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コラム

建築BIMの時代15 終わりのはじまり

2021.12.16

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

私事で申し訳ないが、今月で満60才となる。辛丑の年は1月から始まっているので、年の瀬が
押し詰まったこの時期に本卦還りでもないが、勤め先で定年を迎えることもあり、来し方を振
返ってみることが多くなった。
私が生まれた1961年は、真珠湾攻撃からたた20年後である。1961年の記憶はないが、物心
がついたころには戦争を感じさせるものは殆どなかた。20才前後の時、初めてパソコンに出
会った。教養課程の化学だか物理だかの授業で、実験結果から最小二乗法で近似直線を求める
というプログラムを使った。あっという間に解が出て、なんと便利なものかと驚いた。その後、
アルバイト先の測量会社にあたパソコンでテキストに載ていたBasicのサンプルプログラ
ムを丸写しした。ひとつひとつエラーをつぶし、初めてプログラムが動いた時には、自分と全
く異なるものを操っているような気がして、ちょっと感動したことを覚えている。
 
私がパソコンに出会たころ2次元CADシステムが登場しているその後、2次元CADシステ
ムはパソコン化され、コンピュータの普及と歩調をあわせて、今では当たり前のように使われ
ている会社で2次元CADの普及に勤しんでいた頃のことを思うと隔世の感がある。2009年
が日本のBIM元年と言われているが、その頃にはすでに2次元CADが一般化していて、CADの
次はBIMだという表明だともいえる。2次元CADの当たり前化に30年かかったとすると、BIM
もそれくらいすれば当たり前のものになるはずである。1990年代の半ばにはBIMという用語
は使われていたので2020年代の半ばから2030年頃にはBIMが当たり前化していることを期
待している。建築BIMと大上段に構える必要がなくなることを望んでいる。
 
一方、情報という観点からすると、まだまだ歩みが遅い。「建築分野におけるBIMの標準ワー
クフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」の中で“ライフサイクルコンサル
ティングという業務とライフサイクルコンサルタントという職能が提示されているBIMを
考える時、建築のライフサイクルにわたってずっと建築に関わる人が必要だということを表し
ているのだと思う。建築ライフサイクルのそれぞれの段階で、さまざまなプレーヤーが登場す
る。事業計画段階では事業コンサルタント、設計段階では設計者、工事段階では施工者、運用
段階では運用管理者やビル管理者、保全業者などである。複数の段階をつなぐ役割を担う人も
いる。しかし最初から最後まで関わっているのは、発注者だけである。各段階のプレーヤー間
で情報が分断され、共有化が進んでいないという課題がある。その課題を解決するために、
BIMの標準ワークフローではライフサイクルコンサルティングが示されていると思う。“ライ
フサイクルコンサルタントは、建築のライフサイクルにわたる建築情報の保護者・管理者と
位置付けることができると考える。一日も早くライフサイクルコンサルタントと名乗る人が登
場することを期待している。これからは建築情報の時代という方がいいかもしれない。
 
先日、招かれて高松に行ってきた。ちょうど栗林公園で紅葉のライトアップが行われていた。
幻想的で大変美しかった。白秋もいいものである。

 栗林公園の紅葉ライトアップ①

 栗林公園の紅葉ライトアップ①


 栗林公園の紅葉ライトアップ②

 栗林公園の紅葉ライトアップ②

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長