Magazine(マガジン)

コラム

トルコ地震からBimDAOへ

2023.08.03

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

この歳になると人生はいくつもの体験の積み重ねであることがしみじみ分かる。いくつかの体
験の中で共通の何かでつながっている感触はするが、それがよく分からないまま時間が過ぎて
しまうことがある。そんな折一つの言葉が補助線となり、その体験に通底するものが何である
かを認識することがある。最近「違和感」と言う言葉がその補助線の役を果たしてくれた。

1995年に阪神大震災が起こったその時はとにかく現地に行き何が起こったのか自分の眼で
確かめようと思った。地震発生から1週間後に西宮〜神戸の被災地を見て歩くことができた。
そこで感じたのは何とも言えない怒りのような感情と「違和感」であり、建築基準法に従って
造られた多くの建物や街が、こんなにも崩壊してしまうのかというものだった。この体験が後
に免震建築の事業化につながった。

話題をもう一つ。上記の体験から25年以上が経過した。この数年間は、トルコへの都市型免
震建築(イスタンブールなどの都市部の狭小敷地向けの免震技術)の普及に向けてセミナーな
どに力を入れてきた。しかしその成果が出る前のこの2月に、トルコ南東部のプレート境界の
断層が動いてしまった。地殻変動はおよそ400kmにわたり動いたという大地震が発生してし
まったのだ。今回も現地に立ち被災の実態を見たいと思った。発生から4ヶ月経ってしまった
が、6月初めに被災地に行ってきた。現地に行かなくては分からないことが多々あった。特に
「違和感」を感じたのは、被災した数百棟の建物群と、そこから車で数分の距離にある全く被
災していない建物群が併存している風景だった。それを見ながら阪神大震災の時も同じような
ことがあったことを思い出した。
何故そんなことが起こったのか調べてみた。原因は地域ごとの地盤の違いと断層が動いた時に
生じる周期1〜2秒の「指向性パルス(キラーパルス)」が発生したことにあるらしい私は専
門外だが今回のような活断層地域の地震波の特殊性と建築構造(固有振動数のコントロル)
の関係をもっと研究出来ないのだろうかと思う。今回の「違和感」がたどり着けたのは今のと
ころここまでだが、探求はまだ続く。
 



さて話題を転じてBimDAO(BIM教育コミュニティ)(注1)について再確認を含めて書き進め
てみたい。 BimDAOを発想した背景にあるのは、日本の建築技術者の能力向上を支えてきた
「家庭内独学」への「違和感」だった。つまり現在求められる高度なBIM情報を扱うには、
①個人としては、データ連携におけるIFCやデータ変換などの技術領域を概ね独学でマスター
させ、②組織としては、官民含めて複数企業・組織間でのデータ連携を社内教育・O J Tで社
員にマスターさせていくことになる。しかしこのやり方では限界がある。教える側の人材があ
まりに不足しており、育成する仕組みも出来ていない。それを裏付けるように、今この文章を
書いている時に国交省の令和4年度BIMモデル事業報告会が行われている(注2)。地方や中
小企業のBIMを取り巻く環境の厳しさが、その発表の内容から伝わってくる。現状の環境を放
置したままでは、発表されている皆さんの涙ぐましい努力が、可能性よりも不可能性の証明を
しているように思えてくる。
BimDAOは、こうした袋小路に至った日本の企業社会の外側にプロフェッショナルな個人を主
体としたコミュニティを作ろう
というという提案である。
屁理屈ばかり書いていても仕方がないので、以下のように具体的な第一歩を踏み出したい。
1st Step
1.発起人及びコアメンバーを決める。
2.BIM教育コミュニティとしての「BimDAO宣言」を作る。
3.DAOによる仕組みを作る。協力者(貢献者)や参加者にトークンを発行し、BimDAOの中
 で流通するようにする。これにはブロックチェーンなどの専門的なヘルプが必要。
4.大系的な且つ分かりやすい『B I Mとそのデータ連携に関する教科書』を作るもちろん技
 術の進歩・ISOの改訂などに適時対応出来るようにデータで発信する。またそのための協力
 者を募る。これが当面の最優先課題。これによりコミュニティ内での「言葉」のやりとりが
 スムーズにもなるはず。
5.データ連携のテクニカルな方法については、それを使う人たちの組織の規模やタイプに応じ
 て、推奨モデルを紹介し、連携そのもので苦労しないで済むようにする。
2nd Step
6.少し先になるがオンライン上にBIM能力判定テストを作り、多角的・客観的に自分の能力を
 判定できるようにし、第3者にも分かりやすく見える化する。デファクト化を目指しそれ
 が仕事のやり方やチーム作りに役立つようにする。
3rd Step
7.BimDAOのコミュニティの中で、仕事を受発注出来るようにする。
8.BimDAOのコミュニティと外部組織とで仕事を受発注できるようにする。

以上、少し先走って大風呂敷を広げた格好になっているが、最近流行りのリスキリング、国交
省モデル事業の様子、BIMデータを使った確認申請の推進から言えば、このような仕組みが出
来て初めて具体化するのではないだろうか。

(注1:ArchiFuture Web 230523号「BimDAO〜BIM教育コミュニティは可能か?」参照)
(注2:令和4年度 BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業 成果報告

 

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長