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コラム

体裁よりも「共有パラメータ」の価値に
目を向けよう!!

2020.03.12

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

最近になって、今まで様子見だった人もBIMを活用しはじめて、ようやく普及に向けて歩みは
じめた感じがしています。ただ現実は、最初に陥りがちなBIMに対する過剰な期待からか、
様々な場面でちぐはぐな活用が散見される状況に陥っている気もしていて、BIMをやれば勝手
に納まり調整ができたり、いつの間にか積算できたり、自動設計できたりというような幻想が、
ひとり歩きしているのではないかという危惧を覚えたりします。BIMは自分で触ってこそ真価
を発揮するのであって、他力本願のBIM活用では大したことはできないことも実感してもらう
必要がありますが、丸投げ体質のこの業界では、この幻想と現実の溝を埋めるのが相当難儀で
あったりするのも事実です。
そして、相変わらずBIMの活用と言いつつも結局は3Dによる空間調整でしかなかったりとか、
BIMから出図した図面の体裁調整に膨大な時間を浪費して右往左往していたりとかで、データ
ベースとは程遠い低位置で足踏みしている感が否めないのも事実です。
これ以上書くと、愚痴でこのコラムが終わってしまいそうなので、この辺にして。


体裁の議論はそこそこにして、データの価値に目を向けましょう!!

前回まで、3回に分けてBIM-MEPAUSの取り組みについて紹介しましたが、その中で特に重要
なポイントは、業界で「共有パラメータ」を統一したことでした。

この「共有パラメータ」の重要性については、日本では余り浸透していないように感じるので、
今回はこの点について触れておきたいと思います。

「共有パラメータ(Shared Parameter)」というのは、Revitにおいて「ファミリパラメータ」、
「プロジェクトパラメータ」、「グローバルパラメータ」など様々なパラメータがある中で、
唯一プロジェクトを跨いで共通して活用できるものになります。そして、「共有パラメータ」
はGUIDという世界中で重複することがない唯一のものとして定まるID番号で、パラメータを
規定できる特徴を有します。
例えば、「暖房能力」というパラメータが、
「e1f84704-4be3-4895-a28e-ba88fdf07db2」という、8桁−4桁-4桁-4桁-12桁、計32桁
のID番号で規定されます。入力する値も文字や整数、実数、流量、冷房負荷などの入力条
件の中から、暖房負荷(HVAC_HEATING_LOAD)という単位系で規定できます。
この特徴を有するため後から誰かが新たなパラメータを追加したとしてもID番号が重複する
ことなく、データベースとして継続的に管理することが容易にできますし、単位系も統一した
データベースを構築することが可能です。

もしGUIDを用いないと、何かパラメータを追加しようとした時にID番号の振り直しが必要に
なったり、新旧のID番号混在による煩雑さが課題になったりします。GUIDを使った「共有パ
ラメータ」ではこのような煩雑さが無くなりますし、例えば、業界標準のパラメータと社内独
自のパラメータを混在して管理するといったことも可能になります。この点が「共有パラメー
タ」の優れた点ではないかと思います。

 共有パラメータの例(RUGJPN_MEP_SharedParameter_ver1.1.txt)

 共有パラメータの例(RUGJPN_MEP_SharedParameter_ver1.1.txt)


ただし、「共有パラメータ」はひとつの共有パラメータファイル(txt形式)では同じ名称の共
存を許さないので名称の重複は起こらないのですが、もし、別ファイルにそれぞれ同一名称の
ものがあると、ID番号は違ってしまうので同じものとして認識されず集計も別物として扱わ
れてしまうことに、注意が必要です。
例えば、メーカーファミリを、独自に共有パラメータで「消費電力」と作成して数値を入力し
たとしても、他社のメーカーの「消費電力」とは違うものと認識され、合計値を集計すること
ができなくなります。

だからこそ、業界で「共有パラメータ」を統一することは最も重要なことで、オーストラリア
では真っ先にこの「共有パラメータ」の標準化から着手したのです。

日本ではまだ、BIMの活用がプロジェクトごとに完結していることが多く、また設計から施工、
FMへと属性情報を受け渡した事例が非常に少ないこともあり、この重要性に気づけていない
ように感じます。そのため、「プロジェクトパラメータ」だけで十分だと思っている方や、ア
ドオンソフトで毎度毎度「共有パラメータ」を量産してデータ入力してしまっている方も見受
けられます。

これからのBIM活用に求められるのは設計から施工・FMへのデジタルデータでの連携、そし
て、メーカーやファブリケーションとのデジタルデータでの連携にあるはずで、これを実現す
るためには、最低限共通化をはかるべきもの(それ以外は各社ルールで良いですが)について、
国内で標準化された「共有パラメータ」を整備して、皆で利用していくことが求められます。
それが実現してはじめて、その先の社会基盤としてのデータベース整備に繋がるのではないか
と思っています。

現状、建築設備に携わる技術者達が忙殺されていることは、建築図から部屋名や床面積、天井
高を読み取って、負荷計算や換気計算やエアバランス表や機器選定計算書や機器表に転記して、
そこから省エネ計算に必要な項目を転記して、建築確認申請に必要な書類作成のために転記し
て、積算の内訳書や見積比較表に呼称や形式や主要能力値を転記して、製造者は見積書作成の
ために機番や主要能力等を転記して、現場でも施工者がメーカーに発注書を作成するために転
記して、そして、竣工時には施工図等必要書類をまとめるために、また転記して、そして維持
管理のために機器台帳を作成するためにまた転記して、といった作業とその整合確認だったり
します。何という壮大な無駄を繰り返していることか。
これを、国内標準の「共有パラメータ」を使って、一度入力した値を、みんなが流用できたと
したらどれだけ生産性が効率化するでしょうか。これが設備でBIMを活用する一番のメリット
ではないでしょうか。

現状のBIM活用は、未だに3Dでの空間調整の話に終始していたり、BIMソフトを使って紙や
PDFで出力した時の図面の体裁の話で留まってしまっているように感じます。
人が見やすいかどうかの図面体勢の議論を突き詰めたところで、劇的に効率化がはかれる訳も
なく、それは建設業界の内輪の話でしかなく、そこから何か価値が生まれるとは到底思えませ
ん。これから人口が減って行こうとしている中で、人を介在しないと受け渡せない仕組みは早
晩限界を迎えるに違いありません。
アナログから、デジタルデータへ。
そろそろ、BIM本来のデータベースの整備に向けて具体的なアクションに移すべきではないで
しょうか。

そういう思いから、Revit User Groupという有志によるユーザー団体では、Autodesk協力の
元、国内でRevitを利用するための「共有パラメータ」「テンプレート」「ジェネリック
ファミリ」等の標準類を整備して、公開しています


製造業の方がメーカーファミリを整備する際には、この「共有パラメータ」を必ず利用して属
性情報を入力して頂きたいと考えています。そうすれば、標準テンプレートで整備した機器表
に自動的にメーカー仕様が反映されそれがいずれ建築確認申請や省エネ適判そしてFMへ
の連携等に繋げていくことが可能になるはずです。
機械設備については、ファミリ仕様書も公開しているので、是非参考にしてみて下さい。

そしてユーザーも、空間調整や図面の体裁の議論に終始したBIM活用からそろそろ卒業して、
データの価値に目を向けませんか?

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長