そもそも“約束”があってないようなものだったりと、日本の工事ではあまり
気にしなくとも良い部分にトラブルの種が多くあります。
会議室や朝礼の会場に大型スクリーンを設置し、言葉だけでなくビジュアルで伝えると言う
のは一般的ですが、これはあくまで一方通行の伝達で、双方向のコミュニケーションにはな
りません。
そこで役に立ったのがSNSをプラットフォームとした情報共有でした。工事の目標や実績、
現場で起きた問題等をその場で共有することが可能になります。また、情報は多くなってく
ると見逃すリスクが出てきますが、情報管理の担当者を置くことで、必要な情報が必要な人
に渡るようになります。
 
多くの人が関わる場合のICT活用には“用意したからやってね”と言うのは意味がなく、関係
者がちゃんと使いこなせるような環境を整備して初めて活用に繋がると思います。
様々な新技術やサービスが出てきていますが、技術を導入することは目的ではありません。
大きなプロジェクトの完成を見て改めて自分が何の為に取り組んでいるのか考えさせられ
ました。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長