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コラム

「Zoom飲み」に学び、「Hangoutsお三時」を催す

2020.04.14

ArchiFuture's Eye                 日建設計 山梨知彦

■コロナがWeb会議を加速
こうして改めて取り上げるまでもないが、コロナ騒ぎがWeb会議を加速している。
僕自身も、1カ月前には会社のテレビ会議システムに自分で触ることはなかった。今考えてみ
れば恥ずかしく非生産的な話だが、秘書さんにセットアップを頼むのが会議前のルーティンに
なっていた。もっと正直に言えば、普段は東京にいてナマ会議(こんな言葉があるのかは知ら
ないが)に出ることが多いため、遠隔地からテレビ会議システムなどを通じて会議に参加する
のは他人事であった。テレカンファレンスは、漠然と「やりにくそう」だが「致し方ない」の
で開催されているもので、完全に懐疑派で自分からは積極的に参加したいとは思わない場で
あった。

■Web会議は意外に効率的
それがどうだ。COVID-19禍により在宅勤務を強いられる状況の中今では一日数本のWeb会
議に参加したり、自分が主催者となりWeb会議を頻繁かつアクティブに開催したりしている。
1カ月前まで触れたこともなかったHangoutsやHangouts Meetやchatの違いを理解し、
Zoomの敷居の低さとセキュリティの脆弱性を念頭に置きつつ、いくつかのツールを並行して、
状況に合わせて適宜使い分けている。
使ってみると意外な発見の連続だった。Web会議システムで圧縮されフラットになった音声を
聞き分けようとするためだろうか?はたまたハウリングやエコーを避けるために発言が終わる
度にマイクオフにするためだろうか、複数の発言者が同時に発言したり、無駄な反復発言をす
るような状況が激減した。この結果、他人の発言をよく聞くようになり、会議が本題から外れ
ることなく線形に進み、多くの会議が効率的になり結果として会議時間が短縮できているよう
に感じている。会議がスムーズに進むようになると、俄然在宅勤務の方もメリットが感じられ
るようになってきた。

■習うより、慣れろ
最初はCOVID-19対策で、「致し方なく」始めたテレカンと在宅勤務だったが、思いのほか快
適で効率的な働き方を生み出している気がする。これまた正直に言えば、働き方改革の中で在
宅勤務が奨励されてはいたが、これまた他人事で試してみる気さえしなかった。ところが今回
の事態に至り、在宅勤務にどっぷりと浸りそのメリットを感じはじめている。コロナ騒ぎが過
ぎた後も、出来れば週一日、少なくても二週間に一回は在宅勤務を続けたいものだと、今はそ
う思うようになったから不思議だ。COVID-19蔓延による緊急事態宣言下の状況で、呑気かつ
不謹慎な話で恐縮だが、あれほど苦労しても歩みが遅かった働き方改革を味わってきた身とし
ては、物事「習うより、慣れろ」の原則が力を持つことを改めで実感している。

■テレカンは線形的
テレカンの良い点ばかりを拾い上げたが、もちろん懸念もある。経験や自然に関するつたない
知識からすると、本筋の幹から外れた枝葉に芽生えた事柄が、ある時大きな方向性を決め、主
流となることを学んできた気がする。同様に、会議で雑談が減り、議論が本題から外れること
もなくなり線形的に進むことは、確かに会議の効率は高めるであろうが、議論の多様性を狭め
結論を予定調和に落とし込む危険がある。そして何よりも、雑談から生れる新たな発想の芽を
つんでしまいかねない。ただしこうしたデメリットをもってWeb会議システムの根本的な問
題とするのは、いかがなものか。これを補う手法や手立てを補えば済むことなら、デメリット
は致命的なものでなく、むしろ特徴の一つと捉えるべきかと思う。

■Zoom飲みに学ぶ
Web会議のデメリットを補う手立ての一つは、当然フェイス・トゥー・フェイスのミーティン
グになるだろう。コロナ騒ぎが沈静化すると、今度はリアルな会議や飲み会のメリットが注目
され、再評価されるであろうことは、誰もが思い描くところだろう。でもWeb会議システムに
も、何か効率化以外の視点からの機能を組み込めたなら、それもまた面白いのになあと、そん
なことを考えているとき、「Zoom飲み」なるものを知った。
今、社会人である娘と同居している。彼女の会社はかなり前からCOVID-19対策で在宅勤務に
入っていて、もう1カ月近くも仲間に会っていないので、Web会議ツールの主流となっている
Zoomを使って「Zoom飲み」なる飲み会をやるという。聞けば若者の間で流行っていると
いうではないか。だが僕にはピンとこなかった。「そんなことやって面白いのだろうか?」と
いう疑念が先に立ち、その場の盛り上がりが想像できなかった。
夕方になり、僕も彼女もそれぞれの部屋での在宅勤務を終え、通常なら晩御飯となる時刻に彼
女はおつまみと飲み物を抱えて部屋へそそくさと戻っていった。さあどうなることやらと思っ
ていたのだが、部屋から聞こえる話し声は徐々にボリュームアップをして、部屋の外からでも
わかるほどの笑い声が響いている。盛り上がりは数時間たっても止むことはなく、部屋から聞
こえる娘の声は、大声でしゃべりすぎて、かすれてさえいるようだった。
ZoomをWeb会議ツールとしてしか評価できず、その先の使い方を想像すらできなかった僕は、
既に自分が時代に取り残された存在であることを実感した。

■「Zoomお茶」や「Hangouts お三時」
酒が飲めない僕は、早速仲間に「Zoomお茶」を呼び掛けてみた。かつて、僕の仕事場では午
後三時に「お茶の時間」があり、ワークプレイスの中央のテーブルに置かれたお茶とお菓子を
求めて人々が集まり、そこでデザインに関わる雑談が自発的に交わされる貴重な時間だった。
それが仕事の効率化などのトレンドの中で、いつしか無駄な時間と位置付けられ居場所がなく
なり、この良き風習は消えてしまった。
在宅勤務が続くこの状況の中で、飲み会ならずとも、仕事の合間に無駄話が出来る時間や機会
が設けられたらどんなに有意義なことだろう。Web会議システムを無駄話システムとしても使
いやすいようにバージョンアップされていくことを期待している。一つの会議の中で、複数の
議論が同時に行えるようにして、会議中に隣席の人とひそひそ話が出来るような状態をシミュ
トできたりするようになれば脱線そのものが目的でもある「Zoomお茶」や「Hangouts
お三時」にも、線形で効率重視な会議にも、さらには脱線を積極的に許容するブレストツール
としても、さらに便利に使えそうな気がする。
もっともフレキシブルな連中は同一のWeb会議のために設定された複数のチャットにPCや
iPhoneなどで同時多重的にアクセスしつつリゾーム型のWeb会議を既に仕込んでいて、僕ら
にはそれが見えていないだけなのかもしれないが。

山梨 知彦 氏

日建設計 常務執行役員 チーフデザインオフィサー 設計部門 プリンシパル