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コラム

IPDとBIMによる仮想引き渡しの実施

2018.02.01

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

BIMが建設業界で認知されて久しい。しかし、これまで国内では発注者や建物オーナーからの
認知度は必ずしも高いとはいえなかった。認知はされつつあるものの、自分たちの建物でBIM
を導入するメリットが感じられない関係のないもの、と思われていたのかもしれない。この発
注者と受注者のBIMに対する捉え方のギャップは、日本のBIM元年と言われる2009年から今日
に至るまで、大きく変わってはいないと感じていた。
改めて書くまでもないことだが、元々BIMは米国で建設や施設運営コストの適正化を目的に、
発注者が主導し普及が加速した。勿論作る側の生産性向上や効率化への寄与が普及を後押しし
たが、やはり発注者の主導は大きいだろう。
 
ファシリティマネジメントや建物ライフサクルマネジメントの視点でデータマネジメントを考
えると、BIMは建物情報を集約し、様々な関係者間や工程を横断したデータ共有の手段として、
最適に近いものだと思う。竣工時に現実の建物に合致した情報が提供されれば、引き渡し後に
発注者が施設運営や事業で建物データを利用できるはずである。
発注者にとってBIMを導入するメリットはあるはずなのだが、積極的にBIMを活用するという
雰囲気はまだ醸成されていないようだ。発注者がBIMを必要とし、主導するには何が必要なの
だろう。
 
最近、この疑問に対するヒントになるかもしれない案件に関わる機会を得た。データセンター
のオーナーであり、データセンタービジネスの事業者が発注する大規模データセンターの新築
プロジェクトである。
データセンターという建物は、一般的な建物と比較して設備比率が高いこと、竣工後も運営と
並行して工事の発生頻度が高いこと、信頼性と可用性の確保が最重要、等が特徴となっている。
そのため、建物のライフサイクルコスト(LCC)が高額になる傾向があり、それが価格競争力に
影響を与えることとなる。
発注者はこのような観点から、設計や施工から運営や運用保守に至る建物ライフサイクルマネ
ジメントと建物データマネジメントを適正に行う手段として、BIMの導入を発注要件とした。
実現するデータセンターに対するビジョンとニーズ、それらを実現するためにBIMに求めるべ
きことを、明確にイメージしていたということだろう。
 
発注者がプロジェクトへのBIM導入に求めたものは、イニシャルコストとランニングコストの
両面から見た建物ライフサイクルコストの最適化、運営や保守が考慮された設計と施工の実現、
事業者の立場から設計を進める際のもの決めに直接加わること、と言ったものであった。
このプロジェクトでは、全体の定例会議にとどまらず、すべての専門分科会の定例打ち合わせ
に発注者のメンバーが参加し、発注者と受注者でもの決めを行った。専門分科会の中には運用
保守の検討グループも含まれており、建設工程と並行して竣工後の運営や運用保守の検討が実
施された。
筆者は設計監理のBIM担当者の一人としてこのプロジェクトに参加した。建築、機械、電気の
各工事会社のBIM担当者とともにBIMチームを結成し、BIM実行計画の策定からはじまる一連
のBIM導入に関わったのである。勿論BIMチームにも発注者がメンバーとして参加していた。
 
このような経緯で、発注者と受注者でのIPD (Integrated Project Delivery)が実践されること
となった。発注者と受注者の打ち合わせは、プレゼンテーションの場ではなく、課題の共有と
それをどのように解決していくかの議論の場となった。結果として、合意形成や意思決定が思
いの外早く進んだと感じている。
IPDの実践において発注者から特に求められたのは、運用保守性が十分に考慮された設計だっ
た。そこで、BIM実行計画策定の中で、「仮想竣工したBIMモデルから運営・運用保守に必要
なデータを抽出してFMデータベースに引き継ぐフローの確認」と、「運営・運用保守業務の
視点から建物を評価する」という二つをBIMによる仮想引き渡しとして定義した。生産設計の
成果物として完成させた仮想竣工BIMによる仮想引き渡しを行い、運営・運用保守の視点から
適正にオペレーションとメンテナンスができるかを確認する。問題があれば設計にフィード
バックさせることを目標とした。
 
建設工程から運営工程への建物データの継承については、これまでもBIMのメリットとされて
きた。竣工後の建物運営や運用保守をどのように行うかの検討をフロントローディングすれば、
建設時にBIMモデルに入れるべき属性データ項目を決めることができる。このプロジェクトの
仮想引き渡しでは、竣工時の建物データの引き継ぎを前提とした上で、データ移行の手順を竣
工後に発注者が自ら業務として問題なく実施することができるかを検証した。
運営と運用保守の視点から建物を評価する点については、BIMビューアーを用いて発注者に仮
想竣工BIMで業務手順を確認してもらうこととした。使う側から適正な建物になっているかを
評価し、課題があれば設計にフィードバックしたのである。当初はBIMツールによるモデル評
価も考えたが、容易に操作が習得できるBIMビューアーの方が適当であることで合意した。発
注者はBIMビューアーで仮想運営保守業務を行い、モデル内に直接コメントを記入してチェッ
クバックする。これらの方法と手順も、発注者と受注者による議論の中で決めていった。
これまで運営や運用保守でのBIMの活用は、属性データの引き継ぎが中心になると考えていた。
しかし、今回の仮想引き渡しで形状データもファシリティマネジメントや建物ライフサイクル
マネジメントにおいて重要な情報になることが確認できた。
 
仮想引き渡しを検討する中で、発注者からは「建物が要件通りの性能と機能を満たすのは設計
と施工の責任で当然実現されるべきである。事業者としてはその前提で運営と運用保守を行う
立場から課題を指摘していく。」という言葉があった。これはIPDのような協働形態において、
それぞれの立場を尊重しながらより良いものを目指していく上でとても重要であり、僭越では
あるが発注者として非常に立派な姿勢であると感じ入った。
一方、受注側のBIMに対する議論や意見に対し、発注側から「建物を作ることしか考えていな
い。」といった指摘を頂戴することもあった。このような、時としてはっとするような気付き
があることも、発注者と受注者がIPDをする価値となった。
 
冒頭にも書いたとおり、これまで発注者はBIMに興味を示さないという印象があった。ところ
がごく最近、事業への付加価値の観点からBIMを理解しようとする発注者が現れはじめている。
BIMの理解が進めば、IPDのような協働形態も認知されていくに違いない。「発注者が主導す
るBIM」は国内でも思いのほか早く広がるかもしれない。

 屋上の配管。発注者からは、この場所を通る際にどのような機器を持っているか、その装備で
 効率的な運用保守をするために通行スペースはどうあるべきか、といった問題提起があった。
 受注者がそれらを理解した上で、効率的かつ安全な運用保守の実現について議論し、配管ルート
 を再検討した。

 屋上の配管。発注者からは、この場所を通る際にどのような機器を持っているか、その装備で
 効率的な運用保守をするために通行スペースはどうあるべきか、といった問題提起があった。
 受注者がそれらを理解した上で、効率的かつ安全な運用保守の実現について議論し、配管ルート
 を再検討した。