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コラム

【BIMの話】鏡よ鏡

2021.06.01

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

今回は珍しくタイトルから書きはじめているのですがふと気になって白雪姫の英語版を調べ
たところ、原文に

  “Magic mirror in my hand, who is the fairest in the land?”
  “Mirror, mirror on the wall, who is the fairest of them all?”

の2つが出てきて、鏡は反復しないバージョンがあること、韻を踏むために手鏡と壁鏡でディ
テールがちょっと違っていて、壁鏡バージョンのほうが質問のスコープが広いことなどがわか
りました。すみません、早々に脱線しています。

前回でこのコラムが50本目という話から過去50回を振り返っての話題もぜひというお声
掛けを何件かいただきました。主観的に振り返るとどうしても思い出補正が入りがちになるの
で、本来の姿を映し出すべくここでは全てのコラムを連結し、テキストマイニングを行うこと
で振り返りとしてみたいと思います。

私が以前公開した動画「10分ちょいでまあまあわかる 建築設計者のためのテキストマイニン
」ではほんの少ししか触れなかったKH Coderですが、非常に使いやすく強力なツールでな
にしろ頼りになります。細かい設定なしでも結果はある程度導出できますが、クラスタ数を調
整したり、解析対象とする品詞を絞り込んだりすることで、ある時一気に結果の読みやすさが
変わりうまいクラスタリングができたことがわかたりして快感です。そのKH Coderによ
て作成した多次元尺度法プロットと共起ネットワーク図がこちらです。

 図1:KH Coder 3による石澤コラムの多次元尺度法プロット

 図1:KH Coder 3による石澤コラムの多次元尺度法プロット


 図2:KH Coder 3による石澤コラムの共起ネットワーク図

 図2:KH Coder 3による石澤コラムの共起ネットワーク図


「会社」「会議」「実務」「システム」などの言葉が並ぶとああ会社員が書いているコラム
だなあという気持ちにさせられます(図1)。今更何を言っているのかという感じですが、
本人にその自覚が薄れてきているようです。いいのでしょうか。

「英語」「日本語」とか「最近」「読む」とかが抽出されると書きはじめのクセが見透かされ
ているようで若干恥ずかしい気持ちになります(図2)。今回もご多分に漏れず英語の話を枕
に使っており、この種の手癖の根深さを感じます。

マイニングのゴールは「発見(ヒーリスティクス)」にあります。すでに分かていること
確からしいことがデータで裏付けられることも発見ですが、直感を裏切るような事実・傾向が
発見されることにこそ妙味があります。

たとえばこれまでに書いたコラムの中に最も多く出てきた言葉は「BIM (253回) 」ではなく
「人 (262回)」だったとか「使う(134回)」話より「作る(139回)」話のほうが若干多か
たとか、会社員のわりに「フリー (25回)」に意外にこだわっているとか、現所属の名前にも
入っている「コンピュテーショナルデザイン (9回)」が思ったほど出てこないとかそういう話
ですが、私の中で最も意外だったのがこれです。

 図3:KH Coder 3による石澤コラムからの抽出語リスト、出現頻度順

 図3:KH Coder 3による石澤コラムからの抽出語リスト、出現頻度順


私としたことが、過去に259,277文字も書かせていただいておりながら、でんぱ組.incの話を
4回しか登場させていなかった(しかも1回は注釈のなか)。Twitterだけで私を知ってくだ
さっている方からはすっかり「なにかの事情で建築界隈にいるでんぱヲタの人」と思われてい
るようですらあるのに、これは少ない。とんでもない事態です。推しだなんだと言っておきな
がら、BIMの話は253回もするのにでんぱの話は4回だなんて周知徹底が不足しすぎていてア
イドルヲタとしての自覚が問われます。自己内の多様性を表に持ち出せと言ったのは誰だった
のか。私です。ここは気持ちを入れ替え、次回からこの連載は「【でんぱの話】」とでも冠し
て情報発信を強化しなければなりません。

……とはいえ界隈では「人からゴリ押しされるより自分で見つけた沼のほうが深い」と言いま
す。何でも人から薦められたより、自分から近づいたという感覚を持つもののほうが深みに到
達するものです。というわけで、でんぱ組.incの素晴らしさについては各位動画各種音楽メ
ディア
等をあたっていただくこととしますが10年以上続くアイドルグループの現在進行形の
姿はまた全くの新境地であり、これまで継続してきたことで培った楽曲やダンスなどのボキャ
ブラリーをどんどんリミックスして活動が広がっていることだけはお伝えいたしておきます。
はい、このくらいにします。

マイニングの話に戻りますと、大規模な消費データや行動データをベースとしたデータマイニ
ングは、それだけの投資を可能にするだけの大目標があってはじめて成立しますが、それが全
てではありません。うまくすれば、継続してきた活動そのものを対象とすることでなにか見出
す、ということが可能になります。そうした領域はprocess miningと呼ばれ、BIMの場合は
ソフトウェアが自動的に記録するログを対象とすることができるのでBIM log miningと呼ばれ
ます。

レコーディング・ダイエットは、体重という数値(とその上下)を見ることで生活をチューニ
ングしてゆく手法です。同様に、ログをうまく可視化することで、日々の作業やコラボレー
ションについて把握し、よりよい方法へナッジすることは可能と思われます。「姿見を見ると
痩せる」ではないですが、自己像を映す鏡をもつことは有用であり、それが消費活動やBIM上
でのアクティビティなど複雑なものであれば、ビジュアル分析(いわゆるBI、Business
Intelligence)の力を借りてダッシュボード化することが有用と考えられます。上記のテキス
トマイニングもまた、小さい例とはいえそのような視覚化と分析の一例です。

そのような主旨で書いていた論文を、先般 建築情報学会へ投稿しました。こちらはOpen
reviewというシステムにより、査読中の論文(Preprint)も公開され、オープンにコメントが
可能になっていること、私も査読中からこのように情報を公開・共有することが可能になった
ことなどの新しさがあります。

全編英語ではありますが、内容としては上記のようなテーマです(さすがにでんぱの話はして
いませんが)。是非ご高覧いただき、お気づきの点はコメントとしてお寄せいただければ幸い
です。
 

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ長 / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授