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コラム

ICT企業と精密農業

2018.02.08

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

今年も「Archi Future 2018」と「コラム」をよろしくお願いします。
 
昨年、居酒屋の常連との話で、「おやっ」との違和感があった。ICT系の情報企業の若いビジ
ネスマンだと理解をしていたところ、八ヶ岳の農場への長期出張の話が出た。よくよく聞いて
みると彼の勤務するICT企業が経営と運営をする八ヶ岳の農場だという。情報産業と農業が真
逆の組み合わせだと考えていたら、最近の新聞記事に最先端の情報技術と農業を組み合わせた
ビジネスモデルが“Precision agriculture=精密農業”だとあった。この精密農業とはどのよう
な農業なのか?
 
ウィキペディア(抜粋)によれば、精密農業とは、既に18年も前の2000年代初頭に確立され
ている概念だという。最先端技術との組み合わせにより、農地・農作業・農作物の観察と分析、
そのデータに基づく対応を図り、きめの細かい制御で収穫量及び品質の向上を目途とするとい
う。蓄積した関連データに基づき次年度の計画を立てる農業管理手法圃場でもあるという。位
置測定、収量測定、土壌調査、圃場のリアルタイムセンサーなどを統合的に分析し、データに
よる次の対応を図っているともいう。
さらにウィキペディアによれば、一見、均一にみえる圃場において空間的・時間的に気温土壌
肥沃度や土壌の不均一の水分を認識して制御することで収穫量などの改善を目指し、統計され
たデータを最先端技術で分析と予測をするという。情報通信技術を積極的に導入することによ
り、各要素を数値化して管理を行う手法の導入でもある。農業のスマート化は、画像解析やリ
モートセンシングなどを活用することで農場の状態情報を数値化して、ビッグデータを様々な
視点・知見から分析することで、単位面積の収穫量の増加や低農薬化、作物の高付加価値化、
省力化などを実現するという。一例として農作物の波長別の反射係数と生育状況の間には相関
があることが知られており、これまでは、作物の生育状況を把握するためには葉緑素計
(SPAD)を使って葉を一枚一枚挟んで色を測り生育状況を見ていたが、それでは手間がか
かりすぎ一部しか測定できないので、多波長カメラを搭載することで作物の生育度のデータを
収集する農業用ドローンや無人航空機の利用も視野に入れているという。これまでは類似の用
途には衛星写真が使用されてきたが、小回りの利く無人航空機を使用する事により、より手軽
に圃場内での高精度の情報を入手できると期待される。しかしながら、遺伝子の組み換えによ
る羽毛がない鶏の実現や収穫量を増やした遺伝子組換えコーンなどが、ひところ話題になった。
これらの安全と倫理上の課題も見え隠れしている。
 
精密農業と同様に、生物や自然エネルギーなどの自然力利用や応用には、太陽光発電、風力発
電、波力発電、地熱発電、地産地消型の小型水力発電、バイオ利用などがある。温暖化抑制の
低炭素社会を目指すCOP3の京都議定書やCOP21のパリ協定などで、自然力が脚光を浴び始め
て久しく、今では、世界各国での脱石化が共通認識になりつつある。八丈島や奥尻島では、地
熱発電が稼働し島産島消されているという。日本で稼働中の地熱発電は、40ヶ所以上に上り、
世界で10位だという。バイオ関連では、2015年、ベンチャー企業のユーグレナ社が開発を進
めている藻類の微生物の“ユーグレナ=ミドリムシ”を利用したバイオジェット燃料製造に向け、
横浜の臨海部に実証プラントの建設を発表している。発電菌やデンキウナギ、シビレエイなど
の自然界を相手にしたエコ発電の研究も進められている。バイオテクノロジーによる自然との
融合といえる。乳牛が、自動搾乳機に自ら歩み寄り搾乳させる映像を見たが、これなども生き
物の感性とハイテックな仕組で実現しているが、今後の営農の姿を見る思いである。自然・農
業などとハイテクノロジーとの融合で得られた技術の応用と展開は、予測できないものもあり、
今後に大きな期待を持たせる。
 
今の日本農業は、従事者継承者の減少などで先は見えないともいわれる。この環境の中で“気
象衛星ひまわり”“GPS衛星みちびき”の情報など最新技術と農業の連携、情報産業の農業への参
加など、未来に期待できる材料が多くみられるようになってきた。ドローン米もあるというが、
ヤマハが本格的に精密農業に欠かせないドローンの開発に乗り出した。素人の考えだが、広い
圃場や各種の農作物などを管理するには、自ずとビックデータが重要となり、天変事変を相手
とする日常業務などでは、IoTが大いに役立ち、併せ、BIMデータなどのように立体的に把握す
る技術の自然への応用が出来ないだろうかなどとの夢を見た。


松家 克 氏

ARX建築研究所 代表