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コラム

BIMモデル作成のための適正な建築情報伝達

2018.03.13

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

BIMツールを使い始める、というのはそれほど大変な話ではない。BIMツールを入手すること
ができ、BIMを導入していくという方針や意思があり、ある程度の時間をかけてトレーニング
を積めば仕事の道具として利用することができるだろう。しかし、組織でBIMを導入し運用し
ていく場合、BIMモデル作成規約の制定や共通ライブラリの整備、計画的な研修の実施といっ
た、組織としての業務品質を確保するための施策を検討しなくてはならない。組織や業務の規
模がある程度以上になれば、それぞれのスキルレベルや専門分野を考慮した役割分担も必要と
なる。
 
組織でBIMを導入している事例を見ると、設計者自らがBIMツールを操作して設計業務の生産
性や付加価値を向上するタイプと、設計者、BIMオペレーター、プログラマーといった専門家
がチームの中で役割を分担するタイプに大別されるように見える。勿論それぞれに特徴や良し
悪しがあり、どちらがよいか比較をすることに意味はない。それぞれが組織の考え方や業務形
態で最適化された結果なのだと思う。
設計者が自らBIMモデルを作成せずにBIMオペレーターに託す場合、インハウスでのBIMオペ
レーター配置と、アウトソーシングやオフショアといった選択肢がある。どのような体制が最
適なのかは、業務フローや組織としてのビジネススタイルといった要素で決まる。
 
ところで専門家としてのBIMオペレーターを配置する場合、設計者が考えるデザインをBIMモ
デルとして具現化するには、BIMオペレーターにどのような情報を伝達すればよいのだろう。
 
筆者が社会に出た頃、ワープロやCADは専用システムから汎用的なEWSやPCで動作するアプ
リケーションへ移行する過渡期にあった。専門オペレーターだけが操作するものではなくなり
つつあるものの、みんなが当たり前に使うというところまでは普及していない、という状況
だった。一部の新しもの好き(筆者もその一人だった)と、必要に迫られて使わざるを得ない
層が多少の不便さには目をつぶりつつ、今日より明るい明日があると信じて使っていた。
ワープロであれば文章を考える人が手書きしたものを見ながらキーボードを操作し、文章デー
タにするのがオペレーターに求められる仕事であった。この場合オペレーターの価値はデジタ
ル化とメディア変換、加えてデータ作成の速度ということになる。文章としての情報量につい
て大きな変化は無い印象があるが、デジタル化することで検索やデータとしての二次利用が可
能となる価値が付加される。
CADの場合、基本的な作図機能に限定するのであれば、手書きの線をベクターデータ化してい
くという手順に、おそらくワープロと同程度の価値があるのではないかと思う。建築の構成要
素をライブラリ化し、それらをアセンブルして図面を作成する機能が利用できるのであれば、
オペレーターに伝達すべき情報をより少なくすることが期待できる。より簡素な情報の伝達で
求める成果物を得るためには、設計者とオペレーターの間に組織やチームとしての共通のルー
ルや知識、作法があり、それらが共有されていることが前提条件となるはずである。
 
それではBIMモデルを作成するための情報伝達はどのように考えれば良いだろう。
BIMをCADの延長として捉える、つまり3次元の形状モデルを作ることを目的とするのであれ
ば、CADと同じような手が使えそうである。平面図と立面図や断面図と言った情報を伝達すれ
ば、BIMオペレーターがそれらを元に3次元のモデルを組み立てることができる。前提となる
共有情報があれば、より少ない図面情報の伝達でBIMモデルを作成することができるだろう。
しかし、モデルに付加すべき属性情報量が増加すると、図面または図像イメージの情報だけで
モデルを作成するのは簡単なことではなくなる。勿論CADのライブラリと同様にあらかじめ
用意したオブジェクトに属性データを追加しておけば、モノとその配置情報を伝達すること
で、BIMモデルを作ることはできるかもしれない。しかしBIMの次元が上がり、施工手順や工
程管理といった時系列の情報や、オブジェクトの説明や使い方といった意味的な情報が必要と
なる場合、それらを含めたBIMモデルを作成するために伝達すべき情報量は非常に大きく複雑
なものになるように思える。情報量が多くなれば伝達する情報の品質管理や規約の制定が求
められる。
 
BIMモデルをデータベースとして見るのであれば、BIMモデルを作成するために伝達する情報
はデータベースのトランザクションとして考えることができるかもしれない。あるいはアルゴ
リズムとパラメーターで表すこともできるだろう。モデルを意味的に捉えるのであれば、「口
設計」が理解できる自然言語的な情報伝達手順が必要となりそうである。逆にイメージを伝達
するのであれば、非言語情報での伝達を考えるべきかもしれない。
勿論このような情報の伝達手段を実現するには、AIや様々な情報処理技術の活用が前提となる。
最低限の情報を伝達することでBIMモデルが生成される技術が実現されれば、将来BIMオペ
レーターの役割の一部はRPAに置き換えられていくのかもしれない。
 
BIMオペレーターにBIMモデルの作成を依頼する際に、最小の情報伝達コストで適正に建築モ
デル情報を伝達するにはどうすればよいか?という単純な問題を考えれば良いと思っていた。
しかし、今後建築の情報伝達はIPDでの情報共有や分野横断的な情報交換においても重要とな
り、伝達すべき建築情報も肥大化していくことは明らかだろう。このような中で適正な建築情
報の伝達を実現するには、多角的な視点での建築のモデル化と伝達のためのプロトコルが必要
となる、ということがおぼろげながら想像できる。おそらくなかなか答えは見つからないよう
な気もするが、少し検討してみる必要があるとも感じている。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 エンジニアリング部門  設計情報管理センター