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コラム

BIMのリアリティ

2016.01.19

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

BIMモデルのリアリティをどの程度求めるべきか、これはやや難しい問題ではないかと思う。

私の研究室は、昨年、エネマネハウス2015*1という、大学と民間企業が連携して“学生が考え
る将来の家”を実際に建設する大学対抗建築コンペにチームの一員として参加した*2。私の所
属する大学が提案した住宅は、高床式の住宅を積み重ねた集合住宅である。ただし、集合住宅
を建設するわけにもいかないので、1住戸を抜き出して建設した。この集合住宅の空間的な特
徴は、共用廊下を廃し、高床としたピロティが広場や路地になるコミュニティとプライバシー
の近接性にある。そのインパクトをコンペの来場者に説明するために、BIMモデルを作成した。
しかし、BIMソフトウエアで作ったBIMモデルをウォークスルーしても臨場感に欠けてしまう
ので、ゲーム開発環境のUnityを活用した。Unityでは、多少の動きとリアリティのある人間の
モデルが配置された空間を高画質にレンダリングして、その中をゲームのコントローラーで自
由に歩き回ることができる。素のままのBIMモデル、CG、模型と比較して、圧倒的な臨場感で
コンセプトの特徴を伝えることができたと思う。

こうした臨場感は、職人さんに施工の手順を伝える際にも有効と考えている。先述のモデルを
作成した私の研究室の大学院生は、CLT建築の躯体工事の作業手順をUnityで説明するモデル
を作成している。CLT建築のパネル施工順序を可視化するだけならば、パラパラ漫画的な4D-
BIMで十分だが、順序を理解しやすいだけあり、職人ならば一度見れば頭に入ってしまう。
それではせっかく作成した4D-BIMがもったいない。そこで彼が考えたのは、そのBIMモデル
をUnityに移し、仮置き場からパネルを揚重し、それを設置してボルトを締め付けるまでの手
順をUnityで動きを加えた4Dモデルである。その高画質なアニメーションをヘッドマウントディ
スプレイで見れば、揚重されているパネルを見上げたり、ボルトの締め付けをのぞき込んだり
できる臨場感の溢れた作業手順書(もはや「書」と言えないが)となる。これを未だ職人さんに
見てもらったわけではないが、臨場感のある作業手順を見ることで、作業や安全に対する様々
なインスピレーションが湧くのではないかと期待している。このようなBIMモデルを作成する
ためには、「CLTパネル」というオブジェクトでBIMモデルを構築する必要がある。この構成
であれば、施工手順の説明だけでなく、NC加工、SCM、施工記録、部材の維持管理へと建物
のライフサイクルにBIMモデルを展開しやすい。このように、実物の構成に沿ったモデルのつ
くり方にも、ある種のリアリティがある。こうしたリアリティに「施工BIM」のポイントがあ
るように思われる。


*1  エネマネハウス2015
*2  芝浦工業大学コンソーシアム


志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授