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コラム

スペースと設備オブジェクトを紐づけるパラメータ「対象機器記号」

2021.07.20

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

今回は、BIMに取り組み始めた頃にふと思いつきRUGのMEPテンプレートに共有パラメ
としてさりげなく組み込んでいる設備にとってきっと必要不可欠になるであろうパラメ
について、触れておこうと思います。
これは、空間要素である「スペース」と設備のオブジェクトである「設備機器」や「設備器
具類」を紐づけるための鍵になるパラメータで、幾つかのBIM活用シーンにおいて、トリガー
になるであろうと密かに期待して仕込んでいるものになります。

最近ではBIMへの理解も深まりつつあり、BIMの空間要素である、部屋やスペースの重要性に
ついては、ある程度理解され始めていると感じています。
建物の重要な情報源である空間情報は、BIMデータに一元化することで様々な活用ができる可
能性を秘めていますし最終的には建築物の社会基盤データとして引き継ぐべき価値のある情
報にもなると考えられますそして、コストデータや、運用時の温湿度やエネルギー消費量の
データ、建物グレードを規定する様々な原単位データをこの空間情報に紐づけることで、複
数の建築物を横断的に比較・分析することも可能になると思われます。

この「空間情報」のうち設備で扱うべきものには意匠が部屋情報として取り扱う部屋名
床面積天井高用途などと、設備単独で管理する室諸元情報や換気量、冷暖房負荷照度等
設備性能を規定するものなどが考えられます(もちろんこの他にも様々な活用方法があり得ま
す)。

そして、建物内に設置する設備機器や器具類は、この「空間情報」を元に選定する流れのもの
がほとんどで、部屋の床面積や天井高を元にした熱負荷や換気量等の空間条件から連動して決
めることができます。この「空間情報」を元に選定される設備機器や器具類は建物の中に大量
にあるため、これを自動選定するメリットは大きく、これを選定するルーチンワークを自動化
することが、設備でBIMを活用する最大のメリットであると考えています。

この時に、設備機器・器具類が対象スペース内に配置される場合には、BIM上でそのスペース
内にあるオブジェクトの個数をカウントすれば良いのですが、対象室(スペース)の外に設備機
器や器具が配置される場合には、スペースと設備オブジェクトを何かしらの形で紐づけるため
の工夫が必要になります。
そこで、その布石として、スペースのパラメータに「対象機器記号」というのを仕込むことを
思いついた訳です。
対象機器記号には幾つかありまして、外気取り入れを行う「給気機器記号」や、排気を行う
「排気機器記号」、空調を行う「空調機器記号」というのがこれに当たります。これらは
もそも建築確認申請での換気計算書でも必要な情報でもあるので、それほど真新しいものでは
ないのですが、複数室(スペース)にまたがる機器については、スペースに記入した「対象機器
記号」が同一のものを集計することで、合計風量を算出し設備機器の主要能力を選定すること
が可能になります。

このスペースと設備機器を紐づけるパラメータがあることで標準入力法による省エネ計算で
必要となる情報をBIMから書き出すことも可能となります。そしてこの「対象機器記号」の
パラメータも活用することで、BIMと連携した省エネ計算を実現することができています。
 


この考えを更に発展させると、機器以外に、シャフトやガラリを管理することも可能になりま
す。対象スペースに対する、「給気シャフト記号」や「排気シャフト記号」、「外気取入ガラ
リ」「排気ガラリ」というパラメータをスペースに設けることで、スペースに諸元情報と必要
換気量を設定して、対象のシャフトやガラリ記号を入力してあげれば、ガラリサイズやシャフ
トサイズを導き出すことができます。この方法により、基本設計の早いタイミングで、意匠設
計者にガラリサイズやシャフトサイズをBIMを利用して登録することが可能になります。


このスペースと設備機器・器具を紐づけるパラメータは、設計時の性能決定に利用できるだけ
ではなく、竣工後の維持管理で利用可能なパラメータにもなり得ます。

「対象機器記号」のパラメータを利用することでスペースと設備オブジェクトの関係性を把
握できるので、ある設備機器が故障した時や設備機器を更新する時に、影響が及ぶ部屋がどこ
になるかを瞬時に把握することが可能になります。
そして、この方法を機器だけではなく更に発展させて、アラーム弁系統やバルブ系統の管理に
利用することも考えられます。スペースに対象となるバルブ系統のパラメータを入力しておく
ことでわざわざ設備配管図やフル3Dの設備配管モデルを参照せずとも影響範囲を瞬時に把
握することが可能になります。この方法により維持管理BIMとして末端までのフル3Dモデ
ルを作成せずとも、少なくともメインルートと管理バルブまでの主要なBIMモデルの作成だけ
で、バルブ系統の管理は十分可能ではないかと思っているところです。
 


スペースと設備オブジェクトを紐づける「対象機器記号」のパラメータを利用して、合理的な
BIM活用を試してみては如何でしょうか。

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長