Magazine(マガジン)

コラム

BIMとライフサイクルマネジメント

2019.07.18

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

「建築物は100年単位のものも珍しくはないが、BIMを活用するときになって、ソフトがない
ということはないのだろうか。コンピュータのOSもいくらか古くなたら製造元はサポトし
てくれない。資本主義の元ではBIMのソフトも企業の倒産などによってなくなってしまうこと
もあるかもしれない。このようなことが、BIMが完全に普及した社会で起こったら、建設業へ
のダメージは計り知れないものになってしまうので、このようなことを引き起こさないために
はBIMをインフラ化する必要があると思う。いまの社会はまだガイドラインの作成や規格の
統一までしか動きがないので、今後は政府を巻き込んでインフラ化の動きが起こるのではない
だろうか」

この文章は、筆者が大学で3年次に開講しているBIM演習で、毎年恒例としている実務者の方
をお招きしたフシリテマネジメントの特別講義における、ある学生のレポートの抜粋であ
る。まだ社会に出たことのないこの若者は、「BIMが完全に普及した社会」が来ると予想し、
そうした社会では施設のライフサイクルにわたるBIMの情報が建設業にとって重要な意味を持
つと考えている。そのような未来に対し、現在の社会におけるデータの持続性の脆弱さを懸念
しているのである。こうした学生の素朴な問いかけに、BIMを推進する「大人」である我々は、
明快な答えを持ち合わせているだろうか。また、若い彼らの希望に応えるような活動ができて
いるだろうか。

BIMの普及が離陸した「いま」はBIMを利用する業務上の目的を明確にすることの必要性を
理解できる。しかし、そのような思考に縛られては「いま」必要だと思う情報以外を軽視す
ることになりかねない。本来、BIMの情報は建物が社会基盤として長い一生を全うするため
に、誰でも利用できる状態で蓄積されていくものだと思う。その情報を、将来も利用できる
可能性を高めておくために、BIMに関わる各種のISOが整備されているのだろう。また、デジ
タル化の時代である21世紀は施設のライフサイクルのいたるところでBIMの情報が応用され
るようになると考えられる。その時に漏れや欠けのある情報は「補修」が必要となる。優良
な資産としてBIMの情報を残すには、「いま」の手間や費用の損得に縛られずより多くの情
報の蓄積や更新をしていくデタ共有環境のありようを業界全体で考える時代に差し掛かって
いる。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授