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コラム

成果を出すBIMツール開発のはじめ方

2022.10.25

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

今回は、BIMを用いて効率化へ導きたいけど、あまり成果が出ていないという悩みを抱える方
にぜひ試して頂きたい3つのチェックを紹介します。
BIMもRevitといったBIMソフトの導入で何かソリューションが提供されることはなく、そこ
からソリューションを見つけるための旅に出た段階です。
Revitというソフトは、カスタマイズする余地を持たせた形で作られているため、デフォルト
の段階で使っていても生産性はそこまで期待できません2次元から3次元になった入力量の差
の方が負荷になり、むしろCADで検討しているよりも時間がかかることもあります。

ステップ1:スタンダードの整理(テンプレート、ファミリ整備、テンプレートに沿った
ユーザー教育)

1つ目は、スタンダードの整理です。共有パラメータを充実させた上で、ハンドリングしやす
いファミリをつくり、組織やチームごとにカスタマイズします。その上で、入力規約など
ルールを整え、そのルールをユーザーへ教育します。
 
ステップ2:プロタイピングでツール作成
1が整うと次に効率化のフェーズです。1で整備したテンプレートを用いて、図面化やある数
値を計算するために、その操作をできるだけ効率的に行う方法を考えます。
求めたい情報へ早くアプローチするためにパネルを出したり、ある繰り返しの操作を1つの
まとまったコマンドにすることでクリック数を減らしたりと、ツールをつくることで効率化
していきます。
テンプレートとファミリ作成とツールという3つを同時に考えて、またそれらのツールを使う
ユーザーの教育もするということで効率化へ繋がります。
Revitを使て作業効率化を図るためにはユーザーと開発者で協力してツール作成は必須です
どんな作業効率化を考えてみればよいかという話ですが、BIMの特性上、まずここへ挑戦する
と良いというポイントがあります。

ポイント1:まずはファミリのフィルタリングから始めよう!です。
BIMはレゴに例えられます。線を描く方法で作図するのではなく、コンポーネントの集積です。
充実させようとすればするほど、組み合わせる部品が増えてきます。レゴで想像すると、無数
にある部品から必要な部品を探す作業が発生します。
部品を整理して、フィルタリングできるようになったら、レゴの箱からひとつを探して見つけ
出すまでの時間を短縮できます。

ポイント2:配置する操作で、できるだけ繰り返しの作業、つまりクリック数を減らそう
レゴでいうと、同じ部品を積み重ねて使うような場合が何度もある場合は、予めユニット化し
ておきましょう。配置のルールがあるならば、そのルールをツール化しようという試みです。
この1、2を意識すると、普段Revitに触れている皆さんでしたら、アイディアが浮かぶので
はないでしょうか。

ポイント3:Dynamoなどで簡単なプロトタイプをつくってみよう
アイディアが出てきたら、Dynamoで実際にロジックを書いてみましょう。それをすることで、
まず実装可能なアイディアかどうかがわかります。
またそのツールが、プロジェクト固有の効率化タスクなのか、どのプロジェクトでも発生する
可能性がある効率化タスクなのかを作って使っているうちにわかります。

ステップ3:アドオンとしてツール作成
ポイント3で上手く運用できていれば問題ありません。よく使われるツールになると、
Dynamoコードを使うと運用上の課題が出てきます。その時はアドオン化などで、組織的に
ツールを管理すると効率化が進みます。アドオン化は、最近だとpyRevitみたいな簡単にUIを
作れるツールも存在しているので、C#アドオン開発以外にも選択肢があります。

ポイント4:ユーザーと一緒に開発する
TOBIC、矢作建設、GELと3社共同で開発したクレーンツール(クリックするとYouTubeへリ
ンクします)
も、上記の流れで開発しましたRevitを用いて施工計画時にクレーン配置検討
を簡単に行いRevit上に作図するまでを目的としていますアダプティブファミリでクレーン
ファミリの作成、クレーンファミリを配置、変更し、クレーン先端をターゲット要素を選択す
ることで自動で位置合わせをし、許容荷重をリアルタイムに計算し、検討できます。

機能紹介(クリックするとYouTubeへリンクします)
①クレーンファミリをプロジェクトへロード
②クレーンファミリを配置
③クレーンファミリのタイプを編集
④クレーンファミリのパラメータ変更
⑤許容荷重計算
⑥タグ配置

ポイント5:何度も試す
結果的に6つの機能を実装することになりましたが、実務を通したツール開発は、大前提とし
て答えがありません。あるのは、誤答だけです。また与えられる課題は、課題自体が「きれい
な問題」になっていることはまれです。与えられている課題は、事例の羅列です。このような
場合に、「こんなことを自動でやってくれるツールが欲しい」という内容で相談が来た際に、
その場合分けだけに通じる答えをその数だけコードに落とし込めても、ソリューションとして
は不十分です。

AECテックのエンジニアとして、職業として向き合う姿勢で大事にしないといけないのは、こ
の課題を整理する力、ヒアリング能力、相手の要求を予測する力だと思います。言われたこと
をそのまま実装したのになぜか満足してもらえないと新人時代は嘆きますが、最初が誰もが通
る脱新人への道だと感じています。プログラミングスキルを習得した後に、依頼が事例の集積
であることを理解し、課題化する力が必要になります。課題を見つける作業と解決案をつくる
作業を同時に行いながら、何回も繰り返しながら様々なトレードオフの中で、答えと思われる
ものを決めていきます。

経験を積んだ人も、課題以外の隠された課題を想定しながら、その隠れた共通する本当の課題
を探し、その課題を解くような回答を作ってみて動かし、ユーザーと実験してみて、想定との
ずれをチューニングしながら答えを探しています。

プレスリリースに載っているものは、数多くを試した後の結果であり、「自動化」、「コン
ピュテーショナル」「BIM」というキーワードからあたかもクリックひとつで解決するように
見えますが、クリックひとつで解決するまでの道のりは地道なトライアンドエラーの積み重ね
です。

ユーザー(業務内容や操作に詳しい)と開発者(RevitAPIに詳しい)の両者が、Revitを違う視
点で理解しながらお互いの知識を持ち寄って、ああでもないこうでもないとトレードオフをす
る過程が重要だと思うと、誰でも地道にステップを踏んでいけば確実に進んでいくことができ
ます。

ぜひ、ステップを意識してBIMで作業効率化を図りましょう。

 クレーンツール①

 クレーンツール①


 クレーンツール②

 クレーンツール②

石津 優子 氏

GEL 代表取締役