新しいツールに触れる旅
2025.02.10
パラメトリック・ボイス GEL 石津優子
Houdini×3Dプリント
最近、Houdiniを使って3Dプリント用のデータを作る機会が増えてきました。製造用に強い
CADであるRhino、Fusion、無料ソフトのBlender、といった様々なソフトウェアでも3Dプリ
ント用のデータをつくることができますが、「なぜわざわざ映像用のHoudiniを3Dプリントの
データつくりに使うのか」と質問を受けることが多いため、ここでは私が感じるHoudini×3D
プリントの魅力と、専門ツールを使わず要素技術を探索してみて応用できるものを見つける楽
しみについても書いてみたいと思います。
Houdiniとの出会い
私がHoudiniに初めて触れたのは、7~8年前のことです。当時、映像やアート系のクリエイ
ターがHoudiniを活用しているのを見たり、特に仲の良い友人が使い始めたのをきっかけに、
チュートリアルなどに触れてみました。しかし、当時は使い続ける機会がなかったため、深く
学ぶことはできませんでした。ところが、昨年からワークショップでHoudiniを教える機会を
得たことで、改めてこのソフトに向き合い、実践的に学ぶようになりました。Houdiniなんだ
かとても面白そうだけど、自分はどう使ってみようかなというのが課題でした。
3Dプリントのデータつくり
3Dプリント用のデータ作成は、通常2段階のプロセスに分かれます。まずは3Dモデルを作成
し、その後、スライサーと呼ばれるソフトで3Dプリント用のGコードを生成します。私の場合
は、Gコードから直接3Dプリンタをコントロールしながら表現を広げたいという意識があり、
あえてスライサーを使わず、自分でGコードを出力するという目的を持って取り組んでいます。
また、ラティス構造のような複雑かつ大規模なデータを扱う際、通常のCADでパラメトリック
モデルを作成すると、パラメータ変更後の形状更新に時間がかかるという問題がありました。
数値入力でモデリングできるCADの方が慣れているので、あえてHoudiniでつくってみるとソ
フトウェアに向き合うことを決め、3Dプリント用データの作成に挑戦することにしました。
普段慣れているCADから離れるのは決して楽ではありませんでしたが、ソフトウェアやプログ
ラミングを教える立場としても、自分自身が新しいものに触れて学び続けることは非常に大切
だと思うので挑戦しました。
Houdiniの特徴
Houdiniは、プロシージャルなアプローチでモデリングやデータ処理を行える点が大きな魅力
です。以下に、Houdiniならではの特徴をいくつか挙げてみます。
1. ノードベースのワークフロー
Houdiniでは、すべての操作がノードとして視覚的に表現されます。Rhino/Grasshopperや
Revit/Dynamoの場合、ビジュアルプログラミング上のジオメトリはソフトウェア上のジオメ
トリとは別物で、両者のデータのやり取りや「焼き込み」などの操作が必要ですが、Houdini
では、ノードを設置した地点でその時点のジオメトリが生成され、すべてがプロシージャルに
記録されます。
● 柔軟な改変と非破壊編集:
一度設定したパラメータやノードの組み合わせを、後からでも簡単に変更できるため、
設計途中のフィードバックや試行錯誤が容易です。また、元のデータを保持しながら
修正できる非破壊編集が可能なため、安心して作業を進められます。
ハードサーフェスモデリングといわれるものですが、Houdiniでモデリングをするトライをミ
ニ四駆のボディをつくることで試してみました。ベースのサーフェスを変えたり、サーフェス
のパターンを試したりと、柔軟な改変の部分の良さを実感することになりました。
2. 大規模なデータへの対応
複雑な形状や大規模なデータ、特にラティス構造のようなパラメトリックデザインにおいて、
Houdiniのプロシージャル手法は非常に有効です。
● リアルタイムなパラメータ変更:
スライダーやグラフを操作することで、モデルの形状が即座に変化し、視覚的な
フィードバックが得られます。従来のツールでは大きなデータセットの更新に時間が
かかることがありましたが、Houdiniなら効率的に処理できます。
例えば、サーフェスのパターンをu,vでつくる際によりスムーズなサーフェスをつくることが可
能です。u,vの分割数を上げると、その他のソフトウェアでは、スライダーやグラフをリアルタ
イムに動かせないので、荒い状態でスタディすることが多いですが、分割数を1000にしても動
くので、ビジュアルプログラミングの経験者は、このサーフェスのパターンをつくることから
始めてもらえると、良さが実感できると思います。
3. アトリビュートによるデータ管理
Houdiniには「アトリビュート」という概念があります。その他の多くのビジュアルプログラ
ミングは、ジオメトリとデータを別々に扱い、リスト操作によって情報を組み合わせるのが特
徴ですが、4段階のジオメトリそれぞれに属性を加えていくことができます。
● 多段階の情報管理:
Point、Vertex、Primitive、Detailの4段階で情報を保持できるため、各要素に対して
細かなデータ操作が可能です。
● VEXとの連携:
アトリビュートを元に、VEXを用いて並列処理で形状を生成することができ、独自の
カスタム処理や自動化が実現できます。
Growthのシミュレーションでパターンをつくった例ですが、さまざまアトリビュートを点に
与えることができるために、Growthパターンのスケールに色のアトリビュートを使ったり、
粗密をつけたりと、コントロールの方法の幅が広がりました。
パラメトリックなタイルパターンも、アトリビュートを用いてコントロールすることもでき、
大きなタイルパターンをつくる場合でも対応が可能で、今まで分割して作っていたものを全体
でつくることができ、建築的なスケールでの3DプリントやCNCをもちいた装飾のパターンを
コンピュテーショナルなアプローチで扱う際の親和性が高いです。
まとめ
他の製造用のソフトウェアでも3Dプリント用のパラメトリックデザインは実現可能ですが、大
規模なデータの処理やリアルタイムなパラメータ変更、さらにはプログラミングによるカスタ
ム処理といった面で、ジオメトリを細かくコントロールする必要があるデジタルファブリケー
ションとデザインを組み合わせの場面で、Houdiniの持つ独自の強みは非常に魅力的です。
私自身、普段の作業環境から一歩離れ、新しい表現方法に挑戦する中で、Houdiniの柔軟性と
パワフルなデータ処理能力に大いに刺激を受けています。普段、他のソフトウェアを使ってい
る人も、一度Houdiniを試してみると、リアルタイムフィードバックのスムーズさやデータ管
理の自由度の高さを実感できるのでお勧めです。今後も、Houdiniと3Dプリントの組み合わせ
が生み出す新たな可能性を探求し、さらなる表現の幅を広げていきたいと考えています。もち
ろん、Houdini自体は3Dプリント専用のツールというわけではありません。専用のツールを使
うと簡単で楽ではありますが、専門ではないツールを用途を拡張するように試行するというの
も建築ならではの楽しみ方なのかもしれません。
Rhino、Revit、Fusion、Blender、Unityといった様々なツールを使い分けて仕事をしており、
どのソフトが優れているという話ではなく、それぞれに良さがあり、その組み合わせを目的に
応じて使い分ける能力が私たちのような建築テックの人たちに必要だと感じています。使い慣
れたソフトから少し離れる時間は、いつもの何十時間もかけて他のソフトならすぐにつくれる
のにも関わらず学習時間をかけて取り組む行為で、新しくプログラミングやソフトウェアを学
ぶ人たちの気持ちに寄り添うことにもなり、技術面以外の気づきも多いので、この気持ちを思
い出す時間を定期的に持てるようにしたいです。