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コラム

地産地消、地場産業と先端技術

2019.03.22

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

地場産業育成と地産地消、加えて、地域循環環境が叫ばれて久しい。併せ、伝統的で魅力的な
日本の田舎生活スタイルは、インバウンドの評価も高く再認識されている。
 
生まれ故郷、南紀白浜での子供の頃の初夏は、大潮日の干潮時に多くの住民が磯に降り、陽光
を浴びながら、岩海苔、ヒジキ、タコ、ナガレコ(トコブシ)、珍味の亀の手、小粒の磯貝や
素潜りで、アワビ、イセエビ、ウニ、海藻を採り、浅瀬では腰まで海に浸かりながら小竿で岩
礁の隙間を探り、ガシラ(カサゴ)や小魚などをのんびりと釣る姿を見ることが出来た。温泉
と枝条架(シジョウカ)とを組合せた塩づくりやテングサとヒジキ、岩海苔の天日干しなどの
風景があった。大好きだった海の見える母校の高台の小学校には、温泉風呂とプールがあり入
浴日が楽しみだった。
この白浜時代、生まれも育ちも東京の母が、近隣の農家の人に教わりながら海の見える小高く
小さな段々畑で嬉嬉として多くの野菜を育てていた。ナス、カボチャ、白菜、キャベツ、ニン
ジン、大根、カブ、ホウレンソウ、玉葱、ゴボウ、ネギ、サトウキビ、トウモロコシ、サツマ
イモ、ジャガイモ、サトイモ、胡瓜、エンドウ、ニンニク、青唐辛子、ショウガ、ラッキョウ、
落花生、ピーマン、マクワウリ、トマト、インゲン、そら豆、小豆、イチゴ、フキ、大葉など
を闇雲に育て、そして収穫し家族の糧となった。想い出すと懐かしく、楽しくなり、目に浮か
ぶ全てを挙げた。この読みづらい野菜の羅列をどうかお許しください。

併せ、小さな庭には、ナデシコ、カーネーション、百日草、アマリリス、マツバボタン、マツ
バギク、マーガレット、ホウセンカ、ひまわり、マリーゴールド、ガーベラ、カンナ、ダリア、
朝顔、夕顔、夾竹桃、浜木綿、オシロイバナ、グラジオラス、ツユクサ、ユリ、ヘチマ、菊、
葉鶏頭、ほうずき、コスモスなどが季節ごとに、白、赤、青、黄などと色とりどりに咲き、大
型のクロアゲハやアオスジアゲハ、オニヤンマ・ギンヤンマも季節になると同じコースを時間
差で辿りながら毎年訪れた。台風過には、数多くのアキアカネが群れ飛び交う様子も楽しみの
一つだった。睡蓮が咲く手作りの庭の小池には、フナ、ドジョウ、金魚、メダカなどが泳ぎ、
採ったウナギが全ての小魚を食べた記憶も蘇った。
畑の隅には、小さな鶏小屋があり、3、4羽のニワトリが、毎朝、時を告げ、そして新鮮な卵も
食膳にあった。山里・海里でもあり、食料は豊であった。米炊きは薪。正に自給自足。残飯は
養豚家が引取っていった。周辺に新鮮な自然の生産・貯蔵庫があり、地産地消の実感があった。
キュウリなどは畑から直接手でもぎり、そのまま食べていた。故に我家の氷式冷蔵庫は眠
ていた。周辺の野山には、桔梗やヤマユリ、スミレ、アザミ、レンゲ、クローバー、タンポポ、
ドクダミ、藪椿、ツツジ、山桜、蕗の薹、つくしや蕨、山椒、よもぎ、ハコベ、烏瓜、千両・
万両などが、自然に芽吹いたり咲いたりした。勢い余り、再度の羅列となりました。お許しく
ださい。

この文章を書きながら数多くの野菜と花やトンボ、蝶、蝉などの昆虫が目に浮かび、春のミン
ミンゼミから夏のクマゼミ、初秋のツクツクボウシの煩いぐらいの鳴き声、多くの鳥の声、風
や波の音が今でも耳に残っている。犬やネコと過ごした至福の時を改めて確認できた。誤解を
恐れずに言えば、テレビ番組の所ジョージ「ポツンと一軒家」で紹介される魅力的な田舎生活
のようだった。
しかし今は、この全てが、無い!! 外国産も含む多量生産の野菜や果物肉などを身近なコ
ンビニやスーパーで、現物の良否ではなく消費期限や産地などを見極め購入。他産他消で他力
本願である。“もの”から“こと”へ価値観が移行しつつある、今、地域の魅力と“こと”を学習し
てみた。
 
田舎生まれで温泉地育ちの小生は、地域社会で活用出来る技術に自ずと興味があり、漁業・農
業・林業・観光業・新産業などのユニークな活動や情報に注意が向く。最近は街おこしなどに、
先端技術の応用例が多くなっている感もあり、地域でキラリと光る新技術と企画や活動を心の
底から期待している。欲を言えば、アートワークも加えたい。
全国各地域の最近の推進事例枚挙には、暇がない。道の駅などの直売所のブランド浸透と人気
アップによる充実。埼玉の秩父では、日本産メープルシロップ収穫が軌道に乗り、山梨、山形、
栃木も育成を図っているという。農業系では、金農高が、甲子園で活躍するだけでなく、あぐ
り交流館での農産物の直販や県産品を世界にアピールできる加工品の開発、そして、地域を担
う人材の育成を目指し鹿児島では薩摩半島の後継者が無く途絶えそうになた伝統の“芋蜜”
を復活。薩摩の味を継承し、年商1億のブランド化に成功。フランスに輸出を始めている。栃
木のイチゴ農園では、スマホで土中温度、ハウス温湿度、二酸化炭素の管理などを行い、収穫
ロボットの実験も始まり、高地での甘くて大粒のイチゴ栽培に成功している。北海道のオホー
ツク地域の若手農業経営者は、家族型農業と共に民宿と古い農家を改修したコテージを経営し、
海外からも人が訪れるという。AIでの訪日客への地域観光案内の導入例もある。茨城や福島
などでのシェアハウス工房や交流館を始め、IT企業のラシックが地域10拠点オフィスを展開
中。スタートアップ企業のアドレスは、空家やシェアハウス利用も含め今年末までに100拠点
までに広げる計画だという。地域で展開する気運は、高い。神奈川県唯一の村で人口3千人強
の清川村ではこの4月に新産業や需要併せ地域特産物や商品開発を喚起する目的でレス
トランなどを併設する賃貸オフィスのローカルイノベーション拠点施設がオープンする。大学
や企業との連携も視野に入れている。片や畜産業では、搾乳ロボットの活躍が目覚ましい。静
岡では、最新のIoT技術を活用し、再生可能エネルギーを安定電源として活用する新たな電
力需給システム「地産地消型バーチャルパワープラント」の構築に向け、平成29年にモデル事
業の検討をスタートさせている。徳島では、大規模な木質ペレットなどを燃料とするバイオマ
ス発電施設が建設され、もみ殻を加工したモミガライト燃料発電もある。長野の乗鞍高原では、
近隣の温泉とスキー客に期待して新体験ゾーンの満天の星空が楽しめる大型テントのバーが
オープンされ、電源は電気自動車のバッテリー。電気自動車の送迎付きとか。大学時代に参加
していたワンゲルの山小屋が乗鞍にあり、ここに行く時に立寄ってみたい。満天の星の下で
ウイスキー片手に一杯、Jazz、談笑。いいね~~☆☆☆。
 
太陽、空気、風、台風、水、雪、野菜・果物、樹木、草、海、海水、潮流、山、川、里、温泉、
地熱、地酒、アート、音楽、自然など地産地消や地域産業、循環型生活は多岐にわたるが、原
資は限られる。これらを活かすには、再生可能エネルギーの確保と資源活用が重要で、今後は
ZEHもあるだろう。小規模地域分散型発電は、量や周波数、コストなど課題はあるが、大型
水力発電で思考されているAI応用も期待出来、有望ではないだろうか。広域電力網スマート
グリットと地域の小規模発電を緊急時に分離するオフグリット化も提案されている。しかしな
がら、およそ100年前の明治時代に王子製紙が自主構築した発電所と送電設備は、今でも緊急
時に支笏湖温泉街地域に電力供給が出来き、今回の北海道での大規模ブラックアウト時もおよ
そ1時間でこの地域への送電を開始したという。千葉商科大学は、キャンパスの電気を賄える
自前発電を目指している。一方、東北小水力発電は、緊急時に20~23世帯を賄えるレクサス
のバッテリーとコンピュータよる3次元シミュレーションで流水解析をし、効率追求した小型
水力発電との組合せシステムを発売している。この発電システムで長野県の白馬村は融雪
し、電柱も減少させているという。地域充電センターの充実微生物燃料電池や汚泥ガスから
生み出すことが出来る水素利用のアシスト自転車もある。目を転じ、宇宙ビジネスでは、地球
外惑星での地産地消の研究や長野・諏訪でのロケット開発や小型衛星など8~10プロジェク
トが地域を含め進んでいる。この宇宙ビジネスと地域とのコラボの可能性もあり、国の助成も
重要である。
 
話柄を変えるが、精度の高い準天頂衛星「みちびき」が本格的に運用され、対応GPS端末が
販売されている。青森ねぶた祭では、巡行に合わせ、このGPS端末の情報アプリで多言語に
より発信しているという。今後、高齢化や過疎地域での有効利用も有望だ。楽天は、近々中に
ドローンでの過疎地配送を開始する。併せ、ドローンによる地域の3Dデータ作成の本格化と
風力発電・送電の異常検知法も導入されている。荷捌・清掃用ロボットへの応用や自動運転の
小型トラックター、汎用農業支援機器、雪降し・除雪車の自動化、害獣撃退AI組込機器、草
刈り支援など多岐に亘る応用が期待出来、沿海地域の小型定置網などにもGPSと日本の養殖
技術やAIとの連携の可能性はないだろうか。移動通信システムのタイムラグが小さい5Gに
なると遠隔医療に活用出来るともいう。併せ、IoTやAIとの複合技術も考えられる。これ
にサスティナブル思考が加われば、地域貢献の先端技術になると確信する。
 
最後に、このコラムを考えている中で、アレックス・カー氏が日本の諸問題について研究し
2001年に出版した「犬と鬼(DOGS & DEMONS)」を思い出し再読をと考えている。併せ、
今、読書に嵌り、特に時代物が好きだ。背景となる大都江戸時代の生活は、循環型を構成して
いたようだ。近隣の野菜や魚などの食材と数十種類を超える生活用品が棒手売り購入でき、廃
棄物や排泄物は資源として流通し小売商もあったという。江戸の循環社会の詳細は他稿に譲る
として、小生の子供の頃の生活は、江戸時代と近似値であった。地産地消と地場産業、そして
循環型生活には、江戸時代の生活スタイルが、最先端コンピュテーショナル技術を地域社会に
活かすヒントにもなりそうだ。

 根元に実を持つきゅうりの花

 根元に実を持つきゅうりの花


 レンゲの花

 レンゲの花


 

松家 克 氏

ARX建築研究所 代表