Magazine(マガジン)

コラム

建物のデジタル化に向けて乗り越えなくてはいけない大きな壁

2019.07.04

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

前回は、設備での自動設計の可能性について言及しましたが、その実現のためには事前に整備
しておくことが山ほどあります。
現時点では、いざ自動設計やAIの活用に着手しようとしても、過去に山ほど作りあげてきた建
物のデータが図面がコストの内訳書がBEMSのデータが整理された共通のデータになっ
ていないがために、活用しようにもうまくいかない状況に陥ってしまっています。

この状況を打破するには、コンピューターが認識できるように体系的なデータ構造にしておく
必要があり、パラメーターの名称や単位系を統一しておくことが必要です。さらに、本格的な
AIによる自動設計を実現するためには、過去の事例を中心にしたデータベースを整備する必要
があり、そのためには標準的なフォーマットも整理しておく必要があります。

BIMは標準化なくしては、本領を発揮できないと言っても過言ではないでしょう。

人に伝えるための図面が目的であれば、曖昧な部分を残していても人が柔軟に判断することが
できるかもしれませんが、デジタルのデータベースにするためには、BIMのオブジェクトを体
系的に整理し、共通の名称で共通の単位系でデータ入力する仕組みを構築しておく必要があり
ます。

BIMに取り組み始めてぶつかる大きな壁がこの標準化の壁でした。
1物件だけ試行的にBIMモデルを作るのはどうにかできますが、これを複数物件で利用できる
ように共通化する作業は苦行の連続で、途方もない労力を要します。
今までも図面を作成するための製図基準は一応ありましたが、図面の表記方法を規定している
だけであって、かと言って完全に統一されている訳でもなく物件ごとにバラバラで運用されて
いる実情があります。特に、設備の機器表に至っては様々なフォーマットが乱立しており、
一行で記載したり、複数行で仕様を羅列したり、専門家の人の目で見ないと判断できないもの
になってしまっていて、統一されたデータベースには程遠い状況になっています。
パラメーター名の標準化でさえ日本語はかなり不利な状況にあり、様々な表現方法がとれる日
本語では困難を極めます。データを統一化するためには、名寄せの手法とセットでデータ整備
していく必要がある気がしています。

さらに、BIMを実務の中で活用していくためには、業務の棚卸しをしてBIMに最適化できるよ
うにワークフローを再構築し、業務を標準化することも必要になります。
言うは易し、行うは難し。
セクショナリズムにより分断化されてしまった現状では、アウトソーシングにより分業化され
てしまった現状では、ブラックボックス化した断絶部分が山ほどあり、これを一から繋ぎ直し
ていくのは根気のいる作業で、相当な覚悟が必要です。
何度挫折しかかったかわかりませんが、これをやり遂げない限り、BIMの普及も、建物のデジ
タル化も、自動設計もAIも、その土俵にすら立てません。

今まではこのハードルの高さがBIM普及のボトルネックになっていた感がありますが、ようや
く国内でもBIM標準化の動きが着実に進んできていて、各社で競い合っていたBIMの宣伝合戦
もひと段落し、非競争領域であるBIMの標準化の必要性が認知されつつあります。そのような
中、昨年2018年10月には、BIMライブラリーコンソーシアムにて「BIMオブジェクト標準」
が承認され、BIMオブジェクトに記載する属性情報が定義されました。この中では必須の入力
項目や、入力を推奨する項目などが決められていて、これに則ったBIMオブジェクトの作成も
始まりつつあります。
Revit User Groupでも、この「BIMオブジェクト標準」に則りユーザーの立場から必要とさ
れる、これら標準類の整備を進めています。

標準類が整理されつつあることで、BIMに取り掛かるハードルが数年前に比べてかなり低く
なってきています。
とは言っても、現時点ではまだ国内のBIMスタンダードが確立されている訳ではありません。
まだ着手し始めた段階です。ただし、全てがルール化されるのを待っていたら海外から遅れを
取ってしまうので、今やるべきことは、未来のこととか言って次世代に先延ばしせずに、必要
最低限のデータで良いので確実に受け渡していく成功体験を積み上げていくことではないかと
思っているところです。

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長