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ユーザー事例紹介

「名古屋城天守閣」木造復元プロジェクト~前編
<竹中工務店>

2018.12.17

1612年に完成し、戦災で焼失した名古屋城天守は名古屋のシンボルとしてSRC造で再建後、
約60年間親しまれてきたが2018年5月7日に閉鎖された。天守として日本最大規模の名古屋
城天守を総木造で復元しようというこの一大プロジェクトについて、公募型プロポーザルを経
て任されたのが竹中工務店だた。同社はそのあとにプロジクトチームを編成。
ARCHICADによるBIMをフル活用しながらこのかつてない取組みを基本設計段階から推進し
ている。プロジェクトチームの皆さんに同プロジェクトの背景とBIM運用の詳細を伺うため、
竹中工務店名古屋支店を訪問した。

大量の古文書に実測図、精緻なガラス乾板写真
ほかに例のない豊富な資料が残っていた宝暦の大修理後の
名古屋城天守をターゲット


名古屋城天守閣木造復元プロジェクト
名古屋城天守が完成したのは1612年、江戸時代初期のことである。当時すでにこの名古屋城
天守は大坂城・江戸城の天守と共に巨大さで他の城郭を圧倒する存在だった。そのあと、江
戸城・大坂城は火災落雷により天守を焼失したが、名古屋城は太平洋戦争末期に名古屋空襲
で焼失するまで日本最大の天守として君臨し続けたのである。この戦災で失われた天守が復
活したのは1959年。一般市民からの寄付金も含めた資金で外観を復元。そのまま今日まで名
古屋市のシンボルとして愛され続けてきた。

 戦災で消失する以前の名古屋城大天守と小天守の写真(名古屋城総合事務所蔵)

 戦災で消失する以前の名古屋城大天守と小天守の写真(名古屋城総合事務所蔵)


しかし再建から約60年が経ち、名古屋城天守はコンクリート劣化や設備の老朽化などが進み、
耐震性能も現行基準に合わなくなっていた。そのため、近年再び建替えの機運が高まり、名古
屋市は復元に関する検討を開始。市長の強い意向で2020年夏東京オリンピックに合わせて木
造復元の方針が示されたのである。これを受け、名古屋市では技術提案・交渉方式の公募型プ
ロポーザルを実施。審査を経て竹中工務店案を優先交渉権者に選定したのである。
「なぜ技術提案方式の公募が行われたのかといえば、特別史跡内に大規模な木造建築物を短期
間で建設しようという、難度の高いプロジェクトだったからです」。そう語るのは同プロジェ
クト設計担当副部長の片庭氏である。「通常、こうした案件では、数年研究を行って課題を明
確化し、基本~詳細設計と進めていく中で課題を解決して設計図書を固め、そのあと、入札に
より施工者を決め……という手順で進めます。しかし、今回は設計だけでは解決できない技術
的な課題が多々ありました」。そこで技術提案・交渉方式(設計交渉・施工タイプ)によりゼネ
コン各社の技術提案を募り、その最も優秀なものに任せよう、ということになったのである。

 株式会社竹中工務店              株式会社竹中工務店
 名古屋城天守閣木造復元プロジェクト      名古屋城天守閣木造復元プロジェクト
 技術担当副部長 林 瑞樹 氏           設計担当副部長 片庭 修 氏

 株式会社竹中工務店              株式会社竹中工務店
 名古屋城天守閣木造復元プロジェクト      名古屋城天守閣木造復元プロジェクト
 技術担当副部長 林 瑞樹 氏           設計担当副部長 片庭 修 氏


では、プロジェクトの何がそれほど問題だったのか。
「まずはスケジュールの問題です。当初、東京オリンピックと同時に竣工させようという計画
で、設計・施工分離では“できるわけない!” というほどのスケジュール感でした。そのあと、
事業承認の手続きの都合によりスケジュールを見直しましたが、時間的な厳しさに変わりはあ
りません。また熊本地震で熊本城の石垣の被害が発生し、石垣の安全対策などの課題も増えて
います」。そのためプロジェクトは、調査~基本計画~基本設計~実施設計~工事施工と進む
通常の進行ではなく、研究を行いながら設計を進め、発注できる仕様が固まった段階で木材発
注も進めていく、官庁工事では類を見ない流れで進められることになった。
まさに多様なレベルの作業が複雑に絡んで進んでいますね」と片庭氏を苦笑いさせる、このよ
うな進行を可能にしたのが、ARCHICADによるBIMの活用だった。このプロジェクトはすべ
てをトータルにBIMで一元管理する、高度なBIM運用のモデルケースでもあったのである。

 株式会社竹中工務店               株式会社竹中工務店
 名古屋支店 設計部 設計7グループ        名古屋支店 設計部 設計7グループ
 課長 岡部 亨一 氏                課長 山嵜 英二郎 氏   

 株式会社竹中工務店               株式会社竹中工務店
 名古屋支店 設計部 設計7グループ        名古屋支店 設計部 設計7グループ
 課長 岡部 亨一 氏                課長 山嵜 英二郎 氏   


多様な史実から建築情報を掘り起こす
1612年に完成した名古屋城天守は、約150年後の1755年に大規模な修理工事を行った。この
時、2層から4層の屋根を銅瓦葺きに変え、石垣上に明かり取り窓を増設するなど姿を変えて
いる。プロジェクトでも「どの時代の城の姿を復元するか?」は課題の一つだったが、いち早
くこの宝暦の大修理以降、焼失する前までの姿をターゲットとすることが有識者会議の中で決
定された。この「名古屋城」については、数多いわが国の城の中でも異例なほど豊富な資料が
残っている。

         「金城温古録」(名古屋市蓬左文庫)

         「金城温古録」(名古屋市蓬左文庫)


「例えば1755年の大修理時の工事報告書的な資料が豊富にあり中でも藩主命令で尾張藩士
が親子2代にわたり記した“金城温古録”は、城内部の様子や使い方まで書かれた希有な資料で
す。また大修理後の城の姿を計測し図面化した“昭和実測図”という、他に類例のない貴重な図
面資料までありました」(片庭氏)。1930年に宮内省から名古屋市に下賜された名古屋城は
として初の国宝に指定された。これを機に、当時の名古屋市は城を詳細に実測して図面を作成。
合わせてガラス乾板写真も撮影したのである。この実測図は、名古屋市の担当者を含め当時の
トップクラスの技術者が天守に足場を掛け、実測調査して図面化したもので、その数は天守関
係だけで71枚にもなる。また、写真もガラス乾板のサイズが大きく高解像度で、大きく引き伸
ばしても細部まで確認できる。

      昭和実測図1(名古屋城総合事務所蔵)

     昭和実測図1(名古屋城総合事務所蔵)


      昭和実測図2(名古屋城総合事務所蔵)

     昭和実測図2(名古屋城総合事務所蔵)


「通常の城では絵図的な資料が数点残されているのがせいぜいで、研究者の先生が実在木造天
守の研究結果から類推し“このように推定できる”と判断していただいて復元していくケースが
ほとんどでした。しかし、豊富な資料が残る名古屋城は複数の資料から信頼性の高い情報を抽
出したり、現代の知識に照らして欠落部分を類推するなどして精度の高い情報を蓄積できます。
まさに史実に忠実に復元可能な、城郭復元プロジェクトに最適な城だと言えます」(片庭氏)。
実際、竹中工務店のチームがまず手を付けたのも、資料に残された「史実」から復元に必要な
「建築情報」を掘り起していく作業だった。木材関係なら大修理時の木材発注記録も残ってい
たし、写真に写っている柱の木目などの表情から、使われている木の種類を特定することも行
われた。また、城の構造体についても、日本の城郭構造で重要なファクターとされる通し柱の
通し方と配置について、研究者の研究結果をベースに多数の技術者による分析とチェックの積
み重ねにより、特定作業が進められた。
こうして掘り起され、分析され、推測された情報の蓄積はたちまち膨大な量となり、日々変更
され更新されていく。しかも、こうした史実の検証作業と並行して設計や木材の発注作業も滞
りなく進めなければならない。そのためには増え続ける建築情報を、リアルタイムで明確かつ
正確に捉えて一元管理する必要があった。まさにプロジェクトの根幹となるデーターベースの
構築である。そしてそのプラトフームとなたのがARCHICADによるBIMモデルだった。

   ガラス乾板写真(大天守一階西入側)
   (名古屋城総合事務所蔵)

   ガラス乾板写真(大天守一階西入側)
   (名古屋城総合事務所蔵)


史実から必要な建築情報を掘り起してそのすべてをARCHICADで作る
BIMモデルへ!プロジェクトの基盤となるデーターベースを構築


膨大な情報をBIMモデルに落し込む
「とにかくARCHICADで作ったBIMモデルをデーターベースとして、史実から掘り起した情報
を始めすべての建築情報をそこへ入れていこうと考えたのです。そのBIMモデル上で整合性を
取りながら正しい情報を絞り込み、作り込んでいこう、というわけですね」。プロジェクトの
技術担当副部長を務める林氏はそう語る。「ベースとなる3Dモデルは主架構の柱、梁、屋根
回りの部材や窓回りなどもARCHICADで作成していきました。昭和実測図は寸法などもかなり
書き込まれているので、まずそのあたりの確認や調整、また細かな部材同士の納まりなどを検
証していったのです」。

   ARCHICADで制作した名古屋城大天守のBIMモデル

   ARCHICADで制作した名古屋城大天守のBIMモデル


   木材の材種による色分け

   木材の材種による色分け


前述の柱の問題についても、その柱が1階から2階の様に複数の階を貫いて伸びる「通し柱」な
のか、あるいは階ごとに完結する「管柱」なのか、実測図からは判定できない。そこで別の資
料(宝暦大修理関係資料)から推定し、通し柱が1本1本どのように配置されているか、その立体
的な構成を色分けしながら、BIMモデルで配置検討していった。実際にはこうした柱の情報を
形として持たせるだけでなく、1本ごとに寸法や断面形状、材質、配置位置などを一覧表にし
て管理。その他にも、部材ごとに使われている継手の種類などに至るまで、多岐にわたる多種
多様な属性をBIMモデルに付与し、随時これを色分けするなどしてチェックしていった。
「太い柱では40センチ角を超えるものもあり、しかも長い通し柱ともなると現代では非常に貴
重な木材です。そんな通し柱がどこにどれくらい使われていたのか、材料手配の上でも非常に
重要になるのは言うまでもありません。そこで一覧表と3Dのどちらでも見られるようにして、
不整合がないようチェックしていきました」(林氏)。

   通し柱の配置検討

   通し柱の配置検討


   独特な伝統木造部材はGDLで作成

   独特な伝統木造部材はGDLで作成


現場での高度なBIM運用に定評がある竹中工務店だが、そんな同社にとっても、これほどの規
模の伝統木造プロジェクトでBIMモデルをここまでフル活用するのは初めてに近い。それだけ
にBIMモデルのチェック法ひとつとっても、独自の手法を新たに開発する必要が多々あった。
「例えば、手書き図面である昭和実測図とBIMモデルとの照合作業では、Solibri Model
Checkerを使ってみました。これは最新バージョンの新機能を応用した手法で、BIMモデルに
実測図の断面図をPDF化して差し込み、Solibri上で直接重ね合わせてチェックしていきました。
非常にわかりやすかったので、図面があるものについては全部で行いました。ただし、実測図
の断面図は同じ箇所を切っているとは限らず、場所によってずらしながら切ってあるため、あ
ちこち切り張りしながらチェックする必要がありそこはなかなか大変だたようです」(林氏)。

上記事例の続きは、「名古屋城天守閣」木造復元プロジェクト~後編で。