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コラム

デジタルコラボレーション力を育むためのワークショップ

2018.11.13

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

Archi Futureの盛り上がりと共にコンピュテーショナルデザインという言葉が浸透しました
個人的にはコンピュテーショナルデザインとエンジニアリング、コンピュータサイエンスが
混在して語られることに少し違和感は感じますが、長い氷河期を経てデザイン手法として認
知されたことは非常に大きな流れです。

このような時代の変化の中、デジタルデザインを学生時代の時から触れている人と実務の中
で初めて触れる人とが混在した実務プロジェクトの機会が多くなっているように感じます。
特に言葉が認知される前は、実務設計で実働部隊として動いている人たちが必要に応じてデ
ジタルデザインを取り入れていたものが、昨今は会社の方針としてデジタル化を求められて
いるからコンピュテーショナルデザインを取り入れたいという新しい要望が生まれてきてい
ます。

変革期の現在だからこそ、誰もがデジタル化の波から逃れられない現実に直面しています。
専門の人へ外部委託するのか、自分たちで取り組むのか、そういった方針に対する議論が毎
日のように起きています。

実務経験の差とは異なるデジタルという経験値の差が階層社会の秩序を壊しているとネガ
ティブに捉えられることも少なくありません。デジタルツールを使いたくない人でもデジタ
ルの領域へ連れていく、もしくはデジタル領域をアナログへ落とし込むかの2択がプロジェ
クトごと、もしくは細分化された検討要件ごとに必要になります。実プロジェクトでデザイ
ンツール選定自体の議論になってしまうと、ただでさえデザイン検討時間が限られているプ
ロジェクトで抽象的な議論のみで終わってしまうという悲劇が起こることが少なくありませ
ん。

一番有効なのは製図版を習うようにデジタルデザインを教育現場で図学や造形の授業として
取り入れデジタル化することだと感じています。ただし、もう実務へ出ている人たちは遅い
のかというと意欲さえあれば遅いことはありません。常に新しい技術に挑戦し、真摯にもの
づくりに取り組んできた体力があるならば、その取り組みと同様の熱意を持って社内教育に
取り組めば確実に変わります。実経験がある分、学生以上の爆発力もあります。ここでの社
内教育とは意欲や関心がない人に向けて知識を無理やり詰め込む研修のことではありません
ハンズオンのリラックスした環境で、意欲はあるけど手を出す勇気がない人たちへ向けての
自由度の高い学びです。社内の人が主体的になってデジタルデザインに取り組み、実プロ
ジェクトのプレッシャー以外で時間や情報を共有することを目的としています。デジタル懇
親会のような位置づけに近いのかもしれません。例えば、新しいソフトウェアを学ぶのは、
時間と何よりもモチベーションが必要です。失敗ができない実プロジェクトで、全く初めて
のツールを使うことは大変勇気がいることです。特に質問をしても良い空気というのは、締
め切りが迫ったプロジェクトではまず生まれません。デジタルの担い手は人数自体少ないの
で仕事が集中していることも多いため、理解がある人ほど質問に答える余裕がなく、仕方な
くヘルプデスクで聞いたけど思った回答が得られなかったといった経験ある人は多いと思い
ます。



そこで有効なのがハンズオンのワークショップという存在です。実プロジェクトとは別に
ワークショップや小さな勉強会を開催することで、ツールを通したフラットな学びの場をつ
くることができます。横のつながりとしてのデジタルの担い手を増やすことができます。そ
こでは所属や肩書は関係ありません。研修を受ける側の実プロジェクトに対しての新人が教
える側に立つというような関係性が反転する場合もあります。ワークショップという実務と
は違う場だからこそ、ワークショップ参加者は、皆受講者、習う側へ徹することができます
普段は意見をいうという行為自体が無礼だと黙っている人たちが生き生きとする場面をよく
見ることがあります。

フォーマルなカンファレンスやデジタルデザインの議論の場も非常に重要ですが、こうした
カジュアルなコミュニケーションとしてのワークショップがデジタル化を加速させる効果が
あります。そしてそこでの経験を共有することで結束が高まり、業務のコミュニケーション
が円滑になることも期待されます。

新しいものを学ぶためには必ず余白が必要です。お酒を交わす、ミーティングを重ねる、そ
ういうコミュニケーションにプラスしてワークショップや勉強会を自主的に各々のペースで
開催できる余白を残すことができれば、多くの発見が生まれることが間違いないでしょう。




 

石津 優子 氏

GEL 代表取締役