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コラム

都市のすがた:都市のさまざまな要素のデータによる可視化

2021.10.26

パラメトリック・ボイス                   大阪大学 福田 知弘
 
都市のすがた。これは、都市の見た目を指すだけではなく、都市の様々な要素をデータに基づ
き可視化することでもあり、都市の状況をわかりやすく理解することができます。この作業は、KKD(勘(Kan)と経験(Keiken)と度胸(Dokyou))だけに頼ることなく、データとエビ
デンスに基づいた意思決定、利害関係者への説明、マネジメントの実施につなげることができ
ます。データドリブン(データ駆動型)アプローチとも呼ばれます。
今回は、ビッグデータのひとつであるストリートビュー画像を活用して都市のすがたを可視化
した取組みを紹介します。都市景観の色彩管理や都市マネジメントのために、大規模な都市ス
ケールで、きめ細やかなレベルで建物ファサードカラーを把握したり、建物の機能を分類する
ことを対象とします。これを実現するために、フィールド調査をはじめとする手作業中心の測
定法がこれまで使われてきました。緻密で大切な作業ではありますが、労働集約的であり比較
的小さなスケールでは適応可能なものの、マクロスケールに適応するのは困難です。さらに、
変化の激しい地域でのデータ更新に対応することはできません。
近年、都市データベース(ビッグデータ)はインターネットに蓄積され、コンピュータビジョ
ン技術(特に、深層学習)は急速に進歩しています。さらにそれらはオープンソース化されて
扱いやすくなりました。
 
ストリートビュー画像と深層学習を活用した定量的分析法
筆者らは、ストリートビュー画像と深層学習を用いて、都市の建物ファサードのカラー推定と
建物の機能分類を自動化する方法を開発しました *1。
図1は、提案システムのワークフローを示しています。
まず、大量のストリートビュー画像を収集します。オープンストリートマップを用いて道路上
の隣接点間距離が20mとなるような等間隔のサンプルポイントを設定し、そのポイントに該当
するストリートビュー画像(沿道風景となる両側90度分の写真。800 x 500ピクセル)を抽出
します。ストリートビュー画像に対して、カラーキャリブレーションを実行します。
次に、ストリートビュー画像に含まれる建物の領域をセグメント化します。このため、深層学
習のセマンティックセグメンテーション(ピクセル単位でラベルやカテゴリを関連付けるアル
ゴリズム)を適用しました。セグメンテーションした結果、その画像に含まれる建物の面積が
20%未満の場合、その画像は不採用としています。
セグメンテーションにより建物の領域のみが残された画像を用いて、ファサードカラーを推定
します。ここでは、各画像のドミナントカラー(主調色)を、標準カラーコードに基づいて計
算しました。
一方で、住宅、公共サービス、商業サービス、その他の施設など、ストリートビュー画像に含
まれる建物の機能を複数抽出できるように、マルチラベル分類器を大量のストリートビュー画
像を基に4965枚のデータセットを作成して、深層学習モデルをトレーニングしました。
 
実験結果
提案した方法を実際の都市に適応して、ファサードカラーの測定と建物機能の分類を行いまし
た。
図2は、筆者らの方法と現地調査の測定結果をカラー比較しています。
図34は提案システムを用いて中国上海(124.6 km2)での建物フドのドミナン
トカラーと建物機能の分類をそれぞれマッピングした結果です。南京(152.1 km2)、
合肥(108.6 km2)でも分析を行い、長江デルタに位置する3つの大都市で実験しました。
ご覧のように、大規模な都市スケールに対して、ファサードのドミナントカラー(主調色)を
色見本コードで測定するとともに、住宅、オフィス、商業施設などの用途を分類することがで
きました。
無効なデータとして分類されたストリートビュー画像には、建物が含まれていない場合、建物
が大きな緑などで隠されている場合、色の偏差が激しい画像などがあります。ストリート
ビューの撮影地点から見て、建物が街路樹などで隠されている場合は、建物のファサードカ
ラーや機能を正確に推定することが難しくなります。このような場合において、建物全体をど
のように把握するかは今後の課題です。
 
展望 
提案した方法は、現在の建造環境の色彩を可視化したり、評価したり、新たな都市再生プロ
ジェクトの基礎資料として提供することができます。すなわち、都市の建造環境の質を向上さ
せるために、ひとつのデータ駆動型アプローチでサポートすることが期待されます。
最後に、この研究成果は、8月16日に大阪大学よりプレスリリースしました *2。

 図1 ストリートビュー画像と深層学習を用いたファサードカラー測定と建物機能分類の
          ワークフロー

 図1 ストリートビュー画像と深層学習を用いたファサードカラー測定と建物機能分類の
     ワークフロー


 図2 現地調査データ(上)と提案法による測定(下)のカラー比較

 図2 現地調査データ(上)と提案法による測定(下)のカラー比較


 図3 上海中心部(124.6 km2)の建物ファサードのドミナントカラーをマッピング。右図は
       L地区=高層ビルが建ち並ぶ浦東新区のカラー分布

 図3 上海中心部(124.6 km2)の建物ファサードのドミナントカラーをマッピング。右図は
     L地区=高層ビルが建ち並ぶ浦東新区のカラー分布


 図4 上海中心部(124.6 km2)における建物機能の分類をマッピング

 図4 上海中心部(124.6 km2)における建物機能の分類をマッピング


参考文献
*1 Jiaxin Zhang, Tomohiro Fukuda, Nobuyoshi Yabuki, 2021, Development of
a City-Scale Approach for Façade Color Measurement with Building Functional
Classification Using Deep Learning and Street View Images, ISPRS International
Journal of Geo-Information, 10(8), 551,


*2 建物の機能分類住宅・オフィス商業施設等と 建物フドカラー測定による大都
市スケールの空間分析法(大阪大学 ResOU(リソウ)・プレスリリース)


 

福田 知弘 氏

大阪大学 大学院工学研究科 環境エネルギー工学専攻 准教授