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コラム

「BIM的世界」の拡張とプロジェクト推進の為の
方法論を求めて

2019.09.12

パラメトリック・ボイス         スターツコーポレーション 関戸博高

このコラムでは、経営的視点から「BIM的世界」について継続的に書いてきた。
前号では現時点の私たちの到達点、近未来に向けてやっていきたいこと、つまり仮想「コミュ
ニティ・ラボ・プロジェクト」作りに触れた。少しずつ実現に向けて進展しているので、機会
があれば逐次お知らせしたい。

今回はBIMから少し離れ、新しい事業や新サービス開発を成立させて行くプロセスについて、
実例に沿って考察してみたい。
この作業は、一見BIMとは無関係に見えるかもしれない。しかし、「BIM的世界」を今後さら
に拡張し、金融、eコマース、建物評価などへと関連付けていく過程では、複数のプロジェク
トを同時並行で進めていかねばならず、そのためには、問題解決のためのエンジニアリング的
な方法論の確立が必要だと思う。私は経験上、個人の無意識の行動や社風の中に、プロジェク
トを上手くゴールへ導くための共通性(暗黙知)があると思うので、この機会に実例を皆さん
に共有しながら、重要なポイントを抽出しておきたい。また、我々が提供しているBIM-FM PLATFORMも、そのサービスの範囲が広がり、次第に重層的・ネットワーク的なサービスに
なってきている。それ故に、今後の展開に当たって一歩退いて全体を俯瞰する必要があり、先
に述べた方法論を明確にする時期に来ているという事情もある。

その一方で、以前より「編集工学」という分野に興味を持っていた。様々な要望や法律、建築
材料、工法などを考慮しながら行う建築の設計行為やBIM情報を組替え新しい価値を生み出す
行為が、「編集」と言えるのではないかと思っていた。編集工学を提唱した松岡正剛氏は、著
書『知の編集術 発想・思考を生み出す技法』(講談社・2000年)で次のように語っている。
「あれこれの情報が『われわれにとって必要な情報』になることを、ふつうは『知』といいま
す。情報をそのような『知』にしていくことが、編集なのです。」(p.8)
「編集で一番大事なことは、さまざまな事実や事態や現象を別々に放っておかないで、それら
の『あいだ』にひそむ関係を発見すること
にある。そしてこれらをじっくりつなげていくこと
にある。このようにモノやコトを見ることを、編集工学では『関係の発見』とか『新たな対角
線の発見』とよんでいる。私はこのような方法こそが、これからの人間の認知や意識のしくみ
にとっても、産業界や教育界にとっても、また自分の創発的な能力を開拓するためにも、かけ
がえのないものになりうるとおもっている。」(p.46)

この引用の内容を傍らに置き、事例に入っていくことにする。

<事例1>インドの不動産(リロケーション・サービス)ネットワーク
弊社グループは、海外23カ国37拠点の直営の不動産店舗網を持っている。
私はこの13年間年50~100日ほど海外へ行き新しい拠点開発やホテルの建設・開業などに
直接携わって来た(自ら動く)。インドへは10年前に開設のために行き始めてから十数回通
い、ムンバイ、バンガロール、チェンナイ、アーメダバードなどを見て回った。そんな中で
2年ほど前からインドが変化してきたと感じ始めた(変化を肌で感じとる)。日系企業の進出
数は年5%前後のペースで増え続け、2018年10月時点では、全土で企業数1,440社、拠点数
5,100か所になっている(JETRO)。弊社はニューデリーとグルガオンという新しい都市に拠
点を置いているが、当然広大なインドに散在する日系企業に、自前ではサービスを提供しきれ
ない。そこで現地メンバーと相談して、インドの主要都市にある地元の不動産会社との提携
トワク作りにチレンジすることにした(方法の気付きと論理化それを試みるスピ)。

 インド主要都市マップ

 インド主要都市マップ


 写真:インドの不動産ネットワーク開設パーティーの様子

 写真:インドの不動産ネットワーク開設パーティーの様子


私はこのレポートが発表される数日後に、今年2度目のインド出張に行く。目的は、提携ネッ
トワークの1周年記念パーティーへの出席だ(上手く行っていればそれで良いが、そうでなけ
れば失敗する前に手を打つ。その為に現地確認する
)。当初20社前後だった会員メンバーも
30社程度に増えている。

この地元の不動産会社やその他のサービスを提供する企業と提携する狙いは、単にネットワー
ク化して、日系企業にサービスを提供するだけではない。他に二つある。

一つ目は地元の不動産会社には、日本と同じように地主や投資家が付いている。彼らは必ず近
い将来、都市化の進展と共になんらかの投資をする。その時我々の日本や海外での知見・経験
が役に立つ。不動産だけでなく、建設や金融に関わることも含めてだ。我々の実力をもっと鍛
える必要があるが、このようなビジョン無くしては、自らのレベルも上げられない(ビジョン
とリーダーシップ
)。

二つ目は、インドにはとてつもない数の富裕層がいる。人口約13億人の上位1%でさえ、東京
都の人口並みにいるのだ。インドはもともと英国の植民地であったこともあり、ドバイ、シン
ガポールなどと並んで英連邦(Commonwealth of Nations)に加盟しており、言語、法律、
文化・教育、金融などの制度面を通じて関係が深い。また、富裕層は英国、特にロンドンに不
動産を持ち、住むことが一つのステータスになっているように思える。そのような層に近付く
のは、単独の日系企業だけでは無理だ。やはり地元の企業と組んで、需要を開拓する必要があ
る。その受け皿として先に述べたロンドン、ドバイなどの拠点が機能することになってくる
ビジョンに基づき具体的に手を打つ)。

ここで話してきたネトワクの名前はGlobal Relocation Business Network(略号:GRBN)
という。まだ始めてからの期間が短く、「成功」と位置付けるのは少し躊躇われるが、プロ
ジェクトを成功へと導くポイントをリストアップすれば、次のようになる。
 1.自ら動く(現場を知らなくては始まらない)
 2.変化を肌で感じとる
 3.方法の気付きと論理化、それを試みるスピード
 4.上手く行っていればそれで良いが、そうでなければ失敗する前に手を打つ。その為に現
    地確認する
 5.ビジョンとリーダーシップ(その気にさせる)
 6.ビジョンに基づき具体的に手を打つ

次号では引続き事例を挙げながら、プロジェクトの推進について若い人達に個人・組織の両面
から、方法論的・テンプレート的に参考になる情報を提供していきたい。

関戸 博高 氏

スターツコーポレーション エグゼクティブアドバイザー