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ユーザー事例紹介

デジタルワークプレイスの実装がもたらす
オフィスの変革と新しい価値創造<日建設計>

2020.10.14

先進的なオフィスビルなど多種多様な用途や規模の建築物の設計、都市デザイン、大規模プロ
ジェクトなどを手掛ける、日建設計。
現在、全社を挙げて取り組みを進めているのが、オフィスに変革を与える「デジタルワークプ
レイスの実装」である。デジタルワークプレイスという言葉自体に馴染みがない人が多いのが
現状だが、デジタルワークプレイスというものがコロナ禍のオフィスに変革を起こし、新しい
在り方や価値をもたらすという。
今回、そのデジタルワークプレイスを実現するために必要となる要素、クリアすべきハードル
などについて、同社のデジタル推進グループを統括する堀川 晋氏をはじめデジタル技術の活
用推進を担っている角田大輔氏、西 勇氏の3名にお話を伺った。

日建設計のデジタル戦略の枠組みと新たなワークプレイスの在り方
日建設計で全社を横断するデジタル推進グループを編成し、デジタル技術の活用を進める
堀川氏、角田氏、西氏。同グループを統括するプリンシパルの堀川氏は2019年からグループ立
ち上げにあたりICT関連の状況を調査すると各企業ともに同じ悩みを抱えていることが実感
されたと語る。わかりやすい例として、経済産業省が2018年に発表した「DX(デジタル・トラ
ンスフォーメーション)レポート」を挙げて説明する。

       株式会社日建設計 執行役員 
       デジタル推進グループ プリンシパル 堀川 晋 氏

       株式会社日建設計 執行役員
       デジタル推進グループ プリンシパル 堀川 晋 氏


堀川氏は「多くの経営者がデジタル技術を活用し、新たなビジネスモデルを創出するDXの必要
性は感じていても、現実的には既存システムが事業部門ごとに構築されて全社横断的なデータ
活用が難しい場合などが多いのが現状です。日建設計でも同様の部分はあり、さらなるDXの実
行と加速は喫緊の課題でした」と振り返る。デジタル活用に関しては、業界をリードしている
同社だが、さらに根本的な解決を目指し、堀川氏らは「日建設計の仕事の価値をより高めこと、
またクライアントに対して“新しい価値”を提供することの2点を目的として我はこのグループ
を組織しました」と語る。

       株式会社日建設計 デジタル推進グループ 
       デジタル戦略室室長 兼 DDL室長 角田 大輔 氏

       株式会社日建設計 デジタル推進グループ
       デジタル戦略室室長 兼 DDL室長 角田 大輔 氏


デジタル推進グループは4つの部署で構成されるがデジタル整備を進める役割を担う「デジタ
ル戦略室」が掲げるビジンの1つとしてデジタルワークプレイスが存在する。社内外でコミュ
ニケーションやワークフローを含めてデジタル技術を統合化していくことで、新たな価値を生
み出そうというものである。また、堀川氏は「これまで “ワークプレイスのデザイン” を考えた
時、“どんな空間がいいか” ということをいきなり考えがちでした。そうではなく、ワーカーの
意識を調査、どんな働き方を期待しているかを把握した上で、最適なワークプレイスを提案す
る、という手順で考える必要があります。クライアントへのスマート化提案においても、この
手順を意識しながら、デジタル技術を上手にミックスすることが大切と考えています」と語る。

       株式会社日建設計 デジタル推進グループ 
       デジタル戦略室 シニアBIMコーディネーター 西 勇 氏

       株式会社日建設計 デジタル推進グループ
       デジタル戦略室 シニアBIMコーディネーター 西 勇 氏


日建設計はすでに、『Experience Research Space』と名付けたという取り組みを自社で実施。
これは日建設計東京ビルの1フロア全体で、執務スペースのデスクなどの配置を工夫し、セン
サリングでデータを取得・解析し、働く環境を向上させるというもの。室温や音の状況、人の
密度など幅広く測定。継続的なデータ蓄積と解析を行い、社内のWebサイトで情報共有してい
る。データとともにワーカーからの意見も合わせて、トライ&エラーを繰り返しています」と、
堀川氏は具体的な取り組みを語り、さまざまな視点から同社がデジタル化を推進している状況
も伺える。

 Experience Research Space 騒音データの可視化

 Experience Research Space 騒音データの可視化


デジタルワークプレイスも一体とした働き方の改革
さらにデジタル戦略室室長の角田氏は、より詳しくデジタルビジョンや考え方を語ってくれた。
「私たちは最近、空間のデザイン提供だけでなく、竣工したあとの使い方や、そこで行われる
振る舞いを含めて空間をどうしていくかという、運用フェーズまで関わることが多くなってい
ます。ワークプレイスにおいても、人が場所をどう使っていくか、環境としてどう提供するか
といった+αのことを計画段階から盛り込むニーズが高まっています」と分析。「 “働き方” に
しても、空間だけの話ではありません。仕事を支援するツール、新しい働き方に合わせたルー
ルの見直し、これらをバラバラにではなく、一体的に考えていくことが必要です。それらを
一体的に考えることで初めて空間の使い方が定まっていくのです」。

  デジタルワークプレイスの基本概念1

  デジタルワークプレイスの基本概念1


そして、最近の鍵となっているのが、前述でも登場したデジタルワークプレイス、つまり、
オフィスなどの物理的なワークプレイス以外での働く場所、時間を包括的にとらえた場の実装
である。特に、2020年の新型コロナウイルスの流行下でリモートワークの体制を取らざるを
得ず、デジタルワークプレイスの実装が同社内でも喫緊の課題となったという。
「バーチャルな場と物理的な場を一体的に考えていく必要が高まっています。社員各自が働く
ときに、仮想の場を定義しないとバラバラに働き、バラバラな状態のままで終わってしまう。
パソコンやタブレット、ソフトウェアなどのツールにしても、あるべき姿を定めて総合的に考
えるように管理しないと、各自好きなものを使ってカオスになります」と角田氏は難しさを指
摘する。
実際に日建設計では一時期リモートワークが100%となり、各自の環境に見合うツールの整備
を進めたというが、作業の仕方で選択肢は複雑に変化する。そこも同グループが主体となり、
全社的にバランスを取りながら、ツールの選択や環境構築を進めたという。
また「難しい反面、当社では2,000人を超える社員の振る舞いやアクティビティを分析し利活
用できるスケールメリットもあります。現在、データを常時使える状態で貯めておく環境を構
築することも構想しています。対外的な価値に繋げることを見越してデータを蓄積し、データ
の分析を予測につなげ、これまでにない価値創造を目指したい」と角田氏は前向きだ。

  デジタルワークプレイスの基本概念図2

  デジタルワークプレイスの基本概念図2


PDFを軸にしたソリューションによりコミュニケーションが円滑に
日建設計では社内のデジタルワークプレイス構築におけるICTツールの選択についても、情報
の分散を防ぐ意味で導入ツールもある程度統一を図っているという。その中で、リモートワー
クが進む同社で、積極的に活用されたツールの1つが、パナソニック ソリューションテクノロ
ジーが提供する図面PDFソリューション「Bluebeam Revu(ブルービーム レビュー)」である。
西氏は「建築に特化したPDFソフトで寸法が取れ、面積や体積が確認できること、また構造図
と意匠図の重ね図が作成できることなどが特長です。全社的に在宅ワークとなったときは各自
が紙に印刷しにくい状況で、オンラインでPDFをベースとしたワークフローが効果的でした。
Bluebeam RevuはPDFのメモ添付、注釈付きの指示書作成、検図・査図の記録にも使われて
おり、PDFにコメントを付けた内容をCSV出力しExcel版のチェックシートを作成することで、
さまざまな関係者間での情報共有の効率アップを図りました。紙の代替としてだけでなく、
デジタルを活用したワークフローを稼働させることに活用していきました」と振り返る。
情報やデータのやり取りが容易で、特にPDFは汎用性があり誰でも使えるため、使用者のテレ
ワークやペーパレス化に貢献したという。

 Bluebeam利用シーン(社内レクチャーの様子)

 Bluebeam利用シーン(社内レクチャーの様子)


角田氏も「PDFは時系列的なコミュニケーションをとりやすく、各自で異なる場所と時間軸の
中で業務を進めるうえでは有効です。また人には認知限界がありBIMだと情報量が多すぎます。
BIMだと使える人も限られてきますが、PDFは伝えたい情報を2次元的に落とし込めてわかり
やすく、皆が使えるためコラボレーションには適した手段ですね。今後は、デジタルワークプ
レイスの構築にはAPI連携も使って拡張していくことも考えています」と補足する。
Bluebeam Revuは取材を行った段階では、構造や設備、コストエンジニアリングなどで主に
使われており、今後は設計部門も含めた展開が検討されている。日建設計のデジタル化、そし
てデジタルワークプレイスの構築の中でBluebeam Revuも組み込まれていくだろう。
 
日建設計では、具体的なスケジュールを設定し、デジタル化が進行中だ。
「目指すのは、誰もがテクノロジーに向き合える企業文化の醸成。2023年を目途にこの企業
文化が定着していることを想定しています」と角田氏。堀川氏は「企業はこれまで事業部ごと
で分かれていました。一方で、デジタルは会社で統括する役割を担っていて、統合によりとて
も大きなパワーを発揮します。全社横断の立場を活かし、社内の価値創造、効率化、クライア
ントへの価値提供をより進めていければと思います」と意気込みを語る。

「Bluebeam Revu」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。

   デジタルワークプレイスの実装と発展

   デジタルワークプレイスの実装と発展


 日建設計の竹橋オフィス

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