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コラム

外部DB連携で実現するパラメータバリューの
データ管理こそがBIMの真髄

2022.03.01

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

年度末の恒例行事になっている、BIM関連部会の報告書取りまとめに翻弄される日々が続いて
いる中で、その合間にこのコラムを執筆しているのですが、ちょうど部会の報告書で属性情報
標準の取りまとめを行っていることや、メーカーからBIMオブジェクトを作成する上での問い
合わせが来ることも多いため、今回は属性情報について触れてみようと思います。

BIMもそろそろ理解がだいぶ進み、単なる3Dによる統合モデルであるという誤解からBIM本
来の属性情報の価値や重要性にそろそろ気づき始めつつあるように感じているのですがただ
BIM=属性情報という観念が強過ぎるからか、BIMの目的がありとあらゆる属性情報を入力す
ること、のように誤解されていないか気掛かりになることもあります。
現実に即した合理的なBIM活用を意識しないと、属性情報の穴埋め地獄に翻弄されるという本
末転倒なBIM活用に陥ってしまう危険性があることにも注意を払う必要があります。

下図は、建築設計三会の設計BIMワークフローガイドライン第1版に掲載されている図になり
ますが、属性情報には、パラメタ(情報項目)とパラメタバリュー(情報値)の2つの概念があ
り、この両方がセットになって機能します。
パラメータ(情報項目)が様々な値を入れるための箱の役目を果たしていて、文字なのか実数な
のか風量なのかなどのデータの型も定めておいた上で、その中にパラメータバリュー(情報値)
を入力していくことで、BIMのデータ構築を行っていきます。
パラメータは一度ルール化してテンプレートに仕込んでしまえば使い回しが可能であるのに対
して、パラメータバリューはプロジェクトごとに性能や仕様を都度入力していくものなので、
BIMデータ構築上は、パラメータバリューの方がとても重要なものになります。


なので、属性情報を標準化する上では、パラメータを標準化しただけでは片手落ちで、その箱
の中に入れるパラメータバリューをどのようにデータ管理するのかもセットで考えておく必要
があります。そうしないと、パラメータの箱だけあれもこれもと山ほど設けるだけで、その中
身が初期に仮入力された値のままか、空欄のままで放置されてしまうことになりかねま
せん(もしくは、死に物狂いで穴埋めするか・・・)。

ですが、このパラメータバリューについて考え出すと、なかなか悩ましい問題に行き着きます。
例えば、「消費電力」という、省エネ計算でも必要となる重要なパラメータは、建物に設置さ
れる機器個別の設置状況によって定まることになる機外静圧によって変化する値であるため、
BIMオブジェクトにパラメタバリューを初期入力されていたとしても、これをPQ線図から選
定した値に書き替える必要が生じます。
同様に、冷凍機や空調機、FCUなどの能力値についても、冷温水の往還温度条件に伴い変化す
るものなので、設備で扱うパラメータバリューのかなりのものが、プロジェクトの諸条件に
よって書き換えていく必要があります。


他にも例えば、「騒音値」というパラメータがありますが、ここに入力するパラメータバ
リューには、機器側面の騒音値なのか、吐出側の騒音値なのか、吸込側の騒音値なのか、対象
とするものが複数あるので、どれを代表値にすべきか、もしくは全部をBIMに入力すべきなの
か、という疑問が噴出してきます。
また、詳細に騒音検討を行うには、オクターブバンドレベルごとの、低周波から高周波までの
騒音値も必要で、また、その騒音値は、強運転なのか弱運転なのかといった、機器の運転状態
によっても変化するものなので、それを全部BIMに本当に入れるのかと思うと、途方に暮れて
きます。

「材質」や「仕様」についても、様々な入力値が考えられます。例えば、ダンパーの材質と
言っても、本体ケーシングの材質だけでなく、軸の材質、軸受の材質、可動羽根の材質などが
あり、本体は鋼板製だが外気取り入れダクト系統だけは軸の材質をステンレス製にしておきた
いといった場合に、部品別に分けて材質を入力する必要が生じます。
機器や部材ごとに対象となる材質は千差万別なので、その部品ごとの材質のパラメータの箱を
設けるとなると、一体属性情報標準は、いつになったら完成するのか・・・。
 
ここまで来ると、もう苦行でしかありません。

このような状況を踏まえると、そもそも、BIMに細々としたパラメータもすべて設けた上で、
そこにパラメータバリューをくまなく入力して行くのは、現実的ではないと理解して頂けるの
ではないでしょうか。
目指すべきは、あらゆるパラメータの命名規則をメーカー間で統一させる労力を費やすのでは
なく、BIMを建物データベースの核にしつつも、メーカーサイトなどの外部データベースと連
携し、BIMデータと外部データをセットで管理していく仕組みを構築していくべきであると。

BIMに格納するパラメータは、分野間での連携や、建築確認申請・省エネ適判などで必要にな
る項目、あとは、機器表・器具表などリスト形式で図面にするものに厳選した上で、そこに入
力するパラメータバリューをキーにして、外部データとの連携を実現する。そのような仕組み
を目指していくべきです。

この外部データとの連携については、メーカーのデータに限った話ではなく、各社の設計デー
タベースやそれと連携する仕様書や概算データベースについても、同じことが言えます。
そして、このデータ管理こそがBIMを活用する上での一番の醍醐味になると思っています。
 
パラメータバリューのデータ管理。
これは必ずしもBIMソフトウェアの閉じた環境だけで行うのではなく、外部データベースとの
連携で実現する、そのような広義の概念こそが、BIM活用を成功させる要だと思う今日この頃
です。

 BIMとデータベース連携

 BIMとデータベース連携

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長