Magazine(マガジン)

コラム

BIMを共通データ環境(CDE)へつなぐ

2019.08.20

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

今年の夏期休暇は有給取得奨励日と合わせて10連休でした。残業時間の管理も厳しく総労働
時間短縮に向けての施策が続いており、改めてこの業界も働き方改革に迫られていることを感
じました。しかしそれとセットであったはずの生産性向上のほうはどうでしょうか?私の立場
的には「BIMが生産性に寄与します」と言い切りたいところです。しかし現実にはBIMをやっ
ていて楽ができたか?と問われると、「YES」とは答えられないのです。理由はいくつかあり
ます。ゼネコンとしては全体最適を考えますので後工程でメリットがあるなら私たちは多少力
技でやりきる場面があります。また他の意匠設計のグループと比較するとアウトソーシングが
難しいため内製率が高く、さらに開発業務と教育業務も・・・と、負担を考えるとBIMマネー
ジメントセンターのメンバーにだんだん申し訳ない気持ちになります。

私たちは設計から監理まで行いますので最終成果物はお引渡しするリアルな建物となります。
BIMは現時点では中間生成物みたいなものですから、そこに時間を割いて完成度を上げること
の意義と、それが現実の建物の機能や品質に寄与できるのか、リソースの使い方には注意が必
要です。そこで今更ですが、BIMに限らず建設ICTの可能性と意義は何でしょう?私は以下の
2点に集約されると思います。
 ・膨大な数の情報量と無数の対象者を繋ぐことができる
 ・伝達する情報の欠損とタイムラグを限りなくゼロにできる

次世代通信「5G」が実現するのも、超多数同時接続と超低遅延と言われてますので、これら
に関しては今後さらに期待が膨らむのと、RPAやAIの進展次第では真の生産性向上につながる
可能性があります。しかしながらBIMは現状ではその使用環境を含めまだまだ制限が多く、関
係者間のコラボレーションでのメリットを最大化できていないと感じます。前回のコラムでも
触れていますが、私が携わるプロジェクトでは共通データ環境(CDE:Common Data Environment)の構築に取り組んでいます。具体的には、クラウドサーバー上にIFCをベース
としたオープンなBIMの総合スタッキングモデルを構築することを目指します。CDEは建物の
「作り手」「使い手」を問わず活用することを前提としています。先日実際の物件において
BIM実行計画書(BEP)を発注者へ提示しましたが、その中でもCDEは工程を貫く軸として表
現しています。建物用途によっては異なる業界の方々と共同でプロジェクトに取り組むことに
なりますが、当然使用しているCAD等のソフトウェアが違います。未だ異業種間での3Dモデ
ルのデータ交換は骨が折れる作業ですが、私たちは一つの会社のソリューションに依存するこ
となく過去にも様々な3D-CAD間のデータ連携を行ってきました。CDEのソリューションと
してはORACLE社のAconexを用いますが、これはどこのBIMソフトウェアやCADにも依存し
ないオープンなプラットフォームであり、Aconex上にアップするデータはIFCです。イン
ターネットブラウザ上で動作するAconexは専用のソフトウェアや環境を揃える必要が無いた
め、従来参画が難しかった発注者や建物ユーザーがアクセスしBIMの恩恵を享受することがで
きます。

少し利用イメージを説明しましょう。Aconexはプロジクトベースでの利用を前提としてお
り、プロジェクトに参画する組織毎にデータ領域が与えられ、発注者や協力会社も含めた社内
外の関係者間で安全かつ効率的に文書ごとのステータスやプロセス、版管理を行います。IFC
モデルビューワーが用意されており、インターネットブラウザ上でBIMモデルを閲覧できる環
境を得られます。「作業中」の仕掛かりのファイルは公開せず、共有したい段階、プロジェク
トの「マイルストーン」ごとにリビジョンを付与し、Aconex上にアップします。このように
仕掛かり文書とマイルストーン文書というステータスの違いを意識できるのはAconex上の
クフロ(承認)機能に負うところが大きいです。図面や書類だけでなく3Dデタ(IFC)
も閲覧と承認行為ができます。そして登録したデータは削除ができない。したがって後日ト
レースが可能となり、トラブルの際にはエビデンスとしての意味も持ちえます。データは通常
は工種別・フロア別に適宜分割され承認されていきます。Aconex上にアップされるBIMデー
タは作成者が明確であり、データ受入れの検収作業と承認の状態が把握できます。つまりデー
タを利用する側は信頼して使うことができる。建築基本データが先行してアップロードされ建
物の下階から順次承認が行われていき、サブコントラクターは承認の状態を確認しながら建築
基本データをダウンロードし、自身の担当工種の入力を自社のBIMツールで行い、その成果を
IFCファイルに変換しAconexにアップロードします。BIMマネージャーはこれの干渉等のモ
デルチェックを行い、修正が必要であれば依頼し、問題がなければ承認し受け入れます。これ
を繰り返し行い作成者(工種毎)と検収日で分割されたIFCファイルをスタキングさせるこ
とで建築全体のモデルを構築していきます。最上階までたどり着くとAconex内には物件が仮
想竣工した状態になります。発注者はこのBIMを内覧し、この段階で気がついたことをフィー
ドバックします。BCF(BIM Collaboration Format)形式でのやり取りも可能です。オープン
BIMの概念の延長で私はIFCのオープンプラットホームを関係者に提示しながら開かれたBIM
コラボレーションを目指しています。

BIMのソリューション自体も機能の高度化につれて他のソリューションにクローズになり、外
部から見るとサイロ化する傾向があると思います。とある企業とのやりとりですが、計画段階
のプレゼンから概算の算出、その後の作図まで含め、ある意味完成されたシステムを構築され
ており、業務効率は最大化されていると感じました。ただ標準から外れたプロジェクトの対応
が出来ないという話。既成の枠の中では力を発揮するが所謂プロジェクト物がからっきし、と
いうのは先日ご紹介した書籍「BIMのかたち」の中の造船業界へのインタビューでも聞いた話
です。標準化で自由度を拘束することで効率化を得る、というのはひとつのセオリーの様です
が、建築設計を生業とするものとしては諸手を挙げて受け入れるには抵抗があります。

さて、BIMに取り組むことが不安になるような誤解を与えたかもしれませんが、私はもはや以
前の2次元CADの時代に戻りたいとは思いません。2次元で設計することは非効率であり何よ
りも“退屈”です。BIMで設計するスピード感については過去のBuild Live Japanでの取り組み
や東北の震災復興物件などで体験しています。冒頭の“楽が出来ない”と感じる本当の理由は物
件の特殊性です。大規模木造物件をはじめ、一筋縄ではいかない案件が続いています。これは
ある意味、標準化・省力化とは対極の状況ですが、BIMが無いと出来ない仕事であるのは間違
いないです。不便益にも通じる話かもしれませんが、あえてシステムとしては完成させず利用
者が都度柔軟に利用できるしなやかさが今の業務では必要かもしれません。まずはBIMに情報
を一元化する意味でもCDEの意義は大きく、発注者も参加してもらい、ご評価をいただくこと
で私たちのモチベーションも向上すると思います。BIMを現時点では中間生成物と呼びました
が、Society5.0におけるCPS(Cyber-physical system)が実現したら状況は一変すると思い
ます。それはまた別の機会に。

 当社「飯田橋MKビル」のデータをAconex上で見る。
 家具・什器のレイアウトもあり、オブジェクトには取り扱い説明書のPDFをリンクさせることも
 できる。竣工後も活きるデータだろう。

 当社「飯田橋MKビル」のデータをAconex上で見る。
 家具・什器のレイアウトもあり、オブジェクトには取り扱い説明書のPDFをリンクさせることも
 できる。竣工後も活きるデータだろう。

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長