Magazine(マガジン)

コラム

進化するICTデザイン(1)
~くみたてる・つくる・つかう・価値を生みだすBIM

2019.08.06

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

BIM設計に関わって15年ほどが経過する。
BIMを活かすためにはどうすべきか?とりわけ、クライアントの視点からBIMプロジェクトを
捉え、活用することを念頭にICT/BIMに取り組んできた。
その結果、多くのメリットがあることは知りつつも、何かいまひとつ活かされていないもどか
しさがある。
誰もが感じていることではあろうが、
●建築生産システム全体としてのつながりの弱さ(設計と維持管理フェーズでのつながりは試
 行されているが…)
●クライアントメリットへのつながりの弱さ(コストや維持管理フェーズでは実践・試行され
 始めているが…)
などがモヤモヤの主原因ではないかと思う。
したがって、これらが解決されることでプロジェクトにかかわるステークホルダーのための
BIMの進化にもつながると考える。

建築生産システムやクライアントとBIMとのかかわりについて、現況を以下に簡単に整理する
と…、

建築生産システムをつなげるためには?
建築BIM推進会議でも議論され始めているようではあるが、まずは、現状を正確に把握分析す
る必要があると思う。
例えばBIM設計では「効率化の飽和状態の解決」や「評価・意思決定への誘導」「ソフト・
技術の可視化による設計者のパフォーマンス向上」。
プロセス全体においては、「効果的につながる活用システムの必要性」や「フレキシブルかつ
最適なレスポンスのための検討やモデル修正のためのコミュニケーションシステム化」。
そして、「データ共有システム化」などが代表的課題として捉えられよう。
この課題解決にはBIMプラットフォーム(スキル、標準化、運用ルール、有益な属性情報の整
理など)の確立が必要であるが、大事なのは『誰もがかかわれる』プラットフォーム―「つく
る」ためのBIM―づくりであろう。そのためにはわかりやすいBIM教育学習教材カリキュ
ラム、指導者の充実など、総合的な「学び」の環境づくりが欠かせないと思う。
多くの設計者や施工者がメリットを感じて活用し、成果を得、その結果、クライアントが求め
る最適化を導き出す。それゆえに、プロジェクトに関わるすべてのステークホルダーがメリッ
トを享受できる「つながるBIM」プロセスやシステムの構築につなげることができると考える。
フェーズをつなぎ、クライアントに価値をもたらすICT/BIM、この流れをしっかりとつくりだ
したいと思っている。

クライアントメリットを充実させるためには?
一言でいうと、クライアントの事業プロセスで如何に多くの価値を見出せるか?にある。
そのためには、
●事業プロセス全体にかかわること
●新しい価値を生みだすための仕掛けをすること
が必要だろう。
前者は、事業企画フェーズや完成後の維持管理フェーズへのかかわりであり、いずれもそれぞ
れの価値とコストの可視化が重要である。
ここでの活用はクライアントが「つかう」ためのBIM(=後段で説明するBuildCAN)である
一方、後者は、最適化のコミュニケーション、シミュレーション、アルゴリズム、計算、3D
スキャン、初期VR、自動設計、情報統合、そして都市とつなぐシステムの活用と導入である。
いわば「くみたてる」ためのBIMである。
これによりより計画の精度を高めるとともにプロジェクト(建築)の付加価値を高めるこ
とができると考える。
つまり、クライアントにとっては、統合的に「新たな価値を生みだす」BIMであるが、また、
これは設計プロセスにおける効率化へのチャレンジでもある。

この2つを効果的に運用可能にするフェーズは、企画~基本設計フェーズである。ここでの手
順やデータ化が後工程にも大きく影響を及ぼすことになる。つまり、ある一定のルール(LOD
を含む標準化、運用、属性情報など)に基づく統一データを基本~実施~施工において一貫運
用することで、建築完成後の維持管理にもスムーズかつ低コスト化にてBIMを活用することが
できる。
クライアントが標榜する目的やプロセスに応じて、プロジェクトのすすめ方も多様に変化する
時代である。これに対して基本とするデジタルデータ(必要とする情報のみ)を明確に維持・
活用することで、あらゆるクライアントニーズに対してスピーディーかつフレキシブルに対応
可能にもなる。
このように、クライアントメリットを充実させるためのBIMを進化させるためには、情報統合
のハードルをしっかりと越えなければならないしその達成が有益なプロセス運用や、新しい
価値の創出につながると思っている。
いずれにしても、明確なICT/BIMのプロセス、システムデザインが必要になるのであるが。
「くみたてる」「つくる」「つかう」そして「価値を生みだす」BIMへの取り組みについて
は、新しいビジネスへの展開も含めて次回から順次紹介していきたいと思うが今回は「つ
かう」BIMについて、一部を次に紹介する。



クライアントが「つかう」BIM ―BuildCANについて―
2018年から試行しているIoT環境センサーとBIMモデルを連携させた建築情報マネジメント・
システム(熊本大学大西研究室と協働開発)が「BuildCAN」である。
基本設計レベルの統合BIMモデルを活用し、エネルギー低減のための機能、建築データの一元
蓄積・管理機能を付加し、Autodesk社のForgeを利用して、BIMデータとIoT環境センサー情
報を可視化することでエネルギー分析をも可能にする。
このシステムの特徴はクラウドで情報をコントロールできるところにあり、「建築に通信機能
を持たせた」初めての試みである。各室のデータ収集と省エネルギー運転アドバイス、各機器
状態管理などの最適化を図り、管理費の低減も確認されているが、さらに、BEMSとの連携も
視野に入れた強力なシステム開発を進めている。
クライアント、ビルオーナー、設計者、施工者が目的を同じにし統合情報を共有することで、
合理的データ構築も可能になり、更なる進化につながると考えている。


村松 弘治 氏

安井建築設計事務所   取締役専務執行役員   東京事務所長