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コラム

アート・デザインって何?

2019.02.07

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

迎春 2月4日は立春。春が近づき、桜も花芯で蠢き始めている。
今年も「Archi Future 2019」と「コラム」をよろしくお願いします。

私事ですが、高校3年の春から3年間に亘り、芸大受験のために石膏像や静物などのデッサン、
水彩画、平面・立体構成の習練で美大系予備校に通い続けた。ちなみに最初のレクチャーは、
芸大院生の六角鬼丈氏と宮脇壇氏だた。両氏とは、その後も親しくさせていただいたが、残
念なことに彼岸に渡られた。デサンは羽生(いずる)氏 (芸大油画8浪?の猛者後に芸大教授)。
だんだん面白くなり、勉学よりも夢中になった。石膏像の光や陰影を懸命に読み取り、手の動
きを感性でコントロールして描く。光と重力の流れも読み解けと教えられ、描き始めの緊張す
る1本の線から何万本もの線を無心に引いた。完成したデッサンは、描いた人の個性が滲み出
る。平面構成や立体・色彩構成にも夢中になり描き組み立てた。楽しい時でもあり、今に繋が
る多くの仲間も出来た。今は、アナログだけではなく、不可思議なことにCAD、BIM、コ
ンピュテーショナルなどのデジタル系に興味が引き継がれている。改めて、CAD・BIMな
どでの3Dでの建築の良き表現には、センスが必要であり、これを磨くためには、デッサン力
が重要と考えている。

小生の生まれ故郷は、親父の軍事的ロケット燃料の研究開発関連の転勤先である南紀白浜。温
泉と海と豊かな自然とパンダ。博物学者・生物学者・民俗学者の南方熊楠記念館などで知られ
る。この白浜での小学時代は、ほぼ毎日、海に潜り、海や池で釣りをし、山ではメジロなどの
鳥や昆虫採りなどと遊び惚けていた。自ずと美術の興味はゼロ。その後、転校先の中野の中学
美術教師が、スケッチ、写生や水彩画、小さな木彫、エッチング、立体造形を意外なことにや
たらと評価してくれた。美術の教育実習の大学生にも褒められ、この時に、おそらくスケッチ
や立体で表現することに目覚めたのだと思う。勘違いと褒め殺しだったかもしれないが…。建
築に興味が湧き始めたころでもあり、建築文化、SDやアトリエなどの建築・美術雑誌も読み
始めていた。高校でも良き美術教師に出会い、結果、芸大受験となった。デッサンに夢中にな
りすぎて、憧れの芸大には、浪人後から学科試験で落ちる羽目となり、2浪目にムサビを受験
し、彫刻にも魅力を感じたが、モノより人を対象にしたいと考え建築学科に入学。卒業後の実
務では、建築の空間や外部空間にアートワークを、と心掛けて建築デザインに反映させる努力
をしてきた。椎名政夫氏のもとで建築の設計の実務を叩き込まれたが、スケッチやパースを描
く機会も多く、師のエスキーススケッチは、クロッキーを描くように速く、そして上手く、達
人であった。

アートと建築との関連は深い。彫刻や絵画は、建築空間とコラボする。アートによって空間の
印象は大きく異なってくる。外部空間でも然りである。公共の広場などでの彫刻に心がウキウ
キすることもある。何だ、これは?のアートワークもあるが…。日本には、公共空間でのアー
トが残念ながら乏しい。一方、街おこしにアートが登場することも珍しくなり、新領域での
NEWアートも出現している。最先端の情報技術に数理学を組み合わせて次々に新機軸を打ち
出すチームラボによるアートと街フェスなども見られるかもしれない。最近は、アートがビジ
ネスとしても注目を浴び始めている。“Pen”や“BRUTUS”で特集が組まれることも珍し
くなくなった。クリスティーズやサザビーズなどのオークションでオークショニアがハンマー
を叩く落札光景をテレビなどで見た方もいると思うが、最近では、「バンクシー」の「風船と
少女」の落札後に細かく刻まれて出てくるシーンが生々しく記憶に残っている。504億円の
落札額が史上最高額といわれているが、世界のアート市場規模は、7兆円をはるかに超し、米
国、中国イギリス3国で80%を超えるマーケト規模を構成しているという。日本ではアー
トに関心を持つ新しい会社も増え、個人で美術館を持つ事例も増えている。とは言え、若手の
アーティストには、まだまだ、厳しい現実があり、これをサポートする新しいビジネスモデル
が組み立て始められている。期待したい。

中学時代にアートへの興味が湧き大学で美術を学び、「アートとは、デザインとは、を語れる
かというと心もとないが、敢えて言うと、人生の模索や“人やもの”の見方の基本を鍛えること
といえる。美術教育は、その基礎づくりに役立った。ファイン系アートや身体表現は、自己表
現であり生き様の表現でもある。動物や鳥、蜂、蝶などは、色彩や匂いで蜜などの食べ物を探
し出し、生命を維持している。人間も色や形で、魚や野菜、肉、そして道具・家具、建築など
の良し悪しを見分けている。手で触り、目で見、音を聞き、五感の全てで感じ、生命維持の基
礎の価値の判断をし、人生を歩み楽しむ。この感性と精神への栄養材がアートではないだろう
か。この延長上に自己表現と創造があるといえる。

最後に、この3日に建築情報学会のキックオフ準備会議で竹中工務店東京本店に出かけた。竣
工直後にディテール誌の取材で見学もしているが、久しぶりであった。外部の流政之氏や祐成(すけなり)
正徳氏の彫刻。内部空間にはアートワークが心地よく配置されていた。さすが、その精緻さと
巧みさに改めて竹中の設計だと納得。併せ、昨年の暮れに後輩のものつくり大学教授の藤原
成暁氏の退任記念の個展で旧古河庭園の大谷美術館に出かけた。彼は、建築家であり、教育者
であり、画家でもある。旅行日記的な風景・建築スケッチを見た。とても魅力的であり、刺激
を受けた。ムサビ卒だが、3足の草鞋を履き続け、人生を謳歌しているようだ。見習いたい。
小生も穏やかな終活を目指して、ジャズやウイスキーに親しむだけでなく、また風景・建築・
人物などのスケッチを始めたい。早速、旅行用のハンディな水彩画のセットを探すことにする。

 松家の浪人時の鉛筆デッサン:汚れが時代を感じます。

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