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コラム

建築情報学会WEEK 2024レポート

2024.03.28

パラメトリック・ボイス

               コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 杉原 聡

去る3月2日から5日にかけて建築情報学会WEEK 2024が開催された。実行委員長としての
準備と運営作業で筆者はドタバタしていたが、実行委員や関係者の方々のお陰で大きなトラ
ブルもなく無事開催でき安堵している。今回のコラムではそのレポートを記す。
 
これまでオンラインのみでの開催だった今回の建築情報学会WEEKは初の会場開催も行わ
れ(最初の2日間のみ)、かつて丹下健三も講義したという伝統のある東京大学工学部1号館
15号講義室KAJIMA HALLにて開催された。その初日には建築情報学生レビューが行われ、
43組の学部・大学院学生によるコンピュテーショナル・デザイン、デジタル・ファブリケー
ション、BIM、xR、デジタルツイン、AIなど多岐に渡る研究発表が行われた(図1)。なお、
発表者プログラムと受賞者情報はこちらに掲載されている。

 図1. 建築情報学生レビューの様子(撮影:堀尾海斗)

 図1. 建築情報学生レビューの様子(撮影:堀尾海斗)


またその日の夜には、建築情報学会MEET UPの形式での交流会、Kick-offパーティーが開催
され、建築情報学生レビューの表彰式や、昨年行われた建築情報学会Challenge 2023におけ
るインスタレーション・デザイン・コンペティションの表彰式、WEEKの見どころ紹介などが
行われた(図2)。

 図2. 建築情報学会WEEK 2024 Kick-off Partyの様子(撮影:堀尾海斗)

 図2. 建築情報学会WEEK 2024 Kick-off Partyの様子(撮影:堀尾海斗)


3月3日の2日目には基調講演や、ラウンド・テーブル・セッションと呼ばれるパネル・ディス
カッション(ラウンド・テーブル・セッションの一覧はこちら)などが行われ、朝一のプログ
ラムは、夏目大彰氏のオーガナイズにより、石津優子氏、渡邊圭氏、筆者がパネリストとして
参加した「建築プログラミング開発が設計プロセスにもたらす効果と魅力」と題するラウン
ド・テーブル・セッションであった。このセッションではコンピュータ・プログラミングによ
る建築設計プロセスの利点・欠点・魅力について発表・議論された。

続いてプリツカー賞受賞建築家トム・メイン氏による録画基調講演が会場で放映された。講演
ではモーフォシスにおける70、80年代のドローイングに導かれた設計プロセスから、アイデ
アから建設までがデジタルにより統合されて自由に行き来する現在の設計プロセスまでの、
技術による建築設計の革新の歴史と、これからの時代に建築に携わる人々への提言が語られ
た(図3)。

 図3. トム・メイン氏による基調講演

 図3. トム・メイン氏による基調講演


もう一つの基調講演では、南カリフォルニア建築大学で教鞭を執るM. ケーシー・レーム氏が
来日して会場で講演を行った。生成AIが盛んになる以前より長年機械学習を用いた設計やロ
ボット・アームによるデジタル・ファブリケーションに取り組んできたレーム氏の、先端的な
作品や研究について発表された(図4)。

 図4. 基調講演においてコンピュータビジョンによる空間色彩認識と、生成AIによる色彩改善、
    ロボット・アームによる塗装を繰り返す研究作品を解説するM. ケーシー・レーム氏と
    日本語通訳を行った石田靖氏 (筆者撮影)

 図4. 基調講演においてコンピュータビジョンによる空間色彩認識と、生成AIによる色彩改善、
    ロボット・アームによる塗装を繰り返す研究作品を解説するM. ケーシー・レーム氏と
    日本語通訳を行った石田靖氏 (筆者撮影)


2日目午後のラウンド・テーブル・セッションでは、まず「国内の実践例における,3Dプリン
ティング・アーキテクチャーの最新動向」がオーガナイザーに池本祥子氏、田住梓氏、
鷲見良氏 、パネリストに岩本卓也氏、濱﨑トキ氏、淡路広喜氏を迎えて行われ、大型3Dプリ
ントを実践するパネリスト達による事例紹介と、今後の3Dプリント建築の課題と可能性につ
いての議論がなされた。

次に石津優子氏がオーガナイザーを務め夏目大彰氏、横田亨仁氏、川上沢馬氏、中林拓馬氏を
パネリストに迎えて「AIと建築プログラミング」のラウンド・テーブル・セッションが行われ
た。このセッションではAIによるプログラミング支援や生成AIを用いた設計ツールやサービス
の開発事例が示され、建築におけるAIによるプログラミングとAIツール開発の現状と将来につ
いて議論された。

続いて建築情報学会Challenge 2023の最優秀賞を受賞してインスタレーションを制作し会場
に展示した野田元氏、水野祐紀氏、須藤望氏による受賞作品「キメラ集成材列柱空間(図5)」
の作品解説と、Challenge 2023の審査員、伊藤武仙氏、永井拓生氏、平野利樹氏、筆者によ
る議論のセッションを杉田宗氏の司会にて行った。

 図5. 野田元氏、水野祐紀氏、須藤望氏による展示作品「キメラ集成材列柱空間」(撮影:著者)

 図5. 野田元氏、水野祐紀氏、須藤望氏による展示作品「キメラ集成材列柱空間」(撮影:著者)


その次にNicolas Rogeau氏がオーガナイズするラウンド・テーブル・セッション
「Automation strategies for sustainable construction」が、パネリストとして会場に
Hongxi Yin氏、オンラインでAurèle Gheyselink氏、Eleni Skevaki氏を迎えて行われた。デジ
タル・ファブリケーションやロボットによる建設に携わる登壇者により、自動化されたサス
ティナブルな建設を目指す際のロボットが扱える建材の問題や、寿命を迎えた建物の建材リサ
イクル、これらの技術の社会実装におけるアメリカ、アジア、ヨーロッパの社会背景の違いな
どが議論された。

そして会場開催最後のプログラムとして、招待セッション・オーガナイザーとしてハワイ大学
の石田靖氏を、パネリストに前述のM. ケーシー・レーム氏に加えてロンドン大学バートレッ
ト校のジル・レツィン氏、MVRDVのレオ・シュタッカート氏を迎えて「AI in Architecture: Beyond Imagery」と題した特別ラウンド・テーブル・セッションが行われた。世界で先端的
な活動を行う登壇者らによりAI技術の建築への影響が議論され、生成AIは世界においてごく僅
かに建設される先端的な建築意匠の建物のためよりも、そうではないその他の大半の建築物の
質を高めるために利用されていくべきであるや、むしろ建築物の評価や確認を適応的に行うた
めにAI技術を用いるべきであるなど、独特な議論が展開された。

以上が会場での開催で残りの3月4日、5日の建築情報学会WEEKはオンラインにて開催されて、
次のような12本のオンライン・セッションが行われた。まず間崎紀稀氏によるラウンド・テー
ブルセッション「物としての建築の体験を再定義する」が3月4日に行われKen Nakagaki氏
とJas Brooks氏をパネリストに迎えて、VRやHCIの専門家の視点を踏まえた、技術により拡張
可能な五感を通じた身体と環境の相互作用としての建築の体験について議論された。

杉田宗氏による「クリエイティブメンテナンスの実現を目指したメンテナンスのための建築情
報」は、杉田洋氏、大谷幸三氏、白川愛幸氏をパネリストに迎えデジタルツインBIM、3D
スキャンニング、MR等、技術の積極利用による建物の維持管理のためのプラットフォームの
研究が提示され、その実践が議論された(図6)。

 図6. 杉田宗氏らによる「クリエイティブメンテナンスの実現を目指したメンテナンスのための
    建築情報」

 図6. 杉田宗氏らによる「クリエイティブメンテナンスの実現を目指したメンテナンスのための
    建築情報」


大平恭史氏によるラウンド・テーブル・セッション「オフィスデザインにおけるデータと意匠
の間」では松浦光宏氏、藤田朋大氏をパネリストに迎え、オフィスデザインにおけるデータ・
ドリブン・デザインやVRなどの技術利用の実践事例が提示され、その可能性が議論された。

鶴田航氏の「Digital Observation: scan oriented design and fabrication」では、Maxence Grangeot氏、Matthias Brenner氏、Philipp R.W. URECH氏をパネリストに迎え、都市レベ
ルの大規模3Dスキャン・データの利用や、既存の建物の修復や建材のリサイクルのために3D
スキャンやデジタルファブリケーション技術が利用される研究が提示され、これらの技術の社
会への影響や可能性が議論された(図7)。

 図7. 鶴田航氏らによる「Digital Observation: scan oriented design and fabrication」

 図7. 鶴田航氏らによる「Digital Observation: scan oriented design and fabrication」


3月4日の終わりには、実務者・学生・研究者など幅広い方々を対象とした建築情報学会のサー
ベイプログラムであるCENSUS2024についてのセッションが配信された。こちらのサーベイ
は現在も引続き回答をお願いしており、時間の許す方にはこちらのリンクより是非協力願いた
い。

3月5日の最終日には、まず鮫島卓臣氏によるラウンド・テーブル・セッション「建築における
フィクションの実現、あるいは現実の物語化」が配信され、Tim Li氏、Beom Jun Kim氏をパ
ネリストに迎えて、建築設計と施工におけるVRやARの積極利用の実践例を踏まえ、その可能
性と、建築のフィクション性と実現され建築物との二重性の変化が議論された(図8)。

 図8. 鮫島卓臣氏らによる「建築におけるフィクションの実現、あるいは現実の物語化」

 図8. 鮫島卓臣氏らによる「建築におけるフィクションの実現、あるいは現実の物語化」


筆者による「歴史上の建築に見る建築情報学」では、Andrew I-kang Li 氏と加藤耕一氏をパ
ネリストに迎え、中国宋代の営造法式や、バロック時代のグアリーノ・グアリーニの建築書、
中世の石切術などが紹介され建築史に読み取れる建築情報学の意義が議論された(図9)。

 図9. 筆者らによる「歴史上の建築に見る建築情報学」

 図9. 筆者らによる「歴史上の建築に見る建築情報学」


Cullen Fu氏による「Lo-Fiを通して考えるデジタル建築の表現手法」では、Jimenez Lai氏と
Irv Shaifa氏をパネリストに迎え、解像度を意図的に抑えるという技術的手法であると同時に
現代文化の一つの潮流でもあるLo-Fiの、建築における美学的側面に着目し、登壇者らによる
その実践の紹介と、美学と技術の関係の可能性についての議論がなされた(図10)。

 図10. Cullen Fu氏らによる「Lo-Fiを通して考えるデジタル建築の表現手法」

 図10. Cullen Fu氏らによる「Lo-Fiを通して考えるデジタル建築の表現手法」


高佳音氏による「『便利屋』としてのプラクティス」は、髙木秀太氏と堀田憲祐氏をパネリス
トに迎え、建築事務所や建設会社をサポートするコンピュテーショナル・デザインの実践の現
実と、そこでの姿勢、問題、可能性についての議論がなされた。

北本英里子氏による「建築擬人化計画(建築がデザインする未来)」は、松永直美氏、
佐藤文彦氏、中村薫氏をパネリストに迎え、現代建築の流れを踏まえてxR、メタバース、メ
ディアアートを視野に入れたこれからの建築の可能性が議論された。

 図11. 北本英里子氏らによる「建築擬人化計画(建築がデザインする未来)」

 図11. 北本英里子氏らによる「建築擬人化計画(建築がデザインする未来)」


加々美理沙氏による「AI技術を用いた3次元情報の探求」は稲坂晃義氏、髙木秀太氏、
木内俊克氏をパネリストに迎え、建築設計における生成AI技術の3次元的利用を、様々なツー
ルを用いたスタディー例を示しながらその可能性を検討した。

 図12. 加々美理沙氏らによる「AI技術を用いた3次元情報の探求」

 図12. 加々美理沙氏らによる「AI技術を用いた3次元情報の探求」


そして、最後にオンライン閉会式が行われ、上記のセッションの振り返りと総括がなされた。
以上に挙げた建築情報学会WEEK 2024のセッションの大半は動画アーカイブに残され(建築
情報学生レビューを除く)、基本的に学会員限定で公開されるが、一部のセッションは一般公
開もされるので興味のある方はYouTubeの建築情報学会チャンネルをチェック、もしくは会員
として参加いただき建築情報学会WEEKのセッションのみならず会員限定コンテンツを視聴い
ただけたらと思う。
 

杉原 聡 氏

コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 代表