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コラム

建築BIMの時代26 図面とBIM

2024.02.29

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

昨年末、東大の権藤先生とお話しする機会があった。権藤先生が指導するY君の修士論文
私が勤務する会社がかつて開発していたLoran-Tという3次元CADに言及しているので、
Loran-Tについて話を聞かせて欲しいとの連絡があった。私が新入社員の時にLoran-Tの開
発の検討が始まり開発が本格化した際ほんの少しだけプログラムを書いたこともあり
発の背景やその後の経緯について、私の知る範囲でお話しさせていただいた。
 
先日、Y君が修士論文の梗概を送ってくれた。梗概だけでも、綿密な調査がなされた上で的
確な論説がなされていることが分かり、さすが東大だと思わせるものであった。構法計画と
情報システム化の視点からシステムズビルディングについて論じたもので、システムズビル
ディングの門外漢の私にとっては非常に勉強になった。特に情報システム化の視点からの考
察は、CADやBIMとの関係についての示唆に富み、BIMのこれからを考える上で大変参考に
なる。いい贈り物をいただいたと思っている。
 
権藤先生とY君との話やY君の研究からあらためて図面の功罪を考えてしまった。かつてこ
のコラムで書いたが、図面は建築を表現する最も古い方法の一つである。図面は、図形とし
て建築を表現するので、幾何学的な情報が正確に伝わるという利点がある。正確に図面を読
み描きするためにはある程度の教育が必要であるという問題はあるが、建築を表現する方法
としてこれだけ長い間使い続けられていたことを考えると、図面の持つ力、効能がいかに大
きいかが分かる。一方、コンピュータを使って、図面として建築を表現しようとすると苦労
が多い。作図CADを使って図面を描くというある意味原始的なこの方法が今でも一般的なこ
とが、建築と情報技術と図面の微妙で難しい関係を象徴しているような気がする。
 
情報として建築を表現する方法、伝える方法は数多くある。図面以外にも、絵や写真・映像
を使う方法や文字や数字、文章や表・リストを使う方法など、伝えたい情報によって適切な
方法が選ばれている。しかし建築に関わる人たち、建築を学んだ人たちは、図面とそれ以外
の建築表現の方法の間に線を引いているような気がする。図面以外の方法は図面を補完する
ものとして、図面に優位性を与えているのではないだろうか。図面以外の建築の表現方法は
建築の情報の一部を表すもので、建築の全体・総体を表す方法として図面が最も優れている
と無意識に認識しているのではないかと考えている。
 
BIMモデルには、さまざまな建築の情報を格納することができる。必要に応じて最も適切な
方法で情報を伝えることが可能である。そのために必要な情報がBIMモデルに格納されてい
ればという条件がつくことが課題ではあるが、今のところ情報として建築の総体を表す方法
としてはBIMモデルが最も適していると思う。図面は、建築の総体を図形として表現したも
のに過ぎないということを再認識するとともに、BIMモデルの役割を考えていただきたいと
思う。
 
写真は、出張の際に新大阪駅で偶然出くわしたドクターイエロー。皆さんにいいことがあり
ますように。

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長