Magazine(マガジン)

コラム

群知能と人の進化

2019.03.07

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  下の図は、何を描いたものでしょうか。
 
竹中  揺らす前と、揺らした後、と記述されているね。
    揺れに対応した建築的な構築物のようにも見えるけれど、揺らすことで変化する有機
    的な形のようだ。
 
岡部  そう、これはミツバチの集合体「分封蜂球」(ぶんぽうほうきゅう)の動きなんだ。
    風が吹いて揺れても、群れを壊すことなく形を維持している蜂の動きが、矢印で記述
    されている。昨年秋に、国際学術誌であるネイチャーフィジクス(Nature Physics)
    に発表された論文*1に記載された図版だ。
 
竹中  なるほど、群れを水平方向に揺らすと、ミツバチは本能的に蜂球を支えようとするた
    めに、個々が力のズレの大きな位置に移動する。結果的に全体を平坦な形に変化させ
    て安全を確保する、いわゆるスワームインテリジェンスだね。
 
岡部  トップダウン型の指示のもとに形が作られるのではなく、隣同士の関係性と個々の動
    きから、ゆっくりと形があぶり出されてゆく。近年ロボット界においても大きな注目
    を集めつつある、群れで扱う知能のカタチだ。
 
竹中  ここ数年でスワームインテリジェンスの世界市場が大きく成長を見せている。
    2020年頃には群知能の技術が商業化されるとの予想が立てられていて、2030年には
    市場の規模が4億ドルを優に超えるまでに成長すると予測されているのだという。
 
岡部  スワームインテリジェンスの技術を開発する企業の設立も相次いでいるね。技術の用
    途はいくつかに分けられるけれど、自動車、ロボット、ドローンなどの制御技術、さ
    らには、人間の行動予測にまで応用しようとする事例も出てきている。
 
竹中  例えば、スタートアップ企業のひとつであるUNANIMOUS.AIは、動物が群れで知能
    を生み出すように、人間同士の知能を群で考えれば「Artificial swarm intelligence」
    が創造できると未来を予想する。
 
岡部  脳がつながってゆくイメージだね。ドローン技術への応用としては、軍事関係の技術
    が先行しているけれど、物流システムへの応用においても実践的な動きが本格化して
    きている。自動搬送ロボトメーカーであるGREY ORANGE(インド)もその一つで
    昨年日本に新たな拠点を設け、日本市場に参入している。こうした次世代型自動搬送
    の動きは、建設業界においても、膨大な資材をシームレスに搬送するなど、大きな力
    となるにちがいない。
 
竹中  多くの人々が協働することが必要不可欠な建築界において、知能をどのように群で扱
    うべきなのか。モノの考え方から作り方まで計画されたトプダウン式の手法では、
    新しい世界は開かれない。目的を達成するプロセスにおいて、絶え間なく相互に情報
    を共有し、関係付けながら、その場に適応した生産システムを構築する。こうした
    パラメトリックなプロセスワークこそが、群知能の大きな魅力であると感じている。
 
*1 PELEG, O., PETERS, J. M., SALCEDO, M. K., & MAHADEVAN, L. (2018). Collective  
   mechanical adaptation of honeybee swarms. Nature Physics. 14, 1193-1198.

 ※上記の画像をクリックすると画像の出典元のネイチャーフィジクスのPDFが開きます。

 ※上記の画像をクリックすると画像の出典元のネイチャーフィジクスのPDFが開きます。

竹中 司 氏/岡部 文 氏

アンズスタジオ /アットロボティクス 代表取締役 / 取締役