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コラム

ICTで変化?観光と宿泊

2019.12.24

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

東京名古屋大阪福岡札幌横浜京都神戸などの主要都市を中心に東京オリンピ
パラリンピクに向けてNewホテルが続々と生まれつつある。インバウンド増加が大きな起因
だ。諸外国の中で中国韓国台湾ベトナムが欧米の国に比して著しい。政府は2020年に
4,000万人超の目標を設定しているが、対立に陥りやすい国も含まれており、今後は一時的な
減少リスクも孕んでいる。対馬では日韓関係悪化で観光客が激減。国際線の便数も中国が韓国
を抜きトップ。国際間の問題やテロ、温暖化による気候変動などは何処の国でも起こりうる。
アフリカでは100年ぶりの干ばつで世界自然遺産の観光名所、ビクトリア瀑布がなくなり観光
客も激減。日本では、強風と豪雨の性質が異なる今年の二つの台風で、箱根を始め多くの観光
地や名勝地が被災し日本人観光客が激減。しかし、訪日観光客の動向に大きな変化はなく頼み
の綱だという。余談だが箱根登山鉄道の全面復旧見通しは、来年の秋だという。被災県では観
光旅行の補助金を出す“ふっこう割引”で支援を図っている。
一方、今年の秋に開催された“ラグビーワールドカップ2019・日本大会”は、横浜だけでも
延40万人超が観戦するなど大いに盛り上がり、世界中からの訪日客が増加した要因となった。
しかしながら、8,000万人を超えているフランスや日本より多いスペイン、アメリカ、中国、
イタリアに比べると日本はまだまだ伸び代があるのではないだろうか。

最近はインスタグラムやTwitter、Facebook、LINE、ブログ、YouTube、ナビゲンなど
のICT活用によるスマホやPCでのソーシャルメディア情報で突然に脚光を浴びる新観光地・
名所も出現している。サービスでは人によるおもてなしが最も重要だとは考えるが、先日、所
用で訪ねた生まれ故郷の南紀白浜でも多くの訪日観光客を見かけた。果たしてソーシャルメ
ディアも含めサービスは十分に行われているのか疑問が残り、ハラール対応やモバイル決済、
多言語対応など課題も多い。
積極的な北陸3県の寺社ではインバウンド対応でAIによるコンシルジサービスキャシュ
レス決済、最寄りの駅からの自動運転車の送迎実験などが進められ、四国の道後の旅館では顔
認証によるキーレス化やチェックアウト時の簡略化などの実証実験を始めたという。近隣国の
モンゴルでは、新ウランバートル国際空港が来年に開港する。-25度にもなる厳冬期のモンゴ
ルから暖かい日本の南紀白浜への観光客誘致はどうだろうか。
北のJR北海道は札幌にトレハウスを利用した無人の宿泊施設「ジェイアール モバイ
ル イン サッポロ コトニ」をこの12月に開業した。来年の秋ごろから観光列車にも活用でき
る新型特急も視野に入れているという。ドローン専用列車で北海道を巡り、インバウンドが自
由に楽しめる企画などは、どうだろうか。新型車両を今後も投入予定の南のJR九州だけでな
く、豊富な観光資源が眠るJR北にも期待している。

CBREの調査を借りれば、日本のホテルの増加率が最も高いのは京都府の57%増、次いで大阪
府の42%増。ちなみに東京都は31%増そして札幌と続くがオリンピックのマラソンと競歩
の会場が札幌に決まったこともあり、来年の訪問客数はかなり増えるものと想定されホテル不
足となるとも考えられる。
昨年、小生が編集委員で参加しているディテール誌で「価値を生むホテルのディテール」の特
集を組んだ。ホテル設計のスペシャリストの浦一也氏と小生で担当することとなり、カプセル
ホテルと民泊を除く多くの最新事例を調査し纏めた。ところが、除外したカプセルホテルや民
泊の人気が、最近、急上昇しているという。そこで、今月発売のディテール誌冬季号にホテル
特集第2弾が好評につき組まれ、カプセルホテルも掲載されている。そもそもこのカプセルホ
テルの歴史は意外と古く1979年に大阪のニュージャパン観光が「カプセルイン大阪」を
梅田に開業したのが始まりだという。最近の事例では、Archi Future 2014で講演された
平田晃久氏設計のカプセルホテル「9h ninehours:ナインアワズ浅草」と前述のディテール
誌で紹介された「9h ninehours:ナインアワズ赤坂」がある。リニューアル事例では、神楽
坂に昔の花街の元料亭の情緒を残しつつリノベーションした「TRUNK(HOTEL)」があり、
世界のお忍びセレブが訪れる隠れ家的な宿泊施設だという。ホテルではないが、黒川紀章氏設
計の「中銀カプセルタワ」も10㎡のカプセルが、構造体のコア部に取りついたユニクな造
形で印象深い。新陳代謝するカプセルホテルへの応用も考えられる。併せ、カプセルホテルの
高級化も見られる。航空機のキャビンをイメージしたものもあり、セミダブルのベッドを始め
大型の液晶テレビ、スマホとパソコン使用を想定しテレビとの連動させる端子も備えている。
新機軸のアパートメント型のホテル「ミマル」が18年に上野で開業され、「GRIDS」も6施設
を展開中だという。家族や友人での多人数で訪れる観光客に人気だとか。昭和の街並みで人気
の谷根千(やねせん)の民泊や里山民泊もある。ランドバンクの手法により、設計者のデザイン
力で空家や古民家を魅力的な宿泊施設に改修するミニ開発も活発。オリンピックなどのイベン
ト時に貸し出す民泊などは、ラグビーワールドカップ2019・日本大会で稼働していたという。

一方、京都では、伝統的な京町家の保存と再生を見据えた宿泊施設へのリノベーション気運が
盛り上がり、ワコールの事業「京の温所」シリーズは、ディレクションを皆川明氏、設計を
中村好文氏が担当し「釜座二条」や今年の10月にオープンした元西陣織商家の「西陣別邸」
がある。インテリックスと京阪電鉄不動産の共同事業で11月には、元乾物屋の「宿ルKYOTO
抹茶ノ宿」がオープンしている。
片やインバウンドの行動が京都市民の生活への悪影響や弊害も見え隠れしており、門川市長は
持続可能な魅力ある都市であり続けるために市民生活と観光との調和をより一層重視するとの
考えのもと、環境行政と共に民泊の在り方を検証していくと話されている。
北海道のニセコは、南半球が夏の季節に良質の雪でスキーが出来るとSNSで拡散。そして今や
絶好の冬のリゾート地として人気になり、世界のセレブが集まる。このニセコでも土地代の高
騰や人手不足、商店街の空洞化など地元の住民生活に問題も発生しているという。今後は、商
店街や空き家対策も含め各地域独自の検証が必要となるだろう。空き家対策に特化したスター
トアップ組織も生まれ、全国での取り組みが始まっているという。

東京の銀座の街では昼夜を問わずスマホ片手に巡る多くの訪日客が見られ、商業建築では、
ファサードのリニューアル合戦の様相を呈している。一時の爆買いではなく、日産のショー
ルームや日本料理に舌鼓を打っている様子などを見ると銀座や浅草を楽しむスタイルも増えて
いるようだ。これに応えるように前述のディテール誌のホテル特集や「星のや東京」では、和
風のデザインも多く見られる。日本の良さを楽しむ質の高い訪日客も確実に増え、これに呼応
するように米国のヒルトンホテルが2022年に北陸の富山市に開業予定。立山黒部アルペン
ルートや飛騨高山での温泉や白川郷合掌造りなどの訪日客もターゲットとしているようだ。
ICTやIoTなどの手段で、宿泊施設や観光地の情報活用方法や宴会場などを必要とした団
体客からグループや家族対象の宿泊スタイルへと変化を見せ始めている。併せ、問題になって
いるインバウンドのマナ向上には時間も掛かるだろうが日本人も顰蹙(ひんしゅく)を買た経験があり、
今後の向上への期待感は強い。

最後に、今年の「Archi Future 2019」に多くの方のご参加をいただき、ありがとうございま
した。来年も意欲的で魅力的な新企画の情報発信を心掛けていきます。
今日はXmasイヴ。良き年をお迎えください!!


松家 克 氏

ARX建築研究所 代表