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コラム

BIMのマネタイズ考

2021.09.16

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

建物のデジタルデータとしてBIMモデルを作成する、という意味合いは、この10年で随分と
変わってきた感がある。最も大きな変化の一つは、建てるための建物情報から建物ライフサイ
クル全体で活用する建物情報にモデル化の対象領域が拡大した、ということだろう。それでも
俯瞰すれば、未だに建設分野から外に出ることが十分にできていないのではないか、と思うこ
とも少なくない。
竣工後にFMや建物維持管理でBIMモデルをはじめとする各種の建物情報を建設工程から継承
し活用することは、技術的にもデータフロー的にも可能であることはよく知られている。確か
に整合化された建物データを利用することで、情報管理コストが低減されるというメリットは
あるが、建物維持管理の劇的なコスト低減や期間短縮を実現するにはまだまだ課題がある。建
物維持管理は本来の建物の機能を適正に保持させるための営みであり、これまでのやり方を改
善せずにBIMを適用するだけでは余計な手間が増えるように見えてしまう。設計や施工と同様
に建物維持管理の現況の課題から改善点をあげ、情報管理の観点からBIMの適用を検討する必
要があるだろう。そしてそのメリットを建物オーナーやユーザーが実感できなければ、建設分
野の外で建物情報の価値が認識されるのは難しいということになるだろう。
 
FMの視点でBIMを新たなビジネスにするにはどうするかと問われることも少なくないBIM
は手段であり、「FMにBIMを導入するとどんなメリットがあるか?」という問いに対しては、
最初にFMを導入して何を実現するのかを明らかにしそれらを実現する建物情報活用手段と
してBIMを導入しなければメリットは得られない」と答えるべきだろう。「BIMを導入すれば
FMがよくなるか?」という議論は、「ワープロを使えば名文が書けるか?」「CADを使えば
名建築が設計できるか?」といったものと同様に意味があるとは思えない。
BIMによる新たなビジネスの拡大には色々な方法があるだろうが、単純に考えれば建設分野外
で活用できる建物情報とその手順を提供することではないかと思う。建物オーナーやユーザー
は自身の事業やアクティビティにおけるツールとして建物を建てたり借りたりする。建物情報
やBIMが事業やアクティビティで活用できると認知されれば、その価値に見合う対価が生まれ
るはずである。BIMの新たなビジネスモデルの創出と大上段に構えるよりも、まずはBIMのマ
ネタイズから考えた方が良いかもしれない。
 
インターネットにおけるマネタイズは、2000年前後から従来無料だったWebコンテンツの収
益化という意味合いで使われるようになった。通信販売の場を提供して出店料や売上手数料を
得る「ECモデル」、Webページに広告を掲載して閲覧数に応じた報酬を得る「広告モデル」、
アプリケーションやサービスが提供する機能の利用に対して課金する「課金モデル」、サービ
スの提供者と利用者を結びつけて仲介料を得る「仲介モデル」などが知られている。
これらは、「Webコンテンツによる情報発信」から一歩外に踏み出して別の何かと組み合わ
せることで、新たに対価を得るための仕組みとなった好例だろう。このようなマネタイズモデ
ルにBIMが適合するかについてはもう少し検討の余地がありそうだが、建物オーナーやユー
ザーが建物情報を必要とするシーンを具体的にイメージすることで、色々なヒントを得ること
ができると思う。
 
そんな観点からいくつかのシーンを想定してみる。
データセンターは自社物件だけでなく一棟借りやフロアや部分的なスペースの賃借と、オフィ
スと同じような運用形態を取る。オフィスと異なるのは、入居するICT機器やラックに対する
空きスペースだけでなく、床荷重や空調・電源容量が充足しているかそれらの整備工事が必要
かを調べなくてはならないこと、その地域だけでなく世界中に競争相手がいるということであ
る。あるテナントから「100ラック分のICT機器を急いで入れたい。可否とコストを知りたい」
と言われたときに、持ち帰ってそれぞれの担当者に確認してから数日後に回答をしていたらも
う契約を逃してしまう、という話を聞いたことがある。スペース、空調・電源容量から即入居
の可否や必要となる整備工事の内容と予定を可能な限り早く回答し契約に結びつける必要があ
る。空きスペースと空調容量ゾーン電力容量ゾーンが集約されたBIMモデルを作成・提供し、
変更にあわせて継続的に現行化し、建物の専門家でなくても簡単に入居条件をチェックできる
ツールを提供する、といったサービスがマネタイズにつながるのではないかと思う。
複数の物流倉庫を持つサプライチェーン業界では、平面的な倉庫の空き状況だけでなく、立体
的にコンテナが何段積めるかで荷物の収容力を管理している。また、荷物によっては単に置く
だけではなく、そこで一旦荷物を広げてキッティング作業を行う場合もある。物流網で見た場
合、複数の施設の中から条件に見合う建物を探すだけでなく、空きスペース面積と総移動距離
を最小化する全体最適が実現できればコストだけでなくCO2の排出削減にもつながることにな
る。荷物と作業のスペース確保ができるか、いつからいつまで使うことができるか、なるべく
空いた状態を作らないといった時系列的な情報を合わせ、時間軸を考慮したスペース管理を可
能とするBIMモデルの提供と、それを活用するスペーススケジュール管理ツールの提供がマネ
タイズにつながるかもしれない。
 
思いつくまま書いてみたが、このようなイメージは建物オーナーやユーザーに話を聞けばいく
らでも見つけることができると思う。BIMのマネタイズには、建物オーナーやユーザーが使用
するBIMモデルの作成・提供、建物運用における変更箇所にあわせた継続的なデータの現行化、
事業やアクティビティの拡大に寄与する建物情報活用ツールや関連するサービス提供がマネタ
イズの源泉となるだろう。これ以外にも様々な潜在ニーズを掘り起こすことで、新たなブルー
オーシャンを見つけることはできるのではないだろうか。
設計施工はもとよりFMや建物維持管理を含めた建設分野は、建物オーナーやユーザーの事業
やアクティビティの拡大に貢献する様々な建物サービスを提供しているといえる。この建物
サービスの進化と深化、建設分野から外に出ること、の先に新たなBIMのマネタイズがあると
考えている。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ  技術本部 建築エンジニアリング部 担当課長