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コラム

2020年集まり方改革

2020.11.06

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

唐突ですがArchi Future 2020 面白かったですね!開催直後のコラム執筆なので触れずには
いられません。コロナ禍に必要に迫られてのオンライン開催でしたが、オンデマンド配信だっ
たので講演会・セミナーはすべて聴講できました。例年ですと時間が重なった“裏番組”は見逃
すしかないのですが、このタイムシフトが可能になったのは大変ありがたいことです。今回は
雑感となってしまいますが各セッションの開始順に感想を連ねていこうと思います。
 
セミナーS-1は「デジタルワークプレイスの構築からデジタルデザインの実践まで」という題
目で日建設計の角田大輔氏の講演でした。私が設計の人間というのもありますが、やはり実際
できたプロジェクトを持ち出してどのようにコンピュテーショナルなメソッドを当てはめて
いったかという話を聞けるのはArchi Futureらしい講演であり、オープニングに相応しい内容
でした。銀座 i liv(アイリブ)の波打つファサードはアートとデザインの境界を越えた美しさ
で、それをデジタルなシミュレーション技術で実現していることに痺れます。またIoTが生み
出す各種センサー活用によって「フィードバックできる建築」の可能性、「ベストデザインで
はなくジャストデザイン」など示唆に富んだ内容が続きます。TRI-AD日本橋の紹介ではワー
クショップで発生したWish項目のまとめ方がユニークで「WISH TOWN」という町を模した
形でアウトプットしたことには「なんでそうなった?」という驚きと、どうぶつの森的なゲー
ムを想起して「くす」と笑えました。「建築はインテグラル型なのにモジラー型で語られ
る」という設計のアクティビティについては、むしろ自動車業界に起きたような変化が今後建
築界にも起きて、BIMを用いたモジュラー型に傾いていくのかとも思えました。
 
基調対談「いま、甦る都市」では、池田靖史氏コーディネートでMITメディアラボの
Kent Larson氏とUCLAのGreg  Lynn氏による、まさに今世界で何が起きているのかを実感で
きる対談でした。Greg Lynn氏はCOVID-19に自身が感染した経験も踏まえて、他者との接近
を強要する公共交通機関やエレベーターに依存する都市のあり方については課題を感じつつも、
これらを解決する取り組みや研究はすでにパンデミック以前から始まっていると言います。そ
れは自動運転のモビリティでありロボットの技術です。また人間が動くのではなく空間がこち
らにやってくるというユニークなビジョンもありました。また新鮮な空気を求め屋外での活動
や歩ける生活圏に注目しているという話題もありました。Kent Larson氏も続けて公衆衛生と
環境問題の観点から歩行生活圏と自律配車可能な自転車について説明します。また空間の側が
目的に応じて変形する建築のロボット化のビジョンも示されました。お二人の話に共通すのが
モビリティであり、自動車に依存しない歩行生活圏での暮らしを目指すべきということでした。
これについてはずいぶん以前から理想とされる都市のあり方の一つであり、このパンデミック
はその変化を加速しているという部分に同意はするものの、東京圏ではテレワークの普及はタ
ワーマンションより郊外の戸建て志向に繋がり、都市のスプロール化を助長しているかもしれ
ません。職住の近接のためには職場が分散しなければなりませんが、今後各社のサテライトオ
フィスへの流れが生まれるか否かに注目したいです。
 
セミナーS-2は「 “集まり方改革” って何?」という題目でArchi Future 2020の裏トークが実
況されました。これは実行委員会の方々から生々しい苦労話を聞かせていただける貴重な内容
でした。コロナ禍により職場のリモート・オンライン化が否応なしに求められた結果、新入社
員のような新しい関係性をこれから構築しなければならない立場にとってとてもネガティブな
面があるという話題が出ました。実はこれは重要な気がしてます。今回のコロナ禍では社会が
テレワークについて肯定的と言いますかある意味必然のような位置づけになってしまいました
が、これ以前よりICT先端企業においては既にその試みがあり、いくつかテレワークに否定的
な企業があったかと思います。恐らくテレワークには企業にとって遅効性の危険性がありこれ
が徐々に顕在化するのでは無いでしょうか。一方でこの急激な変化が東日本大震災のように
一つの国に起きた厄災でなく世界が同時に見舞われたことで、リモート会議システムを始めと
するICTツールも開発が進み、急速な進化をしているのは事実で、ヒトとモノの物理的な集積
である現在の「都市」がこれから情報が集積する「新しい何か」に置き換わっていく未来は、
人間と機械との共生も含め未来像としては悪く無いと思いました。
 
パネルディスカッション1は「コンピュテーションが拓く新しいビジネス領域とキャリア」と
題し杉田 宗氏コーデネートでジオメトリエンジニアリングラボ石津優子氏とアルゴリズ
ムデザインラボ重村珠穂氏SUDARE TECHNOLOGIES丹野貴一郎氏に学生お二人を加えたユ
ニークなセッションでした。コンピュテーショナルな手法や技術がビジネスとしてマネタイズ
することの難しさと現在の教育の現場へ落とし込むことの課題が垣間見えた気がします。最近
会社でもKPIだの口酸っぱく言われることが多いのですが新しいことへチャレンジしたくなる
環境を作ることは産学問わず大事ですよね。
 
セミナーS-3は「異端児たち:建築・都市のxR新時代へ」と題し、福田知弘氏と大西康伸氏
お二人の掛け合いを楽しく拝聴しました冒頭お二人がVRゴーグルを着けて登場されたのは少
し狙ってた感ありましたが、リアルタイムレンダリングが私達の業務の手法を変えつつあるの
は間違いなく、VR・ARでのコミュニケーション技術は追いかける必要があるのですが、一方
で次々新しい製品が出てきて従前のものが陳腐化しちゃうのが難点です。
 
特別セッションは「コロナ以降の建築・都市-新世代のアプローチ-」と題し、金田充弘氏
コーディネートで川島範久氏、岩瀬諒子氏、谷口景一郎氏、津川恵理氏からの実プロジェクト
の解説を交えた建築イベントらしいセッションになりました。興味深いのはそれぞれの発表の
中で、「腐る建築」「老いる土木」「変化の事象を受け入れる」など時間軸を取り込んだコメ
ントがあったことです。BIMでも4Dや5Dなどと言いますが、あくまで建設段階の数年間に
フォーカスしています。私も最近木造建築に携わることが多いので経年変化には敏感になって
いますが、建物のライフサイクルを通じた4D・5Dやこれを都市スケールに適用する意義を感
じているところです。
 
セミナーS-4は「都庁を含む西新宿でのスマートシティへの取り組みと新ビジネス開拓」と題
し、大成建設の村上拓也氏からの発表でした。バーチャルシンガポールで見たようなことが私
達が見慣れた東京の都市で実現する可能性を垣間見ましたが、これらの価値をどうやってマネ
タイズしていくかが肝要かと思いました。
 
セミナーS-5は「モデルより “I” を重要視した設備BIMの推進」と題した安藤・間の
中山敬一氏、須賀規文氏からの発表でした。私もゼネコンマンなので直面しますが、元請や協
力会社間の垣根を超えて情報を共有するメリトを実際に感じてもらいWIN・WINになること
は理屈では説明できてもなかなか難しいことだと思います。建築・設備で比較すれば間違いな
く後者の情報が竣工後は重宝されますので頑張りたいところです。
 
パネルディスカン2は「現場の実務者が語るBIM / ICT活用による建築ライフサイクル
の革新」と題し、猪里孝司氏コーディネートでスターツ総合研究所の光田祐介氏、大和ハウス
の伊藤久晴氏日本生命保険の池田宜之氏、長谷工コーポレーションの堀井規男氏、山下PMC
の木下雅幸氏による発表と討議で、建築をめぐりそれぞれ異なる立場からご参加の、ある意味
Archi Future定番のセッションとなりました。とは言え、以前の同種のパネルディスカッショ
ンと比べると発注者・請負者を問わず同じ目線になってきた感があります。BIMの価値を多く
の方が感じ始めたということでしょうか。願わくば話題にあったように、今後は競争入札至上
主義から離れて欲しいと感じます。ビルのオペレーションシステムがクローズだという話題も
ありました。様々な領域において今後「オープン化」はキーワードだと思います。
 
セミナーS-6は「デジタル思考への転換がもたらす、新たな創造力と協創力」と題した清水建
設の佐竹浩芳氏の発表でした。私もゼネコン設計部の人間なので大変興味のある発表です。
BIMという言葉自体は業界の中で普及したと感じていますが、施工のフェイズでの活用が増し
た現在では、設計段階で担うべきこれまでの創造的な活用は新たに呼び方が定義されるべきか
もしれません。
 
さて駆け足でしたが、Archi Future 2020の講演会とセミナーを振り返りました。実行委員会
によるセミナー2では次回以降もCOVID-19の状況に依らずオンライン開催か、という話題も
ありました。冒頭に書いたように私はオンライン開催の恩恵を受けたと思いますが、各地でコ
ンベンションホールの需要がなくなるのも建設会社としては憂うべき事態かもしれません。後
年振り返った際に「2020年が集まり方改革の始まりだった」といわれるくらい、この唯一と
言っていいオープンなAECイベントには期待しています。

 写真はセミナーS-2の実行委員会の皆様の裏トーク様子。これはもはや“裏”ではありませんが
 「Zoom飲み」のような雰囲気が良かったです。

 写真はセミナーS-2の実行委員会の皆様の裏トーク様子。これはもはや“裏”ではありませんが
 「Zoom飲み」のような雰囲気が良かったです。

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長