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コラム

BIMをビジネスにするために必要な何か

2018.10.23

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

最近BIMに関心を示す発注者が増えていることを実感する。これまでは考えられなかった複雑
な形状の建物が話題になることも一因だろうが、ファシリティマネジメントに活用できるので
はという期待が大きいのだと思う。建物の構成要素と属性情報を適切にBIMモデルに入力して
竣工時に引き渡せば、建物運用・保守の基本データとして使用することができる。竣工図から
管理対象となる部位機器の数量を拾うことを考えれば、BIMモデルを介して建設時の数量や性
能諸元をデータとして引き継ぐことが如何に合理的か、理解してもらえる。
建物ライフサイクルにおいて建物データをBIMモデルに集約し、設計から運営に至る一元管理
とシングルインプットの徹底を図るには建物の運営方針をできるだけ早い時期に明確にする
同時にBIMの方法論によってデータ項目やデータフローを決定し、ファシリティマネジメント
の方針策定をフロントローディングしていく。と、ここまではファシリティマネジメントへの
BIMの導入メリットとして比較的イメージしてもらいやすい。しかし建物の運営方針を、建設
工程の初期段階から具体的に検討するのは簡単ではないらしい。適正な運営方針に基づく建設
を実施した事例は少なくはないが、まだ当たり前とはなっていない。それでも建設プロセスの
早い段階から、建物をどのように利用していくべきかを具体的に計画する必要性は、BIMを介
して発注者に浸透しつつあると思う。
 
これまで国内でのBIMは効率化の手段として建設業界に閉じた存在となっている感があった
しかし最近、建物ライフサイクルマネジメントを通して、発注者が竣工時の建物の引き渡しと
あわせて竣工BIMモデルの納品を求める事例が見られるようになっている。BIMモデルの納品
を契約要項に明記すると、そこに対価が生じることとなる。竣工後に建物データを活用できる
ことに価値があり、そのためにBIMモデルが役に立つということが発注者に理解されれば、建
物を建てるというビジネスにBIMモデルを納品するビジネスが追加されることとなる。当然な
がら対価を得て納品する場合、受注側は納品するBIMモデルの品質を保証する義務を追うこと
になる。完成させた建物と同じ状態でBIMモデルを期日までに完成させる、という意識も必要
となるだろう。
 
発注者は建物に対する要件イメージは持っていても、それらをアウトプットやオペレーション
を考慮して情報に変換するモデル化手法を熟知しているわけではない。ファシリティマネジメ
ントの視点で、発注者が持つ竣工後の建物運営イメージを、BIM実行計画やBIMモデルに具現
化するプロセスの策定やそのサポートに対するニーズは増えているように見える。この辺りは
BIMをとりまく新たなビジネスの種になりつつあると感じる。
 
とはいえ現在のBIMの価値は、まだ設計・建設から維持管理・保守と言ったハードウェアとし
ての建物の範囲に留まっているように見える。建物を完成させて引き渡し、修繕や改修を繰り
返していくだけでは、従来の建設ビジネスの範囲を超えた価値提供は難しい。勿論、建設業界
内のステークホルダー間でBIMを介した契約や商取引の合理化を進めることはできるだろう。
しかしもう一歩踏み込んで、建設業界の外側からキャッシュインを増やすにはどのようにすれ
ばよいか、を考えたい。
従来の建設ビジネスの範囲を超え、独立したビジネスとしてのBIMが成立するには、ハード
ウェアとしての建物だけにとどまらない価値を発注者に提供する必要がある。そのためには従
来のBIMに何かを追加、または組み合わせることを考える必要がありそうだ。
 
事業や生活を求める状態やあるべき姿にするため、発注者は建物を建て所有し使用すると考え
れば、目的の達成度や価値観といった情報と建物の情報を組み合わせ、評価をしていくことこ
そが新たなビジネスの種になると想像できる。
近年、サードプレイスとしての価値向上を指向するカフェやホテル、異業種交流の促進やそれ
に伴うイノベーション創出の場の提供をセールスポイントとするシェアオフィスといった発注
者層が、BIMに接近し自ら取り組んでいる。これらの事例からも、BIMが新たなビジネスにな
るための何かが垣間見えるこの何かは発注者の業態、目的価値観によって千差万別だろう
案件ごとにこの何かを上手に見つけ出すことが、BIMを独立したビジネスとして成立させるた
めの鍵となるだろう。
価値観の尺度となる雰囲気や居心地、生産性や新規性といった情報は、従来のハードウェアと
しての建物情報と比べて定量的でなく、収集しやすいものでもないだろう。ブランド力や認知
度も重要な価値と言える。今後はこのような抽象的な尺度を情報として収集する手段としての
IoTやセンシング、解釈や評価をするためのAIを考えていく必要があるように思う。
 
BIMを従来の設計・建設から維持管理・保守にとどまらない新分野のビジネスにするには、発
注者の持つ価値観の情報を結びつけたBIMモデルとBIM実行手順を、発注者と受注者が共に作
り上げ使っていくような手法と環境を実現していく必要がありそうだ。建物をハードウェアと
ソフトウェアの両面から捉え、ライフサイクルに関わっていく。ビジネスだけでなく、
Society 5.0につながる情報社会におけるCPS (Cyber-Physical System) の核の一つとして建
物とその情報のあり方が整理された時BIM (Building Information Modeling/Management)
はFIM (Facility Information Modeling/Management) と呼ばれるようになるべきかもしれない


 

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部サービス推進部エンジニアリング部門設計情報管理センター 担当部長