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コラム

変わるオフィス環境、人の分散と集まりたい想い

2021.01.28

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

2021年の年明けは残念ながら緊急事態宣言から始まりました昨年の春の段階ではまさに
緊急で出社を抑制するために暫定的なテレワークでしたが、今回は恒常的な対応となることを
前提で臨んでいます。まずハードウェアですが昨年時にはBIMマネージメントセンターでは、
ほぼ全員がオフィスにデスクトップワークステーションを持ち、BIMを扱うには心もとないモ
バイルPCを携帯していました。途中VDIも試してみましたが総合的に判断しデスクトップ
を捨ててハイエンドなラップトップPCで可搬性を確保することにしました。もう間もなくオ
スをテレワーク前提の完全フリーアドレスにレイアウト変更する運びとなりましたので必
要に迫られて、という面もあります。またBIMソフトウェアのライセンス管理も従来は会社の
ネットワーク接続を前提としていましたが、これも持ち運びができる形態に変更しました。
データの保存先はBIMクラウドを契約したので遠隔地からのコラボレーションも可能です。昨
年はとにかく「走りながら考える」状態で通常業務を行いながら業務環境の試行・見直しをす
る状態が続き、今も継続中といえます。さらに輪をかけたのが年末の新型コロナ陽性者の急増
で、大晦日・元旦も落ち着かない年末年始でした。

ふと思い出したのが2000年の年始、いわゆる「2000年問題」対策として大晦日から
元旦にかけて会社に泊まり込んだ時のことです。結局あの時は何事も無くて拍子抜けでしたが
今にして思えばずいぶんな貧乏くじですね…。あの頃当社の設計部は練馬の光が丘にあり、飯
田橋の本店とは電車で40分程度見込む必要がありました。ちょうど6年前に飯田橋へ設計部
は戻ってきたのですが、社内の意思疎通を図る上で同じ飯田橋にいることは大事だなとあの時
は感じました。電話に頼らずぶらと行けば会える距離感というのはとても貴重だと思います
取手市に建設した当社の新技研「ICIラボ」のオフィスの考え方も、ブレインストーミングエ
リアとソロワークエリアとを建物を分離して利用者が行き来する、ある意味他者との距離感を
自分で選べる働き方を想定しました。

 写真は左がブレインストーミングエリア、右がソロワークエリア

 写真は左がブレインストーミングエリア、右がソロワークエリア


「空気を読む」というフレーズがありますが、計画段階で議論したのはまさにそれらの性質の
異なるワークスペースにおいて、「そこにはどんな空気が漂っていればいいのか」「どんな時
間が流れていればいいのか」という2点です。
そして現在、これまで当たり前と思っていたオフィスのあり様は、新型コロナ出現とともに変
化を余儀なくされています。今また閑散となったオフィスを見て本当にそう思います。そして
この変化は不可逆的であり以前の状態には戻ることはなさそうです。現在新しいオフィスを計
画する際には、仮にCOVID-19が終息したとしても、同様の感染症が現れ続けることを常に想
定しておかなければなりません。
 
もう一つの話題は新人研修です。建築設計部門ではここ数年1月から2月にかけて新人BIM研
修を実施しており今期は1月7日から月末までの3週間があてられました。もはや当然とい
えますが、研修自体もリモートでの開催を前提としなければなりません。緊急事態宣言を受け
て当初の予定も見直し、可能な限り出社日を抑制する調整をギリギリまで行っています。リ
モートでの研修は当初予想していたよりも難しいなと感じます。まず受講者の反応がわかり難
い。なるべく途中で設問しリアクションをしてもらう場面作りはしていますが、的確な回答が
得られない時のなんとも言えない沈黙の時間はつらいところです。またこれまでは講師と別に
サポートする人員をつけて、背後の方から作業に躓く人を見つけては補助を行う体制をとって
きましたが、それも今回機能しません。リモート講義自体は録画が出来るため、後日不参加者
がキャッチアップするため或いは参加者が復習する目的で利用できるメリットもあるのですが
それも緊張感を削いでしまうためリアルで対面する場合より記憶の定着が薄いのではないか
と推察します。教育の現場でご苦労されている先生方のお気持ちが少しわかった気分になり
ます。

ICIラボに隣接して当社の研修施設であるICIキャンプを計画したので得られた知識ですが、習
得すべきスキルには「ハードスキル・ソフトスキル・メタスキル」の3種類があると言われま
す。「ハードスキル」とは知識であり形式知の部分なので、一方通行のビデオ講義でも習得で
きる内容です。「ソフトスキル」はヒューマンスキルともいわれ、対人関係に関する非定形知
であり暗黙知に踏み入れています。この辺りから対面の講義でないと難しい範囲です。「メタ
スキル」は応用スキルであり実践で身につく経験知の領域です。例年行うBIM研修では実は座
学の部分は少なく、7~8割は課題実習にあてており、まさに最後のメタスキルを習得するこ
とを目的としています。誰がBIMを実践するかの議論の際に、「設計者はBIMで何が出来るの
か知っていればよい」と、実際の操作は他者が行うことを前提とする発言は社内でも聞く場面
がありますが、私は事あるごとに設計者自らがBIMを扱うことの重要性を強調しています。そ
こは書き始めると長くなりますので今回は割愛しますが、今回のリモートを前提としたBIM研
修においては、それぞれ受講者が離れた場所にいるため個人戦にならざるを得ないかな、と私
は想定していました。しかし6名の若い設計者の卵たちは全員での団体戦を希望してきました。
確かに課題は募集中の公開コンペなのでその考え方は有りです。しかし日頃からチームでの設
計を唱えつつも私自身は一人で好き勝手にできる仕事が実は好きなものですから、敢えてそち
らを選んだ受講者達に感服しつつも、どうやって期間内に最終アウトプットまでたどり着かせ
るか、この原稿を書いている現在も思案している真最中なのです。

 写真は今期の設計新人BIM研修の様子。私の想定を翻し、一つの課題をみんなで取組むこと
 になりました。タイムテーブルのほとんどがテレワークですが、最小限の対面での打合せも
 混在し、その時間の使い方は重要となります。

 写真は今期の設計新人BIM研修の様子。私の想定を翻し、一つの課題をみんなで取組むこと
 になりました。タイムテーブルのほとんどがテレワークですが、最小限の対面での打合せも
 混在し、その時間の使い方は重要となります。

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長