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コラム

【BIMの話】データの表現方法論

2019.01.18

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

私が大学に通っていた頃、大人気だた講義がクリエイティブ・デレクター佐藤雅彦氏によ
る「表現方法論」でした。表現方法つまり「作り方を作る」ということについてCMやゲー
ムなどの実作を通じて語られる講義は面白く大教室が毎週満員で立ち見が出ることも珍しく
ないほどでした。私も例に漏れず毎週欠かさず出席しておりその時の講義の内容は今でもか
なりの部分を覚えています。
BIMやコンピュテーショナルデザインとは建築の作り方を作るということに通底しており、実
作を直接作る立場から離れるのは怖いことではない、それは楽しい領域だと考えるようになっ
たきっかけのある部分は、思えばこの講義にあったのかもしれません。
 
その佐藤雅彦氏の表現方法のひとつに「濁音時代」というものがあります。
日本語の濁音が持つ音のフックを意識的に活用することでキャッチフレーズやネーミングの訴
求力を増そうというもので、「バザールでござーる」や「だんご3兄弟」などがそれにあたり
ます。
清音・濁音という概念は音声学的にはあるし、とくにフランス語のsなど、その清音・濁音の
区別に非常に繊細なルールがありますが、日本語が濁点・半濁点でそれを示すほど諸外国語で
はっきり対比して認識されているものではないように思います。
国語辞典編纂者の飯間浩明氏のブログで知た概念に「濁音減価」というものがあります。粉
を水に溶いたときに溶け残ってできるかたまりの玉は「だま」、情けない様のことを「ざま」
というように、望ましくないものを示す際に濁音を付けて価値が下がった(減価した)ことを
示すという概念が日本語にはある、という話です。
もちろんそれだけが濁音の使用意義ではないわけですが、そのように濁音を清音に対比させて
特徴づけて捉える言語学的構造が日本人にはある、ということは間違いなさそうです。
 
話は変わりまして。
 
昨年10月、Tableau Conferenceというイベントに参加する機会を得ました。Tableauは
BI(Business Intelligence)ツールと呼ばれる一群のソフトウエアに分類される簡単に申せ
ば「ビッグデータツール」です。
その最大手であるTableauが開催するイベントであるTableau Conference(TC)には全世界
から17,000人が参加しており、その中にはdata scientistをはじめ、data analyst, data
strategist, data steward, data developer……などデータにまつわる多種多様な職種の人々が
入り混じっていました。
私の最近の関心事は、BIMを含めたプロジェクトアーカイブはいかに「データ」たりうるかと
いうことであり、データを主人公とした一連のディスカッションは非常に新鮮で示唆に富むも
のでした。
とりわけ多くを学んだのは例えば、データから意思決定までには10のステップがあるというプ
レゼンテーション。具体的には①計画 ②データ選定 ③データ収集 ④クレンジング ⑤データ
の理解 ⑥実験・テスト ⑦理論のあてはめ ⑧解析としてのパッケージ化 ⑨共有・教育 ⑩改良
です。何かと言うと、「我々はデータを持っている(③)」→「データが新しい価値を生
む(⑧)」というディスカッションが多く見られがちなように思いますが、実際はそれ以外の
段階を埋めることでしかそこに到達できず、それゆえこの全体像をきちんと計画し共有しな
ければ離散的なトライアルに終わってしまいます。
 
技術面ではNLP/NLG(自然言語処理・自然言語生成)に特に注目していました。たとえばワシ
ントン・ポストが850本のニュースをロボットレポーターにより生成したことが2017年に話題
になり
、日本語でも高校野球の戦評などに導入され始めています。これによって、データを可
視化したチャート(グラフなど)から、その特徴をとらえて説明をする文章を自動生成すると
いうものです。焦点は最大値なのか経時変化なのかなど、主題を与えると文章が生成され、入
力データに伴って説明文も動的に変化します。
 
このような領域でとくに目覚ましいのは、Data visualizationという職能領域の形成です。
Data Viz Designerデータ可視化デザイナーとでも言うべき職能を名乗る人はすでに多数おり、
膨大なビグデータから有意義と思われる点を見つけ出し効果的な可視化とプレゼンテーシ
ンまでを行います。ここ5~10年ほどで出現したさまざまな概念、big dataだけでなく、
infographicやdata-driven design、responsive design、prescriptive analysisなどを橋渡し
する存在にもなり得ます。
「見てすぐわかるグラフ」を作るだけでなく、時には一見すると何かのアートに見えるような
美しい可視化、難解だが読み込むと深遠なストーリーが読み取れる可視化なども戦略的に行い
ます。
 
BIMと同様他国で自然発生的・流動的に生じる新しい職務領域形成はどうやら日本にそのま
ま馴染むケースは稀なようです。しかしそのことに通じた既存職能の専門家(SME、Subject Matter Expert)が存在すれば、その文化を取り込むことは可能と思われ、私はその領域にいま
非常に注目しています。
 
BIMマネージャという言葉はまだどうにか浸透しましたが、Data Visualization Designerはか
なりしんどそうな気がします。彼の地では省略してData Vizとよく言われておりData vizは次
に来るバズワードだ!などとも言われています。
そこで話はおもむろに冒頭に戻るのですが、カタカナで「データビズ」と書くとどうも「ビズ」
が強いうえ、どうしても皆の頭に「クールビズ」がよぎってしまいなにやら半袖を着てデータ
をいじっている人、という感じがして悩んでいます。
これが日本におけるデータの幕開けの濁音時代などと後世で回顧されるならそれもアリですが、
こればかりはわかりません。濁音で減価されないようにがんばります。

 Tableau Conferenceの熱気。なお手前は昼食に並ぶ人の列。

 Tableau Conferenceの熱気。なお手前は昼食に並ぶ人の列。