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コラム

新しい技術を展開するときに

2018.05.17

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

昨年の今頃初めてのコラムを書いたのですが、その内容がUnityのイベント「Unite Tokyo」
で感じたことについてでした。
今年も5月7日~9日にかけて東京国際フーラムで同イベントが開催され、私もスピーカーの
一人として登壇させていただきました。
ゲームエンジンに関わている方であれば感じていると思いますがこれまではどちらかとい
うとUnityのようなゲームエンジンに可能性を感じた建築業界側からアプローチをしていたの
ですが、最近はゲームエンジン業界側がゲーム以外の産業分野にも興味を持ち始めており、
その中でも建築は特に有効性を感じる分野の一つと思われています。
このような状況や様々なタイミングが重なった事で、関係各社の協力がスムーズに行き、ス
タートから半年しか経っていない今回のイベントで「Unity BIM Importer」というソリュー
ションのリリースを発表する事ができました。
詳しくはHP等で見てもらえば良いと思いますが、非常に簡単に使えるソリューションなので、
BIMデータのさらなる活用を考えている方は気軽に試してみてはいかがでしょうか。現在進行
形で進めているプロジェクトなので使われた方の意見があればどんどん便利になっていくと
思います(ちなみに売れても私には一円も入りません)。
 
近年ではこれまでは無かったような他分野同士の結びつきにより新しい技術が生まれる事が増
えてきていますが、馴染みのない分野の技術というのは、場合によっては「一部のハイテクが
好きな人だけがやっているもの」と敬遠されることもあるのでは無いでしょうか。
だいぶ浸透してきてはいますが、BIMと言うだけで自分には関係ないと避けてしまうような方
もまだまだ多くいると感じます。建築分野のなかですらこの状況なので、違う分野の技術とも
なれば興味をもってもらう事の難しさは想像に難くありません。
放っておいても時代の変化と共に意識や環境は変わっていくものですが、何もせず待っている
のでは全てが後手にまわってしまうので、何かしら手を打たなければなりません。
カリスマあるいはサイコパスと言われるようなトップが率いている業界であれば、トップダウ
ンで一気に変えることもできるかもしれませんが、建築業界にはそのようなトップはおらず、
長い歴史の中で複雑に積み重ねられた社会が形成されています。
となると、できるだけ多くの人にわかりやすく伝えていく必要があります。多くの人にという
意味では導入コストがポイントになり、わかりやすくという意味ではできることの少なさがポ
イントになってくるのではないでしょうか。
オープンイノベーションでは何を開き、何を閉じるかと言うことが議論になると思います。こ
のように立場や環境が異なる関係者に新しい技術を展開するときには、最低限何をわかっても
らえれば自分が伝えたい技術が多くの人に伝わるかという観点で、あえて開く技術を最小限に
絞ることも考えた方が良いと思います。
 
話は変わりますがGW前に足を怪我した影響で、しばらくちゃんと歩けない生活を余儀なくさ
れました。恥ずかしながら自分がそういう状況になって改めてバリアフリーについて考えさせ
られました。様々な人が簡単に使えるということは社会に開く建築を考えるうえでも大事なの
かもしれません。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長