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コラム

BIMと建物情報モデル

2018.04.12

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

ArchiFuture Webでコラムを担当するようになってちょうど3年になる。最初のコラムは、
2015年4月に書いた「モデルからBIMを考える」だった。太田利彦氏の‟設計方法論”(丸善,
1981)からモデルの定義を引いて、BIM(BuildingInformation Modeling)で扱う建物情報モ
デル(BIMモデル)を念頭に、モデルからプロセスについて考えたいと思った。今、読み返し
てみると‟BIM”と‟BIMモデル”の使い分けが不明確で、自身の頭の中が整理できていなかった
ことが明らかだ。言葉足らずな点も多々ある。恥ずかしい限りである。今回は、BIMはプロセ
スもしくは考え方を指し、その過程で作成、更新される建物の形状や属性の情報のことをBIM
モデルとして、あらためてBIMモデルと建物のライフサイクルにわたるプロセスとしてのBIM
について考えてみたい。
 
再度BIMモデルに触れたのには訳がある。前回のコラムでも書いたが、このところBIMがAIや
IoTとともに語られることが多くなったような気がする。BIMに注目が集まるのは、それはそ
れでうれしいことであるが、AIブームの終焉とともにBIMも忘れられては困る。そうならない
ためにはBIMモデルの大切さをきちんと認識しておく必要がある。モデルを「ある総体事象の
中からある必要な属性、性能だけを問題にして、その側面に限り総体事象と同じ働きを有する
もの」とすると、建物という総体事象に最も近いものがBIMモデルだと考えている。私たちは、
建物に対して何らかの行為(設計、施工、改修、修繕など)を行おうとする時、その対象とな
る部分だけを取り出して考えている。例えば、新築建物の設計で平面計画をする際には、断面
や立面を含め立体的に考え構造や設備も気にかけながらも、平面を建物のモデルとして平面の
計画を行っている。構造解析や環境シミュレーションの際には、それにあったデータを建物の
モデルとして解析している。図面は、形状という側面に注目した建物のモデルといえる。図面
は視覚的で分かりやすく、情報を伝達するために使い勝手がよかったため長きにわたって使わ
れてきた。
 
しかし建物のモデルという観点からすると図面にも欠点がある。最大のものは、不整合の可能
性をはらんでいることである。図面は、3次元の物体を2次元で表すので、一つの形状を表すた
めに複数の図面が必要になり、不整合の発生を否定できない。私はAIのことは全く分からない
素人であるが、もし建物に関するAIで図面の情報を基にしたものがあるとすれば、危うさを感
じる。それよりもBIMモデルから図面を出力するのにAIの力を借りれないかと思う。BIMモデ
ルから、図面を出力するのが結構難しいと聞く。理屈では可能なのだが、普段われわれが見慣
れている一般的な図面と同じように出力するのが意外と難しいようだ。例外的な処理が沢山あ
り、一筋縄ではいかない。多くの技術者の努力により相当改善されているので必要ないかもし
れないが、一般的な図面とBIMモデルから出力された図面の差異を見つけ、一般的な図面に近
づくよう修正するのはAIの得意とするところのような気がする。非常に地味でインパクトが全
くないが、こんな地味なAIの使い方があっても面白いのではないだろうか。
 
写真は先日行ったパリの新旧凱旋門である。今回のテーマとはあまり関係がないがお許しいた
だきたい。

    旧凱旋門

    旧凱旋門


    新凱旋門

    新凱旋門

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長