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ユーザー事例紹介

「名古屋城天守閣」木造復元プロジェクト~後編
<竹中工務店>

2018.12.17

美しい曲面屋根をプログラムする
チームにとって材料や構造の問題とは別の意味で大きなチャレンジとなったのが屋根形状
の再現である。名古屋城天守の屋根は5重でそこへ4面合計22個もの破風があしらわれている。
屋根は軒先に向い美しいラインを描いて反り上がっていく伝統木造ならではの曲面形状で、こ
れが天守の外観を形作っていく上で非常に大きなファクターとなっている。この微妙な曲面形
状を再現するために、屋根もまた3Dモデルとして精密に作りあげていく必要があった。
「BIMなどなかった昔の大工は規矩術という伝統作図技法でこの3D曲面を表現していました。
しかし、今回のような大型プロジェクトでは、メンバーに加え、発注者や市民など社外の方に
も理解を深めてもらう必要があり、誰でも理解できる3Dモデルが欠かせません。この屋根モデ
ル制作で効果的だったのがARCHICADと連携したRhinoceros/Glasshopperでした」(林氏)。

 Rhinocerosで作成した屋根の軒反りを検証

 Rhinocerosで作成した屋根の軒反りを検証


Rhinocerosは曲面形状に強い3Dモデリングツール。グラフィカルなアルゴリズムエディター
のGrasshopperと共に、Grasshopper-ARCHICAD Live ConnectionにARCHICADと双方向に
連携する。これを使えば複雑な曲面形状の3Dモデル作りも容易なことからその活用は伝統木
造以外の分野にも広がっている。さらにこの屋根モデル作りでは、多種多様な部材の複雑な配
置をRhinoceros/Grasshopperによりビジュアルプログラミングで記述している。実は伝統木
造における形の決り方や部材構成はシステマティックなルールに沿ておりRhinoceros/
Grasshopperのようなプログラムソフトととても相性が良いのである。とはいえ、もちろん
ビジュアルプログラミングを用いたのには理由がある。
「実は軒の反り方のラインは現時点ではまだ決定しておらず、この先変わっていく可能性があ
ります。もし手作業でこれをモデリングしていたら、あとで基準ラインが変わった場合、それ
に合わせて複雑な部材納まりを変えていくのは非常に大変な作業になったでしょう。しかし、Rhinoceros/Grasshopperで部材納まりのアルゴリ ズムをビジュアルプログラムに記述してお
けば、軒の基準線が変更されても自動的に部材を再配置できます。今後起こるであろう変更に
も柔軟に対応できる屋根モデルとなっているわけです」(林氏)。

 株式会社 竹中工務店             株式会社 竹中工務店
 名古屋城天守閣木造 復元プロジェクト     設計本部 アドバンストデザイン部
 技術担当 橋本 慧 氏              伝統建築グループ 本弓 省吾 氏

 株式会社 竹中工務店             株式会社 竹中工務店
 名古屋城天守閣木造 復元プロジェクト     設計本部 アドバンストデザイン部
 技術担当 橋本 慧 氏              伝統建築グループ 本弓 省吾 氏


現在は、このRhinoceros/Grasshopperで作った屋根モデルとARCHICADで作った主架構モ
デルをARCHICAD上で統合して扱ており上記以外にも このBIMモデルを生かした多様な
レンジが日常的に行われている。例えば屋根関係では屋根形状を瓦まで描いた3Dモデル
を用いて最大降雨時に雨水が屋根を流れる性状を流体シミレーシンで再現。水量の集中
範囲や深さなどを確認した。

   ①ARCHICADで作成した主架構モデル

   ①ARCHICADで作成した主架構モデル


   ②Rhinoceros/Glasshopperで作成した屋根モデル

   ②Rhinoceros/Glasshopperで作成した屋根モデル


柱関係では伝統木造独特の複雑な継手や仕口の3Dモデルの一部を切りだして詳細に作りこみ
3Dプリンターで出力。実物を手に取て組合せるという試みも実施された。3Dモデルを見て
いるだけではなかなか理解し難い複雑な仕口の組立て方も、これなら容易に理解できると好評
である。また、最近話題のVRヘッドマウントディスプレイ(VR HMD)もいち早く導入されてお
VRによる原寸大で体感できる3Dモデル確認も盛んに行われるようになっている。

   ①②をARCHICADで結合

   ①②をARCHICADで結合


建築の形を作り情報を付与して管理していく一連の 作業の全てに
抜群に使いやすいARCHICADはBIMプラットフォームに最適


プロジェクトはこれからが正念場
「プロジェクトは基本設計が3月末で完了し、すでに次の詳細設計の段階を迎えています。
現在はBIMモデルや図面の内容を詰めている最中です」(片庭氏)。
プロジェクトには今後新たな課題も想定され、取組みはまさにこれからが正念場だろう。
最後に、メンバーの皆さんに伺ったARCHICADとBIM活用についての感想を紹介する。
「メインツールにARCHICADを選んだのは、Rhinoceros/Grasshopperと緊密な連携が取れ
ることが非常に大きかったですね。また建築物の形を作り多様な情報を付与し管理していく
上でARCHICADは抜群に使いやすく、BIMのプラットフォームとして最適ですね」(林氏)。

「設計作業を進めていて感じるのは、名古屋城の構成の多くは、2次元では到底対応できない
複雑さがあるということ。例えばフロアを支える梁が、丸太の梁と角材の梁が交互に合計
4段も重なているのです。こうなるとあまりに複雑すぎて2Dではとても描ききれません。
3Dモデルに全部入れていくことで、ようやく段と段の被さり方や重ね合わせなども把握でき
ました。3Dの便利さと使い勝手の良さを実感させられましたね」(岡部氏)。

「ご承知のとおり、今回はものすごい量の図面や写真ほかの資料がありましたが、実はそれら
は、少し見方を変えただけでまったく違う解釈が可能となる場合も少なくありません。実際、
設計の進行と共に見方が変わり判断が変わってしまうケースも多く、大量の変更が発生するわ
けです。
加えてコスト面や資材調達面でも課題は次々と出てくるので、それらの調整のための変更も避
けられません。結果として、設計検証の現場では日々ものすごい数の変更が行われることにな
ります。こうなるともうBIMによる一元管理は不可欠で、それがなかったら、おそらく状況を
把握することに膨大な労力を要したでしょう」(橋本氏)。

 Solibri Model Checkerに図面を差し込み、昭和実測図とBIMモデルを照合

 Solibri Model Checkerに図面を差し込み、昭和実測図とBIMモデルを照合


「私自身は3Dモデルには直接入力操作より、検討や説明のツールとしての活用でかかわって
いるため、そのビジュアルとして説得力をすごいと感じています。ただ3Dの強力な説得力に
は危険な部分もあります。クライアントのみならず、社内のスケジュール管理における判断に
おいても、ふつうは図面ができてなければ、まだまだ検討中だと思ってもらえるものですが、
仮で組みあげたBIMモデルを見せてしまうと、もう明日にも建ちそうに思われてしまいます。
実際にはまだまだ途中で、かなりの設計作業が残っていてもです。その意味で、モデルが相手
に与える印象については、もう少し注意深くあるべきかもしれません」(山嵜氏)。

「この柱はどう組んだとか、この部材はどんなディティールだとか、今回私たちが蓄積した復
元に関わるノウハウや情報は、すでに相当のボリュームとなっています。そこには現代的な要
素もあり、どういう箇所を付加的要素としたかなどもデータとして残していけるでしょう。そ
のようにBIMに一元化したさまざまな建築情報を取り込み、後世の人に残せるというのは、従
来の建築ではとても考えられなかったことです。復元意図の伝承や維持保全においても大きな
可能性が広がっていると感じています」(本弓氏)。

3Dモデルを使う仕事は何度かやりましたがそのモデルにこれほど多くの情報を詰め込んで
活用するプロジェクトは、私も正直今回が初めてです。それは設計担当の皆さんもオペレート
作業でサポートしてくれている方々も同じだったはずで……そんな皆で一緒に経験を積めるこ
とは、とても良かったと思っています。ここで学んだ経験や考え方は、きっとほかの案件にも
展開していけるでしょう。プロジェクトはまだまだ続きますが、私たちの収穫はすでにとても
大きくなっていると感じています。また、一方江戸初期の棟梁はどのようにして情報伝達して
いたのか、タイムマシンに乗って確認に行きたくもなります」(片庭氏)。

「ARCHICAD」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。